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#06

 ジョゼフの彼女の死因はクモ膜下出血だった。数日前、貧血で倒れた時頭を打ち、その時の検査で脳動脈瘤が見付かった。そして医師に手術を進められたが彼女はそれを断り、余生を生き抜くことにしたらしく



『もうすぐ死ぬって分かったら、こんなにも大胆になれるものなのね』 



 そのことをジョゼフに全て打ち明けた。もうすぐ死ぬから恋人になってほしいと。 

 ジョゼフはそれを承諾し


 恋人を演じた。



「彼女は綺麗だったんだ。どんな美人の女優やモデルにもない、美しさを持っていた」

 彼女のことを知らないダリルにジョゼフはそう話した。そして彼女が亡くなる前日、二人はベッドを共にした。  



 ――その事実も


「……」 

 その事実はダリルの心を深く(えぐ)った。  


 ――最低だ  


 オレは…… 


 死人に“嫉妬”するなんて……! 



 ダリルはその気持ちをなんとか打ち消そうと、自分自身の中で葛藤した。 

 そして



「お前は、彼女を幸せにしてあげたんだな」 



 言いたかったこととは全く別のことを口にした。

「彼女は、その病気になったことと引換に、お前を恋人として手に入れたんだ」 

 穏やかな口調でそう言い。

「死んでしまったら意味ないじゃないか……?」 

 ジョゼフは泣いていた。

「彼女は死ぬ前に幸せになれたんだ。悔いを残して死んでったんじゃない――“意味”は、あったんだ」 

 ダリルはジョゼフの微かに震える肩に触れようとしたが言葉で、そう慰めた。 







 彼女の葬儀は『義理で参加されても娘は浮かばれない』という父親の強い希望から、身内だけで行われることになった。その為、大学の関係者――もちろんダリルも出席しなかったが、ジョゼフはそれに出席した。 

 彼は彼女を恋人として愛してはいなかったが、彼女という一人の人間の尊い命が失われたこと、死ぬ前、彼女がどれだけ純粋に彼を求め  

 そして、それが最期であったことを悔やみ…… 







 ダリルがこの町に来てから四度目の六月。彼は大学の卒業の日を迎えていた。毎年式が行われるのは丘の上の大聖堂で、卒業生達は皆、伝統である黒のマントと博士帽を被る。見物客もいる中晴れやかに式は行われ、無事幕を閉じた。 


 これでまた夢へと一歩近付けた。次は総合病院で働きながら経験を身に付け、やがては故郷に病院を建てる――その夢に向かって…… 

 現実主義で冷静な彼も、この時は喜びで涙が滲んだ。そんな中ジョゼフは、女子生徒達からの熱い抱擁や接吻を受け、彼の周りにはすっかりハーレムができていた。そのハーレムから逃れるように、彼はダリルの側へとやって来た。

「ダリル〜」 

 そう言った彼は少しやつれ気味だった。

「モテモテだな?」 

 ダリルはちょっぴり意地悪な顔で笑う。こんなジョゼフを見られるのも今日で最後かもしれない。しかし、それは二度と会えないと決まったわけでもなく、会おうとすれば会えなくもない。だが…… 



 この気持ちは過去(ここ)に置いて行こう


 そう決めた。 



 そしてダリルは最後にジョゼフを抱き締めた。その声も、髪の色も、海のような青い瞳も、その形も、全て記憶の中に刻み込む。そして二人で聞いたレコードのあのモノラルの音をBGMに……いつかまた思い出すだろう。 

 快晴の空が今日の日を祝福してくれている。心地よい風は二人を新たな道へと導き、別々の世界が存在することを知らせているようだった……



ラストシーンは、『ORDINARY WORLD』(グレゴリアンのカバーバージョン)を聴きながら読んで頂けるとうれしいです。(この話のイメージソングなので(#^.^#) ちなみにオリジナルはデュラン・デュランというイギリスのロックバンドで、いろんなアーティストがこの歌をカバーしています。日本ではHYDEさんもカバーされていますし、多くの方に愛されているようですね。視聴ができるサイトが結構あるのでぜひ聴いてみてください。


 歌詞のモチーフは亡くなった友人だそうです。瑞々しく躍動感のあるメロディから、終盤に向かって空に闇が迫ってくるように低音に変わっていく、美しくもどこか寂し気なイントロから始まり、続くAメロからもう既に切なくて、何かが起こりそうな予感をさせます。歌詞を見ればその理由がわかりました。切なさと現実を受け入れて強く生きていこうとする決意が、音と歌詞から伝わってくると思います。

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