想いは同じ
「待って。彬文の ”文” は ”アヤ” とも読めるけれど、わたしの千代という名前からはどれをとったの?もしかして ”千” を ”セ” と読んだのかしら?」
前崎さんの疑問はもっともで、私も同じことを思っていた。
そして彬文さんも、「確かに読み方としては難しいな」と呟いた。
だがその直後、彬文さんを激しい咳が襲ったのだ。
「彬文さん!」
私は看護師という職業病ゆえか、誰よりも急いでそばに駆け寄った。
「どこか苦しいですか?呼吸はできてますか?」
背中をさすりながら確認する。
彬文さんは私とあまり年齢が変わらないはずなのに、触れた背中は、その年齢の男性にしてはとても痩せていた。
病気が、無性に腹立たしくなる瞬間だった。
けれど彬文さんからは「ああ、大丈夫」としっかりした声で返ってきたので、とりあえずはソファに座ってもらうよう、手を取り促した。
もちろん前崎さんとアヤセさんも心配に染めた顔色で彬文さんを支えようとしていたが、自力での歩行も問題ない様子を見て、二人とも、やたら騒ぎ立てるような反応は起こさなかった。
会話も足取りもしっかりしていて、呼吸も脈も安定しているので、今すぐどうこうということもないだろうが、そもそも彬文さんが何の病気でいらっしゃるのか伺ってないので、何とも言えない。
そうでなくても、前崎さんの思い出話が間違いないなら、彬文さんは、明日………
どうしてもそのことが頭から離れない私は、知らず、握っている彬文さんの手に力を込めてしまうのだった。
「彬くん、平気?」
ソファに腰を下ろした彬文さんに、前崎さんが体を前かがみにさせて覗き込んだ。
そしてその腕には、息子であるアヤセさんの手が添えられていて。
前崎さんご夫婦を、支えたい、守りたい……その想いは私もアヤセさんも同じなのだと強く感じた。
やがて彬文さんが「大丈夫だ。名前のことは意外だったから、驚いてむせたみたいだ」と答えると、その落ち着いた様子に私達三人はホッとした。
「俺のことより、アヤセの名前の件だよ。千代の名前とアヤセという名前はどう関係があるんだ?」
彬文さんもよほど気になっていたようだ。
なるべくならもう少し休んでから話を再開した方がいいかもしれないが、気になってしまう気持ちも同意できるので、私はあえて口をはさむことはしなかった。
すると、アヤセさんは前崎さんを彬文さんの隣にそっと座らせ、二人の前に跪いて、再び説明をはじめた。
「前崎さんの仰ったように、私の名前、アヤセの ”アヤ” は彬文さんの ”文” です。そして、アヤセの ”セ” の文字は、世界の ”世” と書きます」
「世界の世?それとわたしと、どう繋がってくるのかしら……?」
戸惑いを隠さない前崎さんだったが、隣の彬文さんは閃くものがあったようだった。
「ああ、もしかして……」
「なに?なにか分かったの?」
「いや、正解かどうかは自信ないけど……、もしかして、千代の ”代”を、世界の ”世” と勘違いしてたんじゃないか?」
彬文さんが問うと、アヤセさんは二人を見上げながら、
「ご明察の通りです」
と、苦笑いを禁じ得ないという表情で肩を竦めてみせたのだった。




