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衝突する夢と現実

いろいろと語りたいことはありますが全ては活動報告で

 夢うつつ、起きているんだか寝ているんだか分からない。まさに彼はそんな状態だ。


 彼は誰かに人間なのかと聞かれる。その声は聞き覚えのない声で、妙な安心感があった。


「まあ、そうですよ、あなたは違うんですか?」


 誰かは笑みを浮かべ、他人行儀を止めてほしいと彼に頼む。


「あー、はい」


 誰かは彼の名前を聞いてきた。


「俺の名前は八縁(はちえん)(ゆずる)。あなた、じゃなくて、君の名前は?」


 誰かは譲の名前を褒める。そして自分には名前がないと言った。


「じゃあ……」


 誰かは譲の提案を手で制す。誰かは譲に名前を付けられるのを拒んだのだ。


「そういえばここってどこなんですか? 見覚えがある気がするんですけど、どうにも思い出せなくて、こんな派手な桃色の布団なんて一度見たら忘れないだろうし」


 譲はそう言って、座っている布団を撫でる。


 誰かによると、ここは誰かの部屋でそれ以上でも以下でもないらしい。誰かは譲に悩みがないのか聞いた。


「占い師みたいなことを言うんだな」

 彼はそう言って笑う。すると誰かも笑って健全な青少年というものは悩みを抱えてているのだと言った。


「悩みね、まあ、ないって言ったらウソになるよ。昨日、高校二年生になったんだけどさ。双子の妹が俺に甘えてくるのよ。それが過剰でさ。ホント、心配」


 誰かは驚いた。譲が甘えられる事そのものは問題に感じていないように感じたからだ。


「まあね、生まれた時から一緒にいてさ、(さとり)が、妹が極度の人見知りだってことも知ってるし」


 智でいい、まとまった言葉じゃなくてもいいから思った事を全て話してくれと誰かが言う。


「母さんの腹の中から一緒でさ。ずっと俺を見てくるんだ。双子の妹に見られながら育ってさ。悪いこと何もできなかったよ」


 譲は涙ぐんだ。


「智に見せたくない自分にはなれなくてさ。そういう意味ではとっても感謝している。智がいなければ俺はとんだクズになってたはずだから、智を尊敬しているといってもいい」


 誰かは黙って頷く。


「ただ、それは智を犠牲にしているんじゃないかって不安で、双子だからってこれから社会に出てもずっと一緒にいられるとは思えない。同じ高校には通っているけれど大学はたぶん離れるだろうし、というか学力は明らかに智の方が高いし俺に合わせて低い学校を受けるとかなったら嫌だし、その後も怖い」


 誰かは譲の頭を優しく撫でる。


「いつか俺と離れ離れになったら智は立ち直れるかな。だって人間いつ死ぬか分からないし」


 誰かは譲の話を贅沢で切実な悩みだと評して泣いた。


 誰かは譲に遺書を書いておくことを勧める。責任を背負うことも時には必要だと。


「遺書か、良いね。ちょっとだけ楽になれそうだ。悩みついでにもう二つ悩みを話させてくれ」


 譲は涙を拭いてほほえみを浮かべる。


 譲の話したいことならば何でも聞くと誰かは言った。


「じゃあ、すっごい恥ずかしい話なんだけど、好きな人がいるんだ。幼なじみで、ずっと一緒で隣の家に住んでいて、同い年で、同じ高校で智の次に近くにいて、恋してるんだ。池田(いけだ) 勇芽(いさめ)に」


 勇芽という名前を聞いて誰かはじっと考え込む。


「勇芽がどうかしたんですか?」


 気にしないで続けてくれと誰かは言った。


「勇芽とは本当にずっと一緒でいつから好きだったのか分からないくらいに大好きなんだ。次の祭りの日、告白しようと考えているんだけど、もし拒絶されたら…… 怖くて」


 このままの関係を続けて疎遠になっていくのは怖くないかと誰かは問いかける。


「それも嫌だ」


 恐怖と戦えるの勇気だけじゃない、怯えながら進む日があってもいいと誰かは笑った。


「そうだな。本当にありがとう () () ()


 譲は満足げに笑う。


 確かもう一つ悩みがあったのではないかと誰かは聞いた。


「いや、どうでもいい悩みだから、もう満足したし」

 照れくさそうに恥ずかしそうに譲は話したがらなかった。



 誰かは最後の悩みを話してほしいとお願いした。


「あー、本当にありふれたどうでもいい話なんだけど、将来どんな人間になるのか上手くイメージできないってだけの話」


 誰かはこれまでで一番真剣な顔でどうでもよくないと言った。


「えっ」


 その話はありふれているが重要な話だと誰かは言った。


「いや、そんな大げさな」


 誰かは心の底から熱中できるものがないというのが問題だと指摘した。


「まあ、確かにそんなものはないけど、部活…… 美術部も楽しいけれど卒業してからも人間関係も趣味としても続ける気はしないけども」


 確かに焦る問題ではないと誰かは言った。それを見つけるのは君の人生のテーマだからゆっくり真剣に探していくようにと……


 譲は急に頭が閉まるような感覚に陥る。


 譲はその感覚が眠気だと分かると、もうちょっとだけ起きていたい、もうちょっとだけ誰かと一緒にいたいと思いながら目を閉じてしまった。



 誰かは彼をユメが見たら絶望するだろうと呟く。


「譲ちゃん、そろそろ時間だよ。起きなさい、お姉ちゃんの言うことが聞けないの? プンプン、いつからそんな反抗期になっちゃったの。お姉ちゃん悲しい」


 譲の耳元でささやく声があった。


 ここは譲の部屋、いるのは八縁 譲とその双子の妹の八縁 智だけだ。


 譲は少しずつ頭を開くように目覚めていった。誰かとの会話が夢の中の出来事だと分かり現実に脳のピントを合わせた。


 譲は挨拶の代わりにわざとらしい大あくびをする。


 智は真似して大きくため息をついた。


「こんなにギリギリになるまで起きないでお姉ちゃんを心配させるなんてなんて悪い子に育っちゃったの?」

 智はそう言ってまた、ため息をついた。


「俺が兄だからな」


「戸籍上、出生上、生まれた順、その他世間一般の常識では譲が兄だというのは認めましょう。だけど私の常識の中では私が姉なのです。これはどうやっても覆らないのです」


「なんだそりゃ」


 そう言って譲は学校へ行く準備を始める。


 譲と智の両親はとうに会社へと出ていた。


「これで準備万端かな」

 誇らしげな譲に智は背中からシャツが出ていることを指摘した。


「ありがとう智」


「お姉ちゃんにまっかせなさい」

 智は満足げにほほえむ。


 譲と智が家を出ると、ちょうど隣の家からも少女が出てきた。彼女は池田勇芽。八縁兄妹と同じ学校に通っている同い年の幼なじみだ。



「あっ、イサメンおはよ。ちょうど一緒の時間だね」

 智はそう言って勇芽に手を振った。ちなみにイサメンとは勇芽のあだ名だ。


「本当に智ちゃんは朝から元気だよね」

 少し疲れたような声で勇芽が言った。


「いっつも譲と一緒にいるからね」


「本当にベッタリしすぎなんだよ。今日も寝起きに耳の間近で囁いて起こしたんだぞ」


「それでこそ、譲と智でしょ」

 勇芽はそう言ってほほえんだ。


 三人は自転車を学校に向けて桜並木の下を走らせた。


 三人が通う此糸高校では昨日、新学期のクラス分けがあり譲と勇芽は三年ぶりに同じクラスになり二人は多少緊張していた。その緊張は一人違うクラスの智にもうつっている。


「来年は受験生か、なんか実感わかないな」

 譲は風に舞う桜を見て呟いた。


「そうね、来年も三人で桜を見ようね。たとえ今と同じ関係じゃなくなっても」


 勇芽は意味ありげにほほえんだ。


 そして三人は学校に着き新しい級友と授業を受ける。といっても新学年最初の授業で先生の自己紹介だけで終わる授業がほとんどだった。


 その間に三人の過ごしている此糸市に大きすぎる異変が起きていた。だが、三人ともそれにはすぐには気がつかない。

千代此糸の舞台は此糸市、これはどうやっても覆りません

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作としての改めての投稿ですね。 執筆頑張ってください。 ちょくちょく立ち寄らさせて頂きます。
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