ハールスパイダー
気配を殺し、藪の陰から様子を見る。
はぁ……なっ、なんとかやり過ごせたようだ。
俺は今結界の外を探索している。『隠形』を獲得してから常に気配を消していればハイドラットのように外を歩き回れるんじゃないかと考えたからだ。
「はぁ……寿命が縮むぜまったく……縮む寿命ないけど……」
今までとは違う地形や動植物に浮かれていて気配を消すのを忘れていたのだろう。
ふと気づいたら黒い外殻をテラテラと光らしたバランスボールぐらいの蜘蛛に囲まれていたのだ。
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種族 : ハールスパイダー
生命力 : 810/810
体力 : 1160/1220
魔素量 : 800/840
筋力 : 512
技量 : 820
知力 : 783
魔力 : 722
速度 : 891
幸運 : 328
スキル:『操糸』『毒牙』『気配遮断(中)』
魔法:『毒魔法』
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……あ、これ死んだわ
嬉しそうに糸を出しながらギシギシと牙を鳴らしている蜘蛛が10匹ほどいた。そしてゆっくりと包囲を狭めてくる。
え? このまま糸でぐるぐる巻きにされてお持ち帰りされて食べられるの? そういう時『不老不死』ってどうなるの? 時間を置いて肉体が復活する系? 精神だけこの世に留まり続ける系?
もし肉体が復活するならコイツらに一生尽きることのないお肉を提供する羽目になる……
そんなの嫌だ……
「いいぃぃやぁぁだぁぁあああ!!」
俺は手に持っている荷物を全て捨てて、括り付けてあった槍を抜く。そして目の前の蜘蛛に力一杯投げつけた。
槍は見事8つある蜘蛛の目のうちの1つに突き刺さり隙を作ることに成功する。脇目も振らずその蜘蛛の横を走り抜けると全速力で距離を取った。
しかし圧倒的なスピードで距離をつめられていく。
後方の蜘蛛は、何故か糸をバレーボールぐらいに丸め出し、振りかぶって投げてきた。
「うわぁ!」
それを視界の端で捉え、咄嗟に屈むと糸は頭を通り越して前方の木に当たった。メキメキと折れる太い幹がその威力を物語っている。
「糸の使い方間違ってんだろ!」
「ギシャジジジジ!」
足を止めた間に追いかけてくる蜘蛛が迫ってきた。
なんていやらしい戦法を仕掛けてくるんだ! 獲物1人になんでそんなに全力なんだよ!
俺は急いで横に転がり走り出した。
前方は少し急勾配な坂の森になっており、後ろから迫ってくる蜘蛛の気配を感じた俺は、勢いよく前へ飛び出した。
「うぐっ!」
ゴロゴロと勢いよく坂を転がる。蜘蛛も足を丸めそこらにある岩を砕きながら同じように転がって追いかけてきた。
全身あちこち打ち付けて気が遠くなるが『打撃耐性』のお陰でなんとか持ちこたえる。
坂はだんだんなだらかになっていき藪が広がっている。その藪に勢いよく突っ込んだ。
すぐ近くで蜘蛛の声が聞こえるが、咄嗟に『隠形』を発動し隠れた。
ピンポーン
《スキル『打撃耐性(中)』は『打撃耐性(大)』へ昇格しました》
「っ!!」
うるせぇよ! なんてタイミングだ! 黙ってろ!
「ギジジジ」
気づかれないように息を止めて隠れる。
心臓が早鐘を打ち、周りに聞こえそうで怖い。
そして、蜘蛛達はしばらく俺の周りを探し回り、やがていなくなったのであった。
「迂闊だった……」
ガタガタと震える足で何とか踏ん張り立ち上がる。
気配を消しながら慎重に結界内に戻ろうするが、ここがどこだかわからない……
「どうしよう……ん?」
足元には蜘蛛達が投げつけてくれた糸ボールが転がっている。
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《ハールパイダーの糸》
ハールスパイダーが紡ぐ糸。強くしなやかな糸で、防刃性に優れる。 質:良
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おお……これはいいものだ。
この糸で服を作れば、森での活動も、ある程度は安心できるかもしれない。
転がる糸を回収し、帰り道を探す。
丘の小屋へ着いたのは、もう辺りが真っ暗になってからだった。
「つ、疲れた……」
小屋に入った安堵から気が緩み膝から崩れ落ちた。そして葉っぱの上に寝転がる。
「今までで一番しんどかったかもしれない……」
あの強さの蜘蛛が10匹以上……まさに悪夢である。
あれだけの数がいれば、ゴリラ1匹なら余裕で倒せるるんじゃないか?
もうしばらく外はいいや……もう少し強くなるまで引きこもってたい……
「魔法か……」
ハールスパイダーのステータスを見たとき、毒魔法があるのを俺は見逃さなかった。
使っては来なかったが、使われたらおそらく俺の『毒耐性』では無効化出来なかっただろう…
魔力があるから俺にも使えるはずなんだが、肝心の習得方法がわからない……
「誰か教えてくれねぇかなぁ……」
まぁ時間はあるんだ……ゆっくりやっていこう……明日は糸で服を作ってもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、満身創痍の京は意識を手放すのであった。