表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/81

『証拠』





わたしは、(あき)くんの双眸をしっかりと見据えて彼の話を聞いていた。

だからその真剣さはじゅうぶん伝わっている。

わたしだって、もう、無闇やたらにいちいち疑ったりすることはしたくない。


それでも、十年前に時間を遡るだなんて、そんな小説や映画に出てくるような展開を、すぐさま受け入れられるはずもなかった。



『………わたしを、からかってる……わけじゃあ、ないのよね?』


『もちろんだ』


『でも……、じゃあ、どうやって……?』


『それは俺にもよく分からなかった。でも、後々アヤセさんから教えられた話によると、おそらく、俺が千代を想う気持ちの強さが、何らかの引き金になったんじゃないか……って』


『それだけで?』


『他にも色々考えられる可能性はあるらしいんだけど、そのすべてを聞いたわけじゃないから……』


『確認のために訊くけど、誰に聞いたの?』


『アヤセさんだ』


『アヤセさん……。だいたい、そのアヤセさんって人は何者なの?信じられる人なの?怪しい人なんじゃないの?その人から教えられたって言うけど、その人も彬くんみたいに時間を戻せるわけ?』



立て続けに疑問を投げつけるわたしに、彬くんは『それは後で説明するから、取りあえず今は俺の話に戻ってもいい?』と、薄く微笑んだ。

わたしは他にももっと訊きたいことがあるのにと気が急くけれど、会話の立ち往生を避けたい彬くんの気持ちも分かるので、おとなしく聞く姿勢を見せることにした。



『それで、知らない場所にいた俺は、訳も分からず辺りを見回して手がかりを探した。そうしたら、そこが千代の家の近くだと分かった。それだけじゃなく、店先に売られてる新聞の日付が、十年前の、千代が階段から落ちた日だということにも気が付いた俺は、まさかとは思ったけど、ひとまず千代が忍び込んだという小学校に向かってみたんだ。はじめて行った場所だったけど、叔父…アヤセさんから裏門が開いてたことを聞いてたから、迷わずに裏にまわった。それで、間一髪で間に合って千代を受け止めて……そこからは、千代が俺に話してくれた通りだよ。……唯一、千代が俺に話してなかったことといえば、俺が千代を家に送る途中、男の人と言葉を交わしたことだけど…あれは、覚えてなかった?それとも、大したことじゃないと思って、高校の時の俺には話さなかった?』


『そんなの……分からない』


それ以外に答えようがない。なにしろ、もう二十年以上も前の出来事だ。当時は幼かったし、大体ならともかく、事細かなエピソードを違わずに記憶できているわけもない。

すると彬くんはわたしの返事が予想通りだったのか、『そりゃそうだよな』と諦めたように笑った。



『でもその男の人がアヤセさんだったんだ。当時の高二の俺は、まだアヤセさんを叔父だと思ってたし、千代の家の近くに住んでると知ってたから、たまたま偶然叔父が通りかかったのだと信じて疑わなかった。そのとき、千代を抱きかかえる俺を見た叔父が、”まるでナイトとお姫様みたいだね” とからかってきたんだ。だけど俺は千代の怪我を早くどうにかしてやりたくて、”それどころじゃないから” とすぐに叔父と別れて千代の家に急いだ。そして千代をお母さんに引き渡した直後、またいきなり、違う場所に立っていた………元いた場所に』



彬くんの説明は、わたしの記憶にあるものとほぼ一致した。

むしろ、欠落してる部分があるわたしよりも、彬くんの方が信頼できそうに思えるほどだ。

だが、………証拠が、何一つないのも、事実だった。

わたしがずっと探してた命の恩人と彬くんが同一人物だなんて、そんなあり得ないことを信じろと言うのなら、せめてその証拠を提示してほしい。


彬くんを疑うわけじゃないし、彬くんのことは全面的に信用しているのに、それでも証拠を求めてしまうのは、矛盾しているかもしれない。

でも、事は、我が子の命に関わってくることなのだから……


するりと、自然にベビーベッドを見てしまう。

たったそれだけの仕草なのに、彬くんは、わたしの頭の中を可視化させてしまったようだった。



『この子が関係してるのだから、証拠でも見せないと、千代は納得できないよな……』


わたしを追って、赤ちゃんのことを眩しそうに見守る彬くん。

わたしの気持ちと彼の気持ちに、深い溝も大きなすれ違いもないのだと感じる瞬間だ。

二人の間には、この子を想う愛情しかないのだと。



『証拠って……何かあるの?』


彬くんが十年という時間を遡って、幼いわたしを助けてくれたという証拠が?


いったい何が証拠になり得るのだろうかと、心なし前向きに耳を傾けたわたしに、彬くんは一言で答えたのだった。



『――――雨』











誤字報告いただきまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ