『三人』
結婚二年目に二人ぼっちの家族になってしまったわたし達が、三人家族になることになった。
待望の赤ちゃんが、わたしのお腹の中に宿ってくれたのだ。
そうと知ったときのわたしと彬くんの喜びようは、はっきり言って尋常ではなかった。
彬くんもわたしも泣いて泣いて、わたしと彬くん両方の両親にすぐ手を合わせて報告して、二人してその手を取り合って、抱き合って、時も忘れて歓喜を大爆発させた。
『悲しみの先に待っていたのは、やっぱり喜びだったんだな……』
そう呟いた彬くんは、義母を失ったときから抱き続けていたものから、ようやく抜け出せたようだった。
二人ぼっちじゃなくなるのだ。
新しい家族。わたし達の、子供。
嬉しくて嬉しくて、悪阻とか腰痛とか体重管理とか、大変なことも色々あったけれど、お腹の中でちょっとずつ大きくなってくれる赤ちゃんのことを思えば、まったく辛くはなかった。
次々に家族を失っていったわたしと彬くんのもとに訪れてくれた大切な命を、わたしも彬くんも、本当に本当に愛しく想っていたのだ。
彬くんなんかは、時折り仕事帰りに絵本や玩具を買ってきたリして、その気の早さには呆れながらも、わたしも満更ではなかった。
いつだったか、魔法使いが出てくる物語を数冊買って帰ったときは、
『お前は、お母さんとお父さんを幸せにしてくれる魔法使いみたいなものだからな』
跪いて、わたしのお腹に笑いかけた。
そして、
『相変わらずロマンチックなことを言うわね』
ある意味感心したわたしに、こんな返しをしてきたのだ。
『じゃあこの子もきっと、俺に似てロマンチストになるな。楽しみだ』
そう言ってわたしを振り仰いだ。
その彬くんは、どこから見ても幸せそのもので、わたしも、泣きたくなるほどの幸福感に浸らせてもらったのだった。
しばらくして、お腹の赤ちゃんは男の子だと判明した。
正直なところ、性別なんてどちらでもよかった。
無事に育ってくれますように、元気に生まれてきてくれますように……
わたし達の願いは、ただそれだけだったのだから。
やがて、その時がきた。
そろそろだと心の準備は万端だったものの、やはり初めてのことだらけの出産は想像してた以上で、わたし達夫婦の場合はどちらの両親もいないことから、頼れる人も少なく、不安事もきりがなかった。
だが、そんなわたし達の境遇を知った病院スタッフの方々が何かと手助けしてくれて、初めての陣痛に心が弱気になっていたわたしは、感謝の言葉では足りないほどの助けをもらった。
そして丸一日かかり、3130グラムの元気な男の子を出産した。
けれど、元気と言えたのは、生まれてから数日までの短い時間だったのだ。
誤字報告いただき、ありがとうございました。




