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口をつぐんでしまった前崎さん。

けれどそのことは、私の心を抉るようにざわつかせた。

だって、前崎さんの話では、入院中の彬文さんのもとにアヤセさんが現れたのは、………彬文さんが亡くなる前日だったのだから。


問題は、今目の前にいるこの彬文さんが、その事実を承知しているか否かの判断ができないことだ。

おそらく前崎さんもそのことに気付き、言葉を秘めたのだろう。



前崎さんと彬文さんの間には無言が訪れた。

二人ともが何かを言いたくて、でも言えない、そんな複雑な気色を滲ませながら。


すると、その空気を払拭するように上司がはじめて二人の間に口を挟んだのだった。



「私が、さきほどお連れいたしました。前崎さんを驚かせようと思いまして。サプライズは成功のようですね」


明るく軽妙な口振りは、二人の複雑な沈黙を溶かしていく。

前崎さんは「大成功です」と頬を緩め、彬文さんはそんな前崎さんを愛しげに見下ろしていた。



「息子に会わせてくれるだけでなく、もう会えないはずの夫にまで会わせてもらえるなんて………まるで、本当に、夢のようです……」


最後は涙声になっていた前崎さん。

笑いながらも、あふれる涙を拭いきれないように、何度も目元をこする。

そして彬文さんは、涙で震えるその細い肩を、しっかりと抱き寄せた。



前崎さんの話通りならば、明日、命の期限を迎えるはずの彬文さんだが、妻を支える腕はたくましい以外に言い様がないほどだ。

そしてその頼りがいある腕の中で、ずっと隠し持っていた感情が解放されたのだろう、前崎さんが堪えきれない想いを涙とともに吐露していた。



「彬くん、彬くん、彬くん……。会いたかったの。とても………。わたしは、…一人は、寂し過ぎて………」



一人は嫌だと、前崎さんの心の声を聞いたのは、これで二度目だった。


いつも優しくホットミルクのような笑顔を絶やさない前崎さんだったけれど、本当は、内側に、しっかりと孤独を抱えていて、たった一人きりでそれと闘っていたのだ。



ご両親を事故で突然失い、結婚後には義理の母を失くし、出産という本来なら幸せの絶頂時に我が子との別離を迎え、そしてその数年後には、最愛の夫を………


見送る方も見送られる方も、そこに愛情がある限り、どちらもが辛いに決まってる。

それでも、見送ってもなお、一人取り残された時間を過ごさねばならないというのは、あまりにも辛すぎる。



私は、前崎さんの中に居座っている孤独を、心の底から恨んだ。

そして、別れの時がすぐそこにまで迫っているのだというのなら、私は、もう、前崎さんとずっと一緒にいて差し上げたいと思った。

例えそれが私の一方通行的なお節介でしかなかったとしてもだ。










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