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最強パーティーを追放された女勇者様を嫌々護衛していきます

作者: 黒塗

「もう我慢出来ねえ!

お前はパーティーから出て行け!」


「何よ!私は勇者よ!

文句があるなら貴方が出て行けば良いじゃない!」


薄暗い洞窟の中で強面の髭面が怒鳴る。

それに呼応して、ミディアムヘアの美少女も怒鳴る。

2人の反応に3人の男女がビクッと身体を一瞬硬直させた後、各々が行動を始めた。


「ま、まあまあダルクさん。

少し落ち着きましょう、まだダンジョンないですし声で魔物が集まってきちゃうと危ないですから」


エルフの男性が髭面の男を羽交い締めにして止めた。


「リサちゃん、ダルクさんは短気だから一旦落ち着こ?貴女も一緒に怒ったら収拾がつかないわ」


十字架のネックレスを付けた女性が両手を広げて美少女の前に立つ。


「はぁ、2人とも頑張れ。

俺も頑張るから…頑張るぞ、俺。

ダークニードル」


黒色のローブを纏った男性が溜息を吐きながら4人の様子を見ずに近付いてくる魔物に魔法を放つ。


彼らは勇者パーティー。

元々、類い稀ない屈強な肉体を持つ髭面の男をリーダーとして探索技術が高いエルフと補助系魔法のエキスパートの女性の3人だけで過去に最強種ドラゴンを倒した生きる伝説だ。


近い内に復活すると予言された世界を我が物にしようとする魔王に対抗するために、とある国が異世界から召喚した女勇者のリサと、その国で宮廷魔術師をしていた男は魔王を倒すために最強のパーティーに加入した。


コレで魔王も直ぐに倒せるだろうと誰もが思った。


しかし、召喚された勇者は戦闘技術が皆無。

初めは嫌々ながら魔物と戦っていたが勇者としての力が膨大で何度も魔物を倒していく内に調子に乗った。


ノリに乗りまくった。


洞窟内で何も考えずに高火力の魔法を出して危うく生き埋めになったり、皆の助言を聞かずに戦いを避けたほうが良い魔物に攻撃したり、見え見えな罠に引っかかったりと…色々と残念なことになっている。

その全てを勇者スペックの力技で解決してしまうものだから、本人は行動を改めようともしない。


結果、パーティー内の空気は最悪。

魔王討伐どころか今のパーティーでは過去に倒したドラゴンにも負けてしまうだろう。


我慢の限界に達したリーダーの髭面、女勇者のパーティー脱退を要求。

それに対し、ダンジョン内で2人の争いを止めていたエルフと女性反論は特に無く、ダンジョンから脱出直後、女勇者は最強パーティーから追放された。


「後から戻って来てください!って、嘆いても知らないんだからね!」


「言うわけねえだろクソ女!」


「まあまあ落ち着いて」


「リサちゃんゴメンね?ダルクさんには恩もあるからパーティーから離れられないの…

これから1人になるけど頑張ってね、応援してるわ」


女勇者は相対する4人から顔を背け、1人去っていった。


「厄介者が消えて気が楽になるな」


「まあまあ、彼女も悪気がなかったわけですから」


「悪気がない分、タチが悪いわよ全く」


元々パーティーを組んでいた3人には安堵の表情が浮かんでいた。

だが、そうでない魔術師が1人。


「すみません、俺もパーティーから抜けさせてもらいます」


「「「えっ!?」」」


3人は慌てて魔術師に駆け寄った。


「何を言ってるんだ!

お前はもうこのパーティーに必要不可欠な存在だ!」


「ま、まあまあ、落ち着きましょう?

リーダーの言う通り貴方のサポートは必要です」


「そうよ!私の手が届かないところへの絶妙な補助は勿論、魔法の火力もある貴方が抜けるのは困るわ!」


必死に魔術師の良いところを挙げる3人だが、魔術師の心は変わらないようで…


「申し訳ない。俺には国からの命令もある…

国に戻って元の仕事もしないといけない」


魔術師の真剣な声色から髭面は渋々ながら頷いた。


「分かった。お前と俺ら3人なら魔王でも簡単に倒せると思っていたが宮廷魔術師だもんな。仕方ない!

俺らは俺らだけの力で魔王討伐を目指すさ」


そういって髭面は魔術師に手を差し伸ばした。

魔術師は手を取り、頭を下げ感謝の言葉を口にした。


「ありがとうございます。

貴方達との冒険の日々は凄くタメになりました。

この経験を活かして精進していきます」


「じゃあ魔王を討伐した後は酒でも奢ってくれよ?」


「勿論です!」


魔術師はそのまま残り2人とも言葉を交わした後、円満にパーティーを離脱して女勇者と同じ方向へ走って行った。


「魔術師の癖に足も速いな。

もう見えないぜ?まあ、あのペースなら直ぐに近くの街に着いて馬車でも使って国へ帰れるだろう」


「あれ?…不味いわ!」


「ん?どうした?」


「ここから1番近い街は逆方向よ!

あっちは未だに開拓が進んでいない果てなき魔の森!」


「んな!?直ぐに追いかけるぞ!」


走り出そうとした髭面をエルフが止める。


「待ってください!あのスピードを全員で追うのは無理です!」


「なら、俺1人で行く!」


「ダメです!果てなき魔の森にはドラゴンが複数体発見されていて危険です!それに彼なら街がないと直ぐ気付いて戻ってきますよ!」


「…そうだな」


その後、空が暗くなるまで魔術師が戻るのを待った3人だったが、森の中で方向感覚が少しズレたのだろうと結論付けて街へ帰っていった。


そして街で魔術師が戻るのを数日待ったが、強力な魔物が現れたと言う話を聞き、街を後にした。


ーー魔術師視点ーー


リーダー達から離れた俺は魔の森の真ん中でウンコ座りをして息を吐いた。


「はぁああ疲れたぁああ」


そして気持ちを少し整理してから立ち上がった。


「さて、面倒な任務を続けるか」


俺は魔力探知で見つけた女勇者の元へ向かった。


しばらくすると怒鳴りながら、その声に呼び寄せられる魔物を強大な魔力を纏った斬撃で切り裂いていく勇者の姿が見えた。


「やっぱり勇者様がいないとダメでした戻ってきてください!とか言ってきても絶対許さないんだから!」


「わぁ、流石勇者様だぁ」


ドン引きしながら思ったことが口に出た。


「でも、こんな風に戦ってたら直ぐに魔力の底が…

あぁ、言わんこっちゃない!」


魔力の欠乏により勇者が倒れてしまい集まった魔物達はチャンスとばかりに襲いかかる。


「くそ!俺は勇者みたいに強くないんだぞ!

なんで守らなきゃいけないんだ!」


俺は悪態を吐きながら勇者の隣に立ち、魔法で魔物の迎撃を始め…ない!


「オラ!目眩しだ!」


地面に向けて魔法を放ち煙が舞う。

風魔法で煙を吸わないように空気をコントロールして勇者を抱き上げる。


「山育ちで鍛えた逃げ足を見せてやる!」


そして1番動きが鈍い牛のような魔物の横を抜いた。

ドヤ顔で魔物を見る。


「へっ!ノロ…何だよそれ!?ぶぶぁっほ!」


魔物のケツから炎が吹き出し俺は炎に襲われる。

身体強化魔法を咄嗟に発動する。

焦って魔力を込めすぎたのかいつも以上に力が出てしまい逆にコントロール出来ずにコケそうになるのを何とか耐えて走り続けた。

何とかその場から遠く離れることに成功した。

土魔法で地面をならして空間魔法からレジャーシートと枕を出して敷いてやり、勇者を寝かせて毛布をかけてやってから俺は横に座り込み呼吸を整える。


「はぁっはぁっ」


くそ!お気に入りのローブが炎のせいでボロボロだ!


あんな牛が炎を吐くなんて普通思わねえよ!

しかもケツから!

オナラが引火でもしたのかよ!

ギリッギリのところで身体強化魔法が間に合ったから軽傷で済んだけど、何もしなかったら良くて全身火傷、悪くて死だぞ!


「すぴーすぴー」


息を整えながら、心の中で悪態をついていると勇者の寝息が耳につく。


「この!お前のために命懸けで頑張ったのに気持ち良さそうに寝やがって!胸でも揉んでやるぞ!」


「んにゃ!」


手をわきわきさせて近付くと勇者は寝返りを打ち、俺の頭に拳が当たった。


「んぐあっ!こ、こいつ!

いつも思ってたが寝相が悪過ぎるぞ!

毛布もどかしやがって!」


頭を抑えながら改めて勇者を見る。


「…やっぱりコイツ凄い可愛いな」


黙っていれば文句無しの美少女なんだよなぁ。

程よく肉つき艶めかしい足から、絹糸で出来ているのかと思う茶髪まで、全部が俺の好みだ。

いくら見てても飽きないな。


「ん〜」


「あ、寝返っちゃった。

はぁ、仕方ない風邪を引かれても困るし毛布をかけるか」


勇者に毛布をかけてやり思案する。

早く街に行きたいところだが夜になってしまったから今日はココで過ごすしかないな。

勇者を抱えたまま強力な魔物がひしめき合う森から街へ向かうなんて自殺行為はしない。


「とりあえず土魔法でバリケードを作ってっと…

うん、今日はオールだな」


コーヒーのストックあったかなぁ。


「って、魔力が少なすぎて空間魔法が発動出来ない?

はぁ、魔力が回復するまで水も無しだな。

つっても回復する頃には朝になってるな」


まあこんな状況でのオールなんて何度も経験しているから文字通り朝飯前だ。

必要最低限の思考を削ぎ落として朝を待とう。



足元に何かが近付いているのを察して見てみると、勇者の水筒が足元に落ちている。

チラリと勇者を見るとまた寝返りを打ったようだ。

相変わらず凄い寝相だ。


俺は再び思考を削ぎ落とした。


ーー時は少し遡り女勇者(リサ視点)ーー


「もう!ほんっとに最悪!

なんで私が抜けなきゃいけないのよ!私は勇者よ!」


この世界に来てから身についた尖った言葉を口にしながら近付いてくる魔物をほぼ反射で薙ぎ払う。

こんな反射、身についたところで地球じゃ使う機会なんてほぼないし、本当に嫌になる。


だから私は一撃の威力を高めるべく剣を振るう。

戦闘技術なんて身につけたくない。

魔王も一撃で倒せるように剣を振るう。

まだ復活すらしてないのに召喚された腹いせに。

魔物をドンドン呼び寄せて剣を振るう。

倒した魔物の数だけ帰還へと近づくから。


「やっぱり勇者様がいないとダメでした戻ってきてください!とか言ってきても絶対許さないんだから!」


怒鳴りながら剣を振るう。

この怒りを自分以外に向けないと弱い私は潰れちゃう。

そんな自分を誤魔化しながら剣を振…あぶない!


魔力切れ?ほんの一瞬だけど意識が飛ん…なに!?


なんで私お姫様抱っこされてるの!?


「山育ちで鍛えた逃げ足を見せてやる!」


え!?ていうか、魔術師!?

なんで!?あと口調!なにそれ!?

貴方いつも丁寧な言葉遣いだったじゃない!


「へっ!ノロ…何だよそれ!?ぶぶぁっほ!」


あっぶな!?

なにスピード緩めてドヤ顔してるのよ!

私が身体強化の魔法を掛けてあげるのが少しでも遅れてたら危なかったわよ!

というか、キャラ違くない?

なに?今まで猫かぶってたの?


色々なことがあって、頭がパンクしそう…


「はぁっはぁっ」


こいつ…息も絶え絶えなのに私の寝床を先に整えた?

いや、たしかにいつもやらせてたことだけど。


…まさか!私を襲う気ね!

寝たフリをして様子を見て不意打ちしてやる!


「すぴーすぴー」


我ながらワザとらしい寝息だ。

少し抑えようかな?


「この!お前のために命懸けで頑張ったのに気持ち良さそうに寝やがって!胸でも揉んでやるぞ!」


「んにゃ!」


やっぱり!

気を許して寝てたら危なかったわ!

へへん!鍛えた私の一撃に悶絶するといいわ!


「んぐあっ!こ、こいつ!

いつも思ってたが寝相が悪過ぎるぞ!

毛布もどかしやがって!」


なに?まだやる気?

起き上がって殴ってやろうかしら?


「…やっぱりコイツ凄い可愛いな」


わっつ?

いま、何て言った?

んぐっ何かジッと見られてる!恥ずかしい!


「ん〜」


「あ、寝返っちゃった。

はぁ、仕方ない風邪を引かれても困るし毛布をかけるか」


むっ、どうやら諦めたようね。

けど、まだ警戒は続けなきゃ。


「とりあえず土魔法でバリケードを作ってっと…

うん、今日はオールだな」


とりあえず大丈夫そう?


「って、魔力が少なすぎて空間魔法が発動出来ない?

はぁ、魔力が回復するまで水も無しだな。

つっても回復する頃には朝になってるな」


それってもしかして私のせい?

この枕や毛布なんかを出さなければ魔力は十分足りたはずだ。私が悪い?


…いや!こいつが勝手にしたことだ!

私のせいじゃない!自業自得よ!

というか、牛の魔物にドヤ顔をしなければ身体強化するまでもなく逃げ切れてたし!

いつも丁寧な感じで私を襲うタイミングを探ってたケダモノだし!


けど、まぁ、うん、ありがとう。

私の水筒を貸してあげるわ。


って、心の中までトゲトゲしてきちゃったな…

起きたら、ちゃんと感謝の言葉が言えるといいな。


そこで私の意識は途絶えた。


ーー時は少し進み魔術師視点ーー


「馬鹿じゃないの!?

なんで水を飲んでないのよ!?

私の水筒があるじゃない!」


「いや、だって、勇者様は潔癖症じゃないですか。

俺なんかが飲んだら嫌でしょう?」


「んぐっ」


少し掠れた声で勇者に応えると、ようやく口を閉じて黙ってくれた。


はぁ、起きたと思ったら直ぐコレだよ。


山育ちで貧乏だった俺を拾ってくれた王様から直々に言い渡された任務が無ければ、お前は俺に見捨てられて死んでたんだぞ?いくら顔や身体が好みの女だからって助けてやらなかったぞ?


まったく…王様も性格が悪い。


俺より強い勇者の護衛なんて任務、最初は意味がわからなかったけど。

コイツの不用心さは確かに守ってやらないと、格下相手にも負けかねないから必要だな。


肉体的、精神的にも不安しかないが、王様からの任務は死んでも遂行してやる!

頑張るぞ!俺!


「で、他の連中は?」


キョロキョロと周囲を見渡す勇者。


「いませんよ?」


「え?」


不思議そうな顔で勇者は俺を見た。

いやいや、あんな風になって直ぐに勇者を連れ戻そうとするやつなんているわけないだろ!

お前よくそんな顔が出来るな!?


「俺だけパーティーを脱退して勇者様を追いかけました」


驚きを表情に出さないように気を付けながら話す。


「…そう」


少し気落ちした様子で勇者は呟いた。

しかし、直ぐに吹っ切れた表情をして口を開いた。


「じゃあ!早く街に行くわよ!

近くの街はあいつらがいそうで嫌だから少し離れたところへ突き進むわよ!」


「それは良いんですが、街の場所は分かるんですか?

魔物から逃げるのに必死で方向感覚が狂ってしまったんですが…」


「貴方の魔力探知の広さは知ってるわ!

森ぐらい直ぐに抜けれるよね?

貴方自身がこんなところまで連れてきたんでしょ!?

責任を取って行く方向を示しなさい!」


「あ、はい」


頑張るぞ、俺。

あらすじにも書いたように、似た感じの設定の小説を読んでみたいなぁと思って書いてみました。

これぞ自給自足?

連載するかは分かりませんが、分かる人には分かりそうな伏線を張ったので気付く人がいるぐらいには読まれて欲しいなぁ…

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