神界 〜見守る者たち〜
ここは神界。
数多ある世界を管理し、運営していく場所である。
「創造神様、本日の業務日報でございます。」
整った顔立ちは陶器のように白く美しく、腰まである蒼髪を一つに纏め、どこか蠱惑的な涙ボクロが特徴の誰が見ても美人と称される女性がそこにはいた。
そして凛とした態度で白髪白髭の老人に書類を渡す。
「うむ、ありがとう水神や」
頷いて書類を受け取り湯のみから茶をすする
「しかし、先日のような配送作業は私どもの方で致しますので余計な手出しはしないで下さいませ。」
「う、うむ。しかしあれは時空神が風邪を引いたとかで業務が滞りそうになっていたではないか」
「それで配送先は愚か配送物まで間違えたお人はどなたでしょうか?」
綺麗な蒼色の目を細め水神がギロリと睨む
「うぐっ、すまん……」
「そもそも信仰だけでは食べていけないと商売を始めたのは創造神様ではないですか! あれだけ私どもには下界に迷惑をかけるなと仰っていたのに」
「ぐぅ……じゃ、じゃからしっかりとアフターフォローはしたじゃろ? 生きていけるようしっかりと魂を守り、新しい肉体とスキルを与えたのじゃ!肉体なぞ最高の潜在能力を秘めた素晴らしい出来じゃぞ?」
「それでもあのスキルラインナップは極端です!」
「な、なんでじゃ? 死なん体にあらゆるものを見通す眼、『全適性』なんか頑張れば全てのスキルを得られるじゃろう……ワシなりの最大の謝罪をのぅ……」
「その『全適性』が問題です!」
「なんでじゃあ? こちらのミスで送ってしもたんじゃ、『全適性』があれば何とか生きて行けるじゃろう」
「普通の人間ならば大丈夫だったでしょうが、『不老不死』まで付けてしまっては本当にゆくゆく全てのスキルを身につけてしまいますよ? 貴方は新たに神でも作るおつもりですか!」
「お? ほっほっほ! それはいい、神に至ったならばアンシャネスの管理を任せるか? 丁度神不在で臨時でお主が見ているではないか」
「そうぽんぽん神を作られても困ります! 管理する私の身にもなってください!」
「じゃが」「じゃがもジャガイモもありません!」
「そもそも『不老不死』は、ただ老いず、死なないだけです! それを何の強化スキルも付けず放り出すなんて……どれだけ成長に時間がかかる事か……」
「ま、まぁそう怒るでない、聡いものならもうスキルシステムにも気づいておるころじゃ」
「そうだったらいいのですが……」
「この間、別の世界で召喚され配送した勇者は喜び勇んで修行しておったではないか」
「はい……でもあれは初期スキルが優秀だからで――」
「まぁまぁ、そんなに心配なら少し様子を見てみよう、確か……西村 京と言ったかの?その子は」
「はい……現在、転送されて4.5日といったところでしょうか」
「どれ、見てみよう」
そう言いながら指をパチンと鳴らすと目の前の空間が歪みアンシャネスの風景が映り込んだ。
「どこらへんじゃ?」
「こっちの絶獣の森の辺りに……」
「何でそんな辺鄙なところに?」
「貴方が送ったんじゃないですか!」
「ほっ、そうじゃった、転送間際でスキルやら何やら付けてて、座標は間に合わんかったんじゃ」
「はぁ……ほんとにもう……この人は……」
そう言って水神は頭を手で押さえながらため息を吐く
「でもしっかり結界を張っとるから余程の馬鹿でない限り出てはおらんじゃろ」
「まぁ、そうですが……」
「どれ、頑張っておるかの? 京くんは」
そう言ってズームしていき結界付近を映す。
「ん?どこじゃ?」
「こっちにいます、どうやら結界線間際でバルナゴリラと出会ってしまったようです」
そこには下半身裸で、奇声をあげながら石斧を振り上げ、サンバを踊っている男の姿が映し出されていた。
「…………………」
「…………………」
「……いったい何を見させられてるんじゃ?ワシらは」
「下半身裸で踊ってる男の姿です。恐らく精神が崩壊してしまったものかと……」
「なんでじゃ!? ワシ、辛くはならんように耐性系のスキルは早めに獲得できるよう配慮したんじゃぞ!?」
「それでも実際に狂ってるではありませんか!……あっ倒れた」
「くぅぅ……すまんかった京君や……ワシが至らんかったばかりに……魂がこちらに戻ってきたらしっかりと労ってやろう……」
「ぐすんっ……はい……」
もう二度とこのような失敗はしないように厳重に配送管理はしようと誓い合い、創造神と水神は無言で業務に戻っていった。