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今夜一番の大きな声





「前崎さん、実は……」


「あ、いけない」


気持ちを固めて打ち明けようとしたけれど、前崎さんはそれをストップさせるように声をあげたかと思えば、アヤセさんの袖口をつん、と引っ張った。

ナイショ話でもするように口元に手を添えて顔を寄せてくる前崎さんに、アヤセさんは屈んで耳を向けて。



「……わたし、……らの岸里さ……アヤ………のこと………しく話し………たんですけど、……題ありませんでした?」



小声なのでところどころ聞き取れなかったが、どうやら、私がアヤセさんの秘密を知らなかった場合の心配をしているようだった。

それもそのはず、前崎さんは、私とアヤセさんに関係性などあり得ないと思っていたから、ご主人との思い出話に登場するアヤセさんのことを包み隠さずそのまま語れたのだろう。

だが二人が知り合いだったとなると、自分がアヤセさん本人の了承もなく秘密を暴露してしまったと気に病むのは理解できる。


途切れ途切れになる前崎さんの声のか細さは、急変したあのときと似ていたけれど、今夜のそれは、とても微笑ましく聞こえた。

私はすぐさま、それは心配無用だと教えて差し上げたかったが、その役目は上司に委ねることにした。



アヤセさんは前崎さんの耳打ちから体を起こすと、ふわりと笑みを浮かべて。


「お気遣いいただきまして、ありがとうございます。ですが、ご心配には及びません。彼女は私の事情をよく知っておりますので」


その知らせに、前崎さんはものすごく驚いた反応を見せた。



「まあ、そうだったの?!」


今夜聞いた中では最も大きな声かもしれない。

前崎さんはアヤセさんの袖を摘まんでいた指をパッと離し、私にも返答を求めるように一心に見上げてきた。



「ええ、実はそうなんです……」


隠すつもりもなかったが、前崎さんの話に登場する ”アヤセさん” を知っていながら、ずっとそうと告げていなかったのだから、隠していたと思われても仕方ないだろう。

私は、そんなつもりはなかったという意思を伝えたかった。



「でも、隠してたわけじゃないんですよ?ただ、打ち明けるタイミングが掴めなくて……」


「そうなのね。だったら、きっと、岸里さんにはずいぶん気を遣わせてしまってたのね。ごめんなさいね。わたしと夫の話を聞いてる間、ずっと落ち着かなかったんじゃないかしら?」


「いえ……あ、いえ、はい……」


どちらの返事をすべきか迷いが出てしまい、私はとぼけた答えになってしまう。

でも前崎さんはさらに私を労ってくれたのだ。



「でも、岸里さんが話を聞いてくれたから、わたしはずいぶんと救われたのよ?本当にありがとう」










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