バルナゴリラ
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拝啓、母上様
私は現在、神さまの計らいで「アンシャネス」といわれる異世界に来ております。
食べ物も水もなく生きていけるかと思いましたが、先日ようやく余裕が出来るようになりました。
しかしながらこの世界には魔物という危険な生物がいるらしく、今、目の前には象ほどの大きさに赤茶色の体毛、某人気ゲームのネクタイゴリラのような生き物が丸太のような腕でバナナを一心不乱に食べております。
その血走った目がこちらに向けば、残念ながらもう私はこの世には存在できないでしょう。
悲しいことに存在すらも忘れているでしょうが、どうぞ先立つ不孝をお許しください。 京
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そんなことを走馬灯のように思いながら、動けないでいる京はじっとバルナゴリラを見つめる。
下半身は暖かく湿り、鼻をつく芳醇な天使の香りが辺りを包む。
バルナを食べ終わり、凶悪な顔がゆっくりとこちらへ向けられる。
「あぁ……終わった……」
そう思いペタンとその場に座り込む。
生唾を飲み込み最期の時を待っていた。
そして視線が合った。
バルナゴリラがニヤリと笑う。
京の前にあるバルナの木に向かうと…………
実をもいで食べだした。
「……………………俺が見えないのか?」
ゴリラとの距離は5メートルも離れてないが、結界があり、結界の外側ギリギリにあるバルナを食べていたのである。
もしかして、外から中は見えないんじゃないか?
そう思ってふと気づき、結界を注視する。
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《神域結界(小)》
神が施した不可侵の結界。魔物や悪意のある者には中の存在を認知できない。
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「結界も見れんのかよ!!」
チクショウ! 完全に予想外だった! 木の実や草ばかり見ていたせいで、物を見るだけという固定概念があったんだ!
そーだよな、自分やゴリラのステータスも見れるんだから形あるものだけじゃないというのは分かってた筈なのに!
「くっそービビって損した! マジで死ぬかと思った!」
そう言いながら不愉快な濡れたズボンとパンツを脱ぎ始める。
「あーあー、この歳でお漏らしとか笑えねぇぞ……」
後で洗おう……でもマジでこっちの存在が認知できないんだな……まだバルナ食ってら。
怖もの見たさで少し近づいてみる。気づかれない。
石斧を振り上げてみる。気づかれない。
ついでにサンバのステップを刻みながら大声をあげてみた。
「きょおおおおおお!!!! ばっかやろぅ! かかってこいヤァァァ! はっはっは!」
気づかれない……やっぱり認識できないようだ。
あぁよかった……一昨年亡くなったばあちゃんが手を振ってる幻覚を見たよ……
とりあえず早くこんな場所からはオサラバしてパンツを洗いに行こう。
そう考え、踵を返そうとするとゴリラが食べ終わったバルナの皮を京の方へ投げて捨てた。
ただ捨てたはずなのだが、もの凄い速さでバルナの皮が京の顔面にヒットする。
「ぶべはっ!」
鼻血を噴射させながら後ろへ倒れる京。
「チ、クショウ……物理は通るの、かよ……」
遠くなる意識で明日じゃパンツ臭いだろな……早く洗わなきゃ……
と思いながら意識を失うのであった。
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名前:西村 京
年齢:27
生命力 : ∞
体力:39/110
魔素量:100/100
筋力:12
技量 : 14
知力:11
魔力:10
速度:11
幸運 : 9
スキル:『精神耐性(中)』『毒耐性(小)』『採取』
ゴットスキル:『全適正』『万物視』『不老不死』