その後…
「………それで、その後はどうなったんですか?」
前崎さんの話を夢中で聞いていた私は、前進姿勢でその先のことを尋ねていた。
お子さんを救うためとはいえ、生まれたばかりの我が子を手放さなければならなかったなんて、前崎さんご夫婦の心情も気にかかるけれど、
病院に勤める身としては、新生児室から赤ちゃんを連れ去られてしまった病院側のことも気になったのだ。
好奇心いっぱいなのを隠しもしない私に、前崎さんはクスクスと思い出し笑いをしてみせた。
「どうなったもなにも、それはもう大騒ぎよ。なにしろ病院内で誘拐事件が発生したんだから。しかも迷宮入りの」
セリフと口ぶりが全然一致していない。
刑事事件と言うわりには、むしろ楽しそうなイタズラのエピソードでも聞いてる感じだ。
「でも、前崎さんも警察から色々事情を聞かれたんじゃないですか?」
「もちろんよ。警察からはしっかり事情聴取されたわ。誰かから恨まれてる覚えはないかとか、アリバイとか……。あまりにも犯人が見つからないから、わたし達を含めて内部犯の疑いも浮かんだみたい。まるきりのハズレでもないのが惜しいわよね。でもアリバイに関しては、事件発生時刻にちょうど看護師がわたしの部屋に巡回に来てたからすぐに立証されたの。これはおそらくアヤセさんがわたし達に疑いがかからないようにタイミングを見計らってくれたのね。警察以外にも、病院、記者、野次馬さん達……いろいろ、…本当にいろんな人から質問攻めにされたものよ。同情もされたし、病院の偉い人達には土下座もされたわね。本来なら謝るべきはこちら側なのに。心苦しくもあったけれど、わたし達は知らぬ存ぜぬを押し通す他なかったの。それからもう少し時間が経つと、一躍有名人になっちゃったわたし達は、引っ越しもしなきゃいけなかったのだけど……というより、岸里さんは、わたしの話を信じてくれるの?」
「え?」
きょとんと訊いてくる前崎さんに、こちらもきょとんとしてしまった。
ただ、そんな前崎さんは、やっぱり血色もよくて、あと少しの命であるとはとても信じられなかった。
「だってほら、自分で話したくせにあれなんだけど、常識では考えられないような話だったでしょう?時間を行き来するなんて。実際、他の人に同じ話をしたことはあるけど、みんな途中から全然信じてくれなかったんだもの。子供を失って、夫にまで先立たれた未亡人が何かおかしなことを言い出した、くらいにしか思われなかったのよ」
口をぷくっと突き出して、まるで拗ねるような態度の前崎さんを、私は可愛らしいなと思った。
前崎さんに対する私の印象は、一貫している。
少女のような人。そして、ホットミルクのようにやわらかく癒してくれる、優しい人。
そんな前崎さんだからこそ、私は話を聞きたいと思ったのだ。
「誰も信じてくれなかったんですか?」
それは気の毒に…という口調で同情を表した。
「そうなの!あといくらも生きられない人間の話なんだから、もっと真面目に聞いてほしいものだわ。まったく」
今度は腕組みまでして不服を訴えてくる。
もちろん冗談めかしてではあるが、彼女の悔しさみたいな感情がひと匙ほどは見えてくる。
ただ、余命に関してそんな風にポップに訴えてこられると、私はなんとも言えなくなってしまうのだ。
するとそれに気付いたのか、前崎さんが「とにかく!」と、わざとらしい咳ばらいをした。
「ようやく岸里さんみたいに信じてくれる人に出会えて、よかったわ」




