聖獣
「はぁ……はぁ……はぁ」
豚と犬をなんとか撒いて家に帰ってきた。
途中で蜘蛛に見つかり、その後はもうお祭り状態だった。追いつかれそうになり、もうダメだと思った時『逃げ足』というスキルを手に入れ『逃げ足』と『隠形』を駆使し、なんとか逃げ切ったのである。
「もう……むり……」
体はガタガタ、足はガクガクと震え、なんとか家の前まで辿り着いた。
そして、家に入った瞬間、崩れる様に倒れこんだ。
魔法を身に付けたらいつか仕返ししてやる……覚えてろよ……
そんな恨み言を呟きながら、意識を手放すのであった――
翌朝、頬に生暖かい何かを感じて目が覚める。
正直まだ寝ていたいが、違和感の正体を確かめようと重い瞼を開ける。
するとそこには、昨日豚に追いかけられていた犬が俺の頬をペロペロ舐めているではないか。
「うわっ!」
俺は急いで飛び起きて身構えた。
「なんだなんだ!?」
襲い掛かられると思ったが、そんな事はなくじっとしている。
ラグビーボール程の小さい体は、白銀色をしており、額と体に薄っすらと金色の星模様が入っている。
ていうか……色以外はまんまチワワじゃん……
俺の態度とはうってかわって犬は舌を出しながら尻尾を振り、こちらを見つめている。
「ハッハッハッ」
「……なんだこいつ? なんでここにいる?」
「アン!」
「敵意はないみたいだけど……」
そういえば豚のステータスは見たけど、犬の方は見ていなかったな……
そう思い、犬のステータスを覗いてみる。
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種族 : 聖獣・スターワンコ
生命力 : 200/200
体力 : 300/300
魔素量 : 300/300
筋力 : 150
技量 : 150
知力 : 150
魔力 : 200
速度 : 200
幸運 : 300
《スキル》『聖域』
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スター……ワンコ?
なんだその適当につけたみたいな種族名は!? 聖獣? このちんちくりんな犬が聖獣だと!? 一度神さまに聖獣の定義を小一時間問いただしたい!
しかしいったいどういう事だ? なぜここにいる? 神域結界があるのに認識して入ってこられるという事は、こいつは魔獣でもないし悪意がある訳でもない事になる。
俺はそっと右手のひらを上に向けて差し出してみた。
「おて!」
「アンッ!」
すると小さい前足をちょこんと俺の手に乗せてくる。そして、コテンと首を傾けた。
かっ、かしこい!? そしてかわいい……なんだこの愛くるしい生き物は! 警戒心とか不信感が一瞬で吹き飛んでしまった。
「お前、行くとこないのか?」
「アンッ!」
「うちに来るか?」
「アンッッ!」
元気よく返事した事に気を良くし、そっと抱き上げて膝の上に置く。ウルウルした瞳がこちらを見つめ、また首を傾げた。
「可愛すぎるだろ!」
俺は辛抱たまらず抱きしめた。突然のことにも動じず、大人しく俺に抱かれる犬の毛並みはサラサラしていて、とても触り心地がいい。
「ネズミの干し肉食うか?」
「アンッ!」
一口大に割いた干し肉を差し出すと、犬は嬉しそうに齧り始めた。その光景を京は目尻を下げながら眺める。
こうして、この世界に来て初めての仲間ができたのだった。
「よし! 散歩に行くか! ついといで」
結界内をひとしきり散歩して木の棒を投げて遊ぶ。
元気よく遊ぶかわいいチワワと、未だブリーフ姿の男は見事なコントラストを醸し出していた。
「ふぅ……今度、木材でフリスビーでも作ってやるからな! 待ってろよ!」
「アンッ!」
「可愛いなぁ……そうだ、お前にも名前が必要だな! どんな名前がいいかなぁ」
種族名はふざけてたが、名前ぐらいは可愛いのをつけてやりたい……
俺は顎に手を置きながら5分程あれやこれやと考えた。そしてポンッと膝を叩き犬の方はへ目をやる。
「よし!お前の名前は星の子供と書いてホシコだ!」
壊滅的なネーミングセンスである。
「……アン」
「そーか! 嬉しいか! これからよろしくなホシコ!」
返答に詰まるホシコの気持ちなど露知らず、京は嬉しそうに頭を撫で続ける。
すると無意識に魔素を手に集めていたのか、ホシコの頭で光が弾ける。
ピンポーン
《スキル『テイム』を獲得しました》
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『テイム』
自身を認めさせた魔物等に名前をつけると魂の契約ができ、使役することができる。
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おお! なんだかよくわからないが簡単にスキルが取れたぞ! きっと俺の愛が通じたんだ!
「これで俺たちは家族だな! 改めてよろしくホシコ!」
「……アン!」
こうして悲しみ名を背負ったホシコは京の魂の契約者となるのであった。