裏にあった事情
「お二人の知りたいことを何でも仰ってください。まず何からお答えいたしましょうか」
文世さんはその言葉通り、前崎さんと彬文さんから注がれる多くの質問に、次々に答えていった。
自分は病気を治療するために過去から未来の世界に引っ越してきたのだと、幼い頃から事実を教えられていた。
養父母だけでなく研究所の職員達もよく面倒を見てくれていた。
養父母は優しかったし何不自由なく大切に育ててくれたが、血の繋がりがないことを知っていたので、やはり ”親” という感じではなく、”育ててくれてる人達” という感覚だった。
やがて、養父が仕事で時間移動をすることになり、大学生の頃には養父母のもとから自立した。
しかし関係は良好で、今も互いの誕生日など年に数回は連絡を取り合っている。
小学生のときはサッカー部に入りたかったが、心臓のことがあるのでプレイヤーとしては許可されず、マネージャーをしていた。
中学に入ると、やっと運動が解禁になり、空手部に入って体を鍛えた。
高校生になると研究所に自室が与えられるようになり、学校帰りに毎日通うようになった。
時間移動の能力は子供の頃から備わっていた。
はじめての時間移動は小学二年になって間もない頃。
飼っていた犬が自分の不注意で怪我をしてしまい、それを悔やんだ感情が高まって、怪我をする前日に戻った。
時間移動は身体に負担がかかる人が多いのに、自分はまったく何も影響がなかった。
だから、心臓の病気を心配する人もいたものの、養父母、研究所と相談のうえ、時間移動のトレーニングを開始した。
やがて、物だけを時間移動させる技術、能力のない一般の人間を時間移動させる技術の開発に携わった。
就職はもちろん研究所。
公にはなっていなかったが、半官半民の施設で、ハードワークではあるが待遇は申し分なかった。
結婚は大学卒業の年、研究所で出会った女性と。
それから間もなく第一子を授かった。
生まれてしばらくしてから子供も時間移動の能力があるかテストを受けたが、その力はなかった。
その後、国からの要請で時間移動し、いくつかの紛争を終結させるきっかけを作った。
最近は、難病だとされていたいくつかの病気の治療開発のため、医師や医療機関との共同研究が増えていた。
そして、今からほんの数か月前に、重大な任務を言い渡された。
それは、過去に移動し、生まれたばかりの自分自身を指定された時間世界に送り届けること。
この時になって、はじめて、赤ん坊の自分を助けるために未来から来た人物が自分自身だったのだと知った。
だが自分が選ばれる予感はなんとなくあった。
時間移動のスキルに関して、自分を上回る人間はいなかったからだ。
それでも、生まれたばかりの我が子を手放すよう、両親を説得するその役目まで仰せつかるとは思っていなかった。
悩んだが、事は自分の命だけでなく、大勢の人の命にもかかわってくるのだと言い聞かせ、任務を引き受けることにした。
こんな形ではじめて自分の両親に会えることに戸惑いは覚えたが、今回は特別任務につきある程度の自由度を与えられたので、思い切って両親の子供時代も見てみることにした。
自分も親になって、両親の子供の頃の様子を知りたくなったのだ。
そうして、父親の子供時代に行き、叔父と勘違いされたのをいいことに連絡先を教え、
母親の子供時代に行ったときには、高校生になった父親が、小学生の母を助けに過去に移動してきた場面に遭遇したのだった。




