第二章 護国堂 その15
護国堂入りしてからも、私は時折、家に帰り、大二君たちと連絡を取り合っていた。意思の疎通を図るためだ。大二君たちも唱題修行を励行し、精根のつづく限りお題目を唱えていた。『即是道場』の意気込みで、海岸の松林に毎晩集っているとのことだった。彼らの心境も進展を見せていた。国家や社会の問題を研究するという段階から、改革と実践の問題に移っていた。
川崎長光が、海軍兵志願のため帰郷していることを知ったのは、その頃だった。川崎は気骨があり、頑固な硬骨漢で、私や大二君とは血縁関係にある。私は川崎を同志として誘うよう、古内に話した。古内も大いに乗り気だったが、川崎の勧誘は一向に進まないまま、数週間が経ってしまった。
ある日、大二君の家を訪ねに向かっていると、偶然、川崎の妹に出会った。
「おい、兄ちゃんは何してる。」
妹は恥ずかしそうに苦笑してみせた。
「しようのない兄ちゃんだわ。毎日、海水浴するか、お父ちゃんの酒を盗み飲みするほか、能がないみたい。」
この出会いは、日蓮上人のお導きかもしれないと考えた私は、好機を逸してはならないと思い、妹に尋ねてみた。
「今、いるか。」
「あらっ、今、そこの道を曲がったばっかし。」
私は亀の湯に飛び込むと、大二君から自転車を借り、川崎を追った。畑に挟まれた道で、ようやく川崎に追いついた。
「おいっ、川崎っ。」
「やあ、小沼か、今日はなんだい。」
「なんだいって、お堂に誘っても、ちっとも来やしないじゃないか。」
川崎は、うりざね顔の頭を軽く振りながら、気恥ずかしそうな表情になった。
「酒でも飲ませなきゃ、おまえ。」
「よし、引き受けた。飲ませるから来いよ。」
こうなったら、どんな手でも使おうと、私は半ば、やけになっていた。それだけ、川崎には見込みがあったのだが、動機が不純であることは否めない。若干の不安を抱いてはいたが、おかげで川崎は、喜んで護国堂を訪れるようになった。間もなく唱題も始め、根が純情で、一途なところがあるだけに、凄まじい早さで成長していった。古内も、これにはよほど驚いたとみえ、目を丸くして報告してくれた。
「皆と互角どころか、今じゃ大内君や小池君を追い越してしまいましたよ。」