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目覚めるユメとチヨコレイト・ブラック


 そしてデートの待ち合わせ時間、空が紅く染まり始めた頃。


 待ち合わせの30分前から勇芽はベンチで待っていた。


 そして約束の時間の5分前に譲は現れた。それを先に見つけた勇芽はさっと離れた。


「勇芽はまだ来てないのか」


 譲は待ち合わせ場所を見渡して言った。


「ごめーん、待った?」


 勇芽はいけしゃあしゃあと後ろから現れて言った。


「いや、ちょうど今来たとこ。いや、勇芽もうちょっと先に来てただろ。このやりとりをしたいために今来た風に見せかけただろ」


 譲の言葉を聞いて勇芽の胸から幸せが溢れた。譲は私のことをちゃんと分かってくれると勇芽は思えた。


「だって、こういうのやってみたかったの」


 勇芽は舌を出していたずらっぽく笑った。


「そもそも、家が隣なんだから家の前で待ち合わせれば良かったんじゃ?」


「私、智嫌い」


 勇芽はくちびるを尖らせてほっぺたを膨らませた。


 そんな勇芽に譲は思わず「なんか今日の勇芽、いつもより綺麗だな」と言ってしまった。


「譲、最初に言っておくけど、今日は私が智のことなんか考える暇がないぐらい幸せな日にしようね」


 勇芽は幸せそうに言った。


 譲と勇芽は桜並木の下で手を繋いで出店を回った。


 譲と勇芽にとってかけがえのない楽しい時間だった。


「ねえ、譲。(あけぼの)って憶えてる? 中学で一緒だった」


「ああ、それがどうした?」


「曙の家って居酒屋やってるのよ。出店で接客やってるらしいから寄ってかない?」


 そうして譲と勇芽は『居酒屋あけぼの』へと向かった。


 (あけぼの)藤花(とうか)は店の前で父親と唐揚げとビールを売っていた。


「あら、池田と八縁じゃない、ひさしぶり。二人ともデート中?」


 曙は譲と勇芽を見て言った。



「まあね」


 勇芽が答えた。


「おい、籐花。友達か? ちょっと休憩していいぞ」


「ありがと、父さん」


 曙はそう言うと店から離れた。


「曙、そういえば空に変なもの見えたりしてない?」


 勇芽はふと気になり聞いてみた。


「実は…… 地球っぽいのが見えたって言ったら信じる?」


 曙は空を見てそう答えた。


「もしも、俺達も見えるって言ったら信じる?」


 譲は興味を強めた。


「えっ、みんなも見えるの? あれ」


 小学生ぐらいの男の子が空の地球を指差しながら会話に入ってきた。


「星しかないだろ」


 その子より一回り大きくてそっくりな男の子がそう被せた。二人は兄弟だ。


「もう、渡、進、ホント小学生は元気いっぱいでうらやましい。あれっ、池田に八縁? デート中だったわね。こら、二人とも行くわよ」


 そう言って近寄ってきたのは譲や勇芽と同じクラスの大月だった。


「そんなに気を使わなくていいよ」


「あら、そう」


 大月は譲の言葉に少しホッとしたような顔をした。


「この人は同じクラスの大月っていう子なの、こっちは中学の頃の友達の曙」


 勇芽が二人の事を紹介する。


 大月は「ご丁寧にどうも」と勇芽に軽く頭を下げた。


「ねえねえ、姫。ここの人たちみんなあれ見えるんだって」


 小さい方の小学生が空を指差した。


「だから、なんにもないって」


 大きい方の小学生はそれを否定した。


「えっと、こんな少年に姫呼びさせてるんですか?」


 曙は少し引いたような口調で言った。


「姫は私の名前よ。大月 姫。ほら、二人とも自己紹介しなさい」


「ボクは石切(いしきり)(わたる)。小学四年生」


「オレは石切(いしきり)(すすむ)。小学五年生」


 渡と進はそれぞれ自己紹介した。


「二人はいとこなの」


「いとこじゃなくて友達」


 大月のいとこ呼ばわりを渡は修正した。


「で、あれ見えるの?」


 大月の確認にこの場にいる進以外の全員がうなずいた。


「どう思う?」


 大月は抽象的な質問を投げかけた、


「光の屈折か反射か何かだと」


 大月の言葉に譲と勇芽はうなずいた。


「そうじゃなくて、何か見てると変な感じにならない? また頑張ろうみたいな」


 大月は上手く言葉に出来ないようだった。


「うーん、なんだろ。なにか物足りないみたいな感じがするようなしないような」


 曙も上手く言葉に出来ないみたいだった。


「数年前隠したへそくりがふと出てきそうな予感?」


 勇芽は首を傾げながらそう言った。


「財布を落とすような嫌な予感?」


 謙も首を傾げながら言った。


「誰かが困ってたら頑張って助けなきゃいけない」


 渡は空の地球を見て言った。


「なにが見えてるんだよ? だいたい見えたから何なんだよ」


 進は不機嫌そうに言った。


「それもそうなのよね。あっ、唐揚げください」


 そう言って大月は『居酒屋あけぼの』へと向かった。


「じゃあ、私たちも買おっか」


 勇芽は楽しそうに微笑んだ。


 そして買った唐揚げを勇芽は謙の口に押し込んだ。


 譲は唐揚げを食べきると「おい、いきなり何するんだよ」と怒ったように笑ったように幸せそうに言った。


「だって、こういうのやってみたかったの」


 勇芽はいたずらっぽく笑った。


 渡が謙の足を力任せに蹴った。


「イッタ」


 謙は不意の蹴りでバランスが崩れ、転んだ。


「えっ、大丈夫。謙?」


 勇芽はしゃがんで謙の肩をつかんだ。


「大丈夫、ちょっとバランスを崩しただけ。どこも痛くない」


 謙はそう言って笑った。


「えっと、あのごめんなさい」


 蹴った渡の兄である進が謝った。


「あんたが謝っても意味ない」


 勇芽は冷たく言った。


「こらっ、何するの? だめでしょいきなり人を転ばせて、謙が何かしたの? それともついやっちゃったの? ねえ、どうしたの」


 大月は屈んで渡の目を見て言った。渡は目を逸らそうとした。


「何も言わなきゃ分かんないでしょ。どうして蹴ったの? 怒らないから言ってみなさい」


 大月は静かで厳しい口調で言った。


「その、イライラして…… 蹴った」


「なんで、イライラしたの?」


「えっと、二人が笑顔で…… その」


「私に惚れて謙に嫉妬したとか?」


 勇芽は渡を睨みながら言った。渡は目を逸らした。


「へぇ、図星なんだ。謙、どうする?」


 勇芽は不機嫌そうに謙を見た。


 謙は空の地球を見ながら考えた。蹴り返してやるか、怒鳴ってやるか、謝罪を求めるか、そう考えていたら智の顔が出てきた。


 智に恥ずかしくない行動をとらなければいけない。謙はそう思い立ち上がった。


「良いキックだった。そのキック二度と人に向けるなよ。さっきは転ぶだけだったけどタイミングが悪かったら大怪我してもおかしくなかった。それが約束できるなら俺は許すよ」


 謙は渡の頭に手をおいた。


「ごめんなさい。もうしません」


 渡は涙ぐんで言った。


「信じるぞ」


 謙はそう言って渡の頬に手を当てた。渡は大きくうなずいた。


「行こう」


 謙はそう言って勇芽の手を引いて渡から離れた。


「譲は優しすぎるよ。怒るときはちゃんと怒らなきゃ」


 そう言う勇芽は怒っていた。


「出来ないんだ。そういうの」


 謙のつぶやいた言葉で勇芽は気がついた。謙が一度も何かに対して怒っているのを見たことがないのだ。


「えっ、それって生まれつき?」


 勇芽はつい聞いてしまった。


「いや、違うよ。小さいときはあった、ちゃんと怒れた。それでよく叱られた。いつだったかな、小学校に入る前にさ公園でブランコを年上の子が譲ってくれないからってさムカついて殴りかけた事があるんだよ。そのとき智が止めた。泣きながらダメだって。それ以来、怒れないんだよね」


 謙はどこか寂しそうだった。


「ふざけんな。今日は智のことを忘れさせてくれるって言ったじゃん。なのに、そんなヘビーな話を聞かされて祭りが満喫できるか!!」


 勇芽は謙に怒ったような呆れたような口調で言った。

 

「いや、言ってはな……」


「口答えする気?」


「すいません」


 勇芽の怒気に押されて謙は謝った。


「このお祭りって花火あがるじゃない。良いスポットがあるのよ。ちょっと歩く必要があるんだけど」


 勇芽はいたずらっぽく笑った。


 そして二人は40分ほど北此糸公園へ向かって歩いた。


 北此糸公園のベンチで誰かが横になっているのを謙と勇芽は見つけた。それは智だった。


「えっ、謙、勇芽? なんでここに? お祭りの方へいるんじゃないの?」


 智は二人を認めると立ち上がり大げさに驚いた。


「あ、こうなるの」


 勇芽は呆れたような疲れたような声を出した。


 謙はつい勇芽に()()()した。






 勇芽は驚いて後ずさった。勇芽は何かに足を滑らせた。


「「勇芽、大丈夫?」」


 謙と智は勇芽に駆け寄った。



「なんか落ちてた、痛くないよ。これ、なんだろ?」


 勇芽がそう言って拾ったのはガラスみたいに透明な蝙蝠の様な形をした何かだった。


「えへっえへへへへへへへへへへへ」


 急に勇芽の表情が不自然に崩れ笑いながら泣き始めた。


「おい、どうした勇芽」


 謙は叫んだ。


「私はイサメじゃない…… いや、イサメだった。だけど、イサメじゃない。そうだ、私はユメだ」


 そしてユメが目覚めた。


 イサメだったユメと名乗る存在は苦虫を踏みつぶしたような顔で「ふざけんじゃねーぞ」と叫んだ。


「おい、どうしたんだ?」


 そう叫んだ謙をユメは蹴った。蹴られた謙はベンチまで飛んでいった。


「謙!?」


 智は謙が蹴り飛ばされた方へ走った。



「えっと、今のは誰だ? あれが智だから…… あれが謙? えっ、あれが謙?」


 ユメはまるで信じられないとばかりにそう言うと自分の口に手首まで入れた。


「何やってるの?」


 智は叫んだ。



 すると紫色のドレスを着たユメがユメの口から出現した。口からユメを出した方のユメはゲロをまき散らしながら後ろに倒れた。


 ユメが着ている紫色のドレスはゲロで汚れた。


「よくも私を汚してくれたな」


 ユメは倒れているユメの顔を踏みつけた。


 それを見た謙は体の痛みも忘れて立ち上がり走り出した。


「やめろ」


 謙は叫びながらユメにタックルした。


「邪魔なんだよ」


 ユメの手のひらが黄金の炎に包まれた。

 その黄金の炎は謙の腹に燃え移った。


 謙は泣き叫ぶ。これまで経験したことがないほど痛かったのだ。まるで何度も何度も無数の針に刺され続けているような痛みに叫ぶことしかできなかった。


 智は持っていたペットボトルに入っていた水を燃えている謙の腹にかけた。


 黄金の炎は少しも弱まらなかった。


「謙? 大丈夫?」


 智はそう呼びかけるが謙は悲鳴しか返さない。


「申し訳ない。遅くなった」


 ピンク色の仮面をつけた怪人が現れた。


「久しぶりね。ピンク仮面。そうね、死んで」


 ユメはそう言うと手を高く掲げた。


 空の地球から黒い光がユメの手に降り注いだ。その光は黒い槍へと変化した。


「黒騎士の槍か」


 ピンク仮面と呼ばれた存在は指からピンク色の光を放った。その光は矢の如き速度でユメに飛んでいった。


 ユメは黒騎士の槍でそれを防ぐ。そのタイミングでピンク仮面は謙の前に現れた。


 ピンク仮面が謙の腹に触れると黄金の炎は消えた。


「ありがとう」


「申し訳ない。その感謝を受け取ることは出来ない」


 謙の感謝をピンク仮面は断った。


 黄金の炎がユメの足下から広がっていった。その黄金の炎は倒れているユメも燃やした。


「よくも、イサメを!!」


 謙は激昂してもう一度ユメに攻撃しようとしたときピンク仮面が「よせ」と言った。


 謙は何故か毒気が抜かれたように座った。ピンク仮面に任せれば大丈夫だと思ってしまったのだ。


「ねえ、死んでよ。ピンク仮面。ずーっと考えてたんだよ。私がどうしたいのか。ようやく分かったんだ。葬式だよ、葬式。あなたの葬式を開けばいいんだ。そこで何人泣いてくれるかな? それを考えると不思議と笑いが止まらないんだよね」


 ユメは笑いながらピンク仮面に向かって黒騎士の槍を振り回した。その笑顔は勇芽の物とは明らかに何かが違っていた。


「申し訳ないが、私はまだ死ぬわけにはいかない」


 ピンク仮面は黒騎士の槍をよけながら言った。


「あっ、あれを壊せばみんな悲しむね!」


 ユメは倒れているユメに向かって黒騎士の槍を投げた。


 ピンク仮面は槍の射線に入った。ピンク仮面の胸に深々と黒騎士の槍が刺さった。


「ユメ! なんて事を? 今やったことがどういう結果をもたらすのか分かっているのか?」


 ピンク仮面は怒った。


「分かってるよ。上手く行けばみんな悪夢に染まる。そうじゃなきゃピンク仮面に大ダメージのはずなんだけど思ったよりピンピンしてるな。化け物じゃん」


 ユメは笑った。


「申し訳ない、謙・智。力を貸してくれ」


 ピンク仮面は胸に刺さった黒騎士の槍を撫でた。すると黒騎士の槍は消滅して痛々しい穴だけが残った。


「なにをすれば勇芽が戻ってくるの?」


「任せろ」


 智と謙は即答した。


「まあ、当然の流れね。だけど、それを黙って見過ごすとでも?」


 ユメは好戦的に笑ってピンク仮面に近づいた。


 半透明の壁に遮られ近づけなかった。


「申し訳ないが、邪魔しないでもらおう」


 ピンク仮面は叫んだ。



「この腕輪を右手首に付けてくれ」


 ピンク仮面はそう言って二つの黒い腕輪をどこからともなく取り出した。


 その腕輪はドーナツぐらいの大きさで手錠のように一部が開いていた。


 謙と智はピンク仮面に言われるがままに腕輪を付けた。


「その腕輪をあの空の地球に向かってかざしてくれ」


 ピンク仮面の言葉どおり空の地球に腕輪をかざすと、空の地球から黒い光が降り注いで謙と智を包んだ。


「面白くなってきたじゃない。来な、アキヤラボパ」


 勇芽がそう叫ぶと勇芽の手のひらから黄金の炎が放たれそれが徐々に鳥の形へと変わっていった。


 そして黄金の炎は石の羽を持つ鳥、アキヤラボパへと変わっていった。


「名前を聞いておこうかしら、お二人さん」


 ユメは笑った。


 謙と智は黒いアーマーに身を包んでいた。


「チヨコレイト」


 二人は同時に叫んだ。


 そしてその名を名乗ることに何故か違和感を憶えてある言葉を付け足した。


「ブラック」


「チヨコレイト・ブラック。妙な名前になったものね」


 ユメは高らかに笑った。

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