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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

弩の猟師

作者: セロリア

時は2020年。


85歳、男、職業、猟師。


北海道、雪山、吹雪、山奥、丘の小屋にその男は居た。


赤熊殺しの異名を持つその男は、部屋の隅にある暖炉から繋がる部屋中に張り巡らされてるパイプ。


伝わる熱が走る暖かい空気の中で、カーボンで出来た最新型の特注弩の封を開封していた。


男の名前は石塚達蔵 (いづか たてぞう)


熊は高額で取引される。


石塚はお金持ちだが、娯楽には興味がない。


あるのは、熊。


地上最強の森の怪物。


知能が高く、人を欺き、山の生態系の頂点に立つ生き物。


赤熊は夫婦で人間を狩っていた。


あの日。


赤熊の雌を殺したあの吹雪日。


吹雪の音に混じり、高い熊の雄叫びが聞こえた気がした。


現在。


石塚「わしが憎いか・・人間が憎いか・・人間は・・旨いもんなあ・・なあ・・熊も、旨いちうよ・・〈キュキュキュキン、カチャカチャ〉」


短く、しかしかなり重い20cmの矢を暖炉の光にかざす。


石塚「わしとお前、どっちう強えかなあ・・なあ・・くく」


酒を飲む。


2発連射可能、カーボン素材の弩。


セットした矢が発射され、次の弦をテコの原理仕組みで引いた時、上の矢が落ち、そのままセットされる仕組み。


何故銃をつかわないのか?


赤熊雌を仕留めた、2012年、NHKインタビューに石塚はこう答えた。


石塚「あいつらは山を知り尽くちう、人間が通るルートなんざ最初から解っち、火薬の匂いもあいつらはもう知っと、火薬の匂いさせながら山に入ってみ、こんからあんちを殺しに来ました馬鹿ですって宣伝スピーカーを垂れ流ちう歩くようなもんだで」


NHK「し、しかし、今まで狩れてますよね?」


石塚「熊にも、ベテランと素人が居る、つまりは、そういうもん」


NHK「わ、我々に気付かれないよう、上手く人間を狩る熊が存在する、そ、そういうことでしょうか?」


石塚「いんや?気付いとるよ?そういう熊は実際居るち、行方不明の猟師もようけおる」


NHK「なら、何故自衛隊に要請しないのですか?」


石塚「なんだ、お前知らねえのけ?自衛隊は負けたんだ」


NHK「は?」


石塚「ここいらにも、道路建設の話が上がってな、そういう熊が居るってんで、山狩りが自衛隊だけで行われたっちゃ」


NHK「そ、それで!?」


石塚「自衛隊は当時腰抜けなんざ居らんかった、戦後だっちゃ、勇敢な戦士ばっかりだっちゃ、それなが・・120名中、生き残りは2名、それも凍傷が酷えけのう・・1名は死んだ」


NHK「最後の生き残りは・・」


石塚「死んださ、また赤熊に挑んで、山に入って、それっきりじゃあ、・・酒飲みの暴力ばかり振るう馬鹿な男じゃっち」


NHK「・・な、何故、そんなにも生き残りの男について詳しいのですか?」


石塚「死んださ男は石塚八兵、俺の親父じゃき」


NHK「!?な、なんて事だ!ぜ、是非!ドキュメンタリー制作にご協力を!!な、何卒!何卒おお!!」


職員一同土下座。


石塚「食われても良い覚悟、あるなや?」


NHK「は?」


石塚「正面から戦う馬鹿な男にわしが見えるなや?お前らが機材をカチャカチャ音立てながら歩くなら、わしは遠くからお前らを見ちょるよ、良い餌になっちょる間に赤熊を殺す、任せ、確実に仕留めちゃる」


NHK「は、ははは、冗談ですよね?」


石塚「お前らと一緒に歩くくらいなら、ここで自殺したら早ら」


NHK「・・」


石塚「山はのう・・うるさいようで、静かじゃやね・・匂いも、音も・・何にもようせん・・熊も、ワシも、匂いも音も絶対に立てん、山と一つになれんかった者は、餌になる、それがあの静か~~な・・静か~な・・戦場の掟じゃち」


NHK「・・」


石塚「解ったら帰りや、熊は鼻が良い、この山に餌が6人入ったことはもう解っちょる、暗うなる前にはよう帰り」


暖炉の明かりが小さくなり、赤々と熱だけが伝わっていた。


現在。


朝。


朝食を済ませ、カーボン弩の練習。


木の枝に吊るした分厚い板、左右に一枚ずつ、この板を貫いていれば倒せる。


構える。


石塚「・・」


〈シ!ヒイイイイン、バカアアアン!!》


板が砕け散った。


すかさず弦を引く為テコの原理で下から上へ枠を上げ、その時次の矢が落ち、装填、弦を引っ掛け、また、下ろす。


続いて発射。


《バカアアアン!!》 また破壊。


石塚「・・いけるなら・・弾道も重いから風の抵抗もない・・これなら・・待ってるがなや・・赤鬼!」


2020年、2月、動物愛護法、追加項目により、突然、山の動物は山の生態系のまま、生かすという法律が出来た。


その為、石塚達蔵は仕方なく山を降り、市役所の労いの言葉を受けながら退職となった。


2ヵ月後。


北海道で熊による民間犠牲者が増加。


国はやむを得ず村と山の境界にバリケードを設置。


しかし、熊は人間の味を知ってしまった為、人間を求めて常に移動。


バリケードの反対側に出没するようになり、目撃情報が相次ぎ、2020年5月、ついにバリケードを設置してから初めての犠牲者が出た。


犠牲、死亡者数15名、寝たきり3名、負傷者数38名の内、障害者認定18名。


老人会の山登りだった。


ラジオを大きな音で鳴らし、各自、熊撃退スプレーを常備していた。


それなのに、熊は逃げるどころか、人間を襲い、山に連れ去ろうとした。


完全に人間は餌という認識の元、行動していた。


この報告を受け、国は自衛隊を派遣、駆逐した。


そして人の血の味を知った熊、猪、犬は駆除対象となることが国会で議論されだした頃。


街の飲み屋で一人食べ、飲んでいた石塚の元へ、スーツの上から水色ジャンパーを来た、市役所連中と思われる3人が店の中で土下座してきた。


まあまあ、と座敷に上がり、話を聞くことに。


市役所1「今、街は大変な騒ぎです、熊は何十匹暴れ、あの赤熊は市役所の中に入り、あの例の・・赤熊の雌の剥製を咥えて去って行きました、何も食べずに・・剥製だけ・・」


石塚「・・俺が行って何になる?そんだけ騒げば自衛隊が片付けてくれるっぺ?」


市役所2「それが・・」


石塚「あ?」


市役所1「自衛隊は動かないと言って来ました」


石塚「はあ?そげなこんあるかや?」


市役所「自衛隊はあなたにまずは頼め、そう言って来たんです」


石塚「は?なして?」


市役所3「あの雌をやられた、自衛隊より先にやられた屈辱を晴らしたいんだと、我々は思うちょります」


石塚「・・前田か・・」


市役所1「今の自衛隊のトップは前田典昭、あの全滅した自衛隊の指揮をとっていた男、前田健二の息子です!」


石塚「わしに先を越された嫌がらせか?」


市役所2「恐らく」


市役所「お願いします!石塚さん!!我々にはもう!もう!あなたしか!あなたにしか!!う、うううう」


3人一同、畳に頭を何度もつけ、土下座。


石塚「わしが、行くとしてだ、法律は?大丈夫け?」


市役所「そ、それは・・その・・」


市役所2「村中、いんや!県民から署名を今職員が総出でかき集めています!だから、無罪にして見せます!どうか!!今国会で騒がれてますし!マスコミも市内の騒ぎを放送したがってます!圧力が凄くて放送は出来ないそうですが、でも!今ネットを使って村、市の内情を暴露してます!同情を集めてます!だから!お願いします!これ以上!あの熊による犠牲者を増やさんと!!お願いします!!」


また一同土下座。


石塚「・・はあ・・解っちゃ・・顔あげね」


市役所「!!」


石塚「まだ、あれ、保管しちょ?」


市役所「!!はい!!大事に油紙に包んであります!」


石塚「んなら・・いっちょ、やるべや」


市役所「はい!、ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」


久しぶりの市役所の匂い。


階段。


金庫保管されていた、カーボン弩を取り出す。


矢、30発。


弩動作確認。


晴れてる内に小屋に戻る。


服を着替える前に、採取してきた葉を刻み、汁を取り、体に擦り付ける。


顔、髪にも。


そして、マタギの毛皮の戦闘服に着替える。


石塚「・・ふう・・さあて・・俺が山に帰ってきたこたあバレとる・・お互い因果よなあ・・赤鬼・・」


普通の弩を持ち、背中にカーボン弩をからい、晴れてる内に出発。


草、木の傷、糞の温度、量、を見ながら歩く。


熊の足跡。


赤鬼ではない、が、それでもデカイ。


まだ新しい。


背中のカーボン弩を構え、普通の弩をからう。


次の瞬間。


目を瞑り、微動だにしない石塚。


30分経過。


60分経過。


〈コフ〉


石塚は目を開け、息が聞こえた場所に構え、2秒後、発射。


熊は雄叫びを上げないまま、即死。


石塚「ふう・・残り29本・・後何体居るんか」


もう日が暮れる。


石塚は撤退した。


次の日も、石塚は慎重に事を進めた。


1日に1~2体を駆除し、日暮れを計算に入れ、動いた。


討伐証明に右腕の親指だけ持って帰る。


ビニール袋二重にして、徹底的に匂い対策。


そして帰る。


山の熊は劇的に減ってきていた。


麓では、マスコミや、新聞、雑誌で持ちきりだ。


自衛隊ですら敵わない赤熊に一人で挑んでいる勇敢な老人。


伝説のマタギ。


ドラマ制作や、映画制作まで起き出した。


山に籠り1ヵ月後。


深夜。


暖炉の薪がパキガランと崩れた。


その音で目が覚めた石塚。


異様な気配。


直ぐに明かりを見るのを止め、火を消した。


目を開ける。


カーボン弩を手に取る。


既に2発装填済み。


微動だにしない。


目を閉じる。


〈カチャカチャ、カチャカチャ〉 ドアノブが静かに回る。


しかし、鍵が掛かっている為開かない。


〈カチャカチャ、カチャ・・〉


静かになった。


石塚は弩を置き、着替え、吹雪用の毛皮をかぶり、毛布の上に座り、弩を構え、朝まで警戒した。


朝。


ゆっくりドアを開ける。


そこには、人間の死体が3体、どれも酷い傷だった。


石塚「赤鬼め・・心理戦できよるか・・可哀想に」


家の少し離れた場所に3人を埋め、その日はそれで終わってしまった。


また夜中にそいつはやって来た。


〈カチャカチャ、カチャカチャ〉


今度は暖炉は消さない。


すると、声が聞こえる。


?「助けてぇ・・開けてえ・・食われてるんだあ・・嫌だあ・・早く助けてえ・・」


石塚「馬鹿が・・戦場の山に入る馬鹿があるか・・残念だが、諦め、お前は助からん」


?「そんなあ・・家族が居るんだあ・・頼むう・・助けてえ・・」


石塚「お前の後ろには熊がおる、見えんなら、見えんだけだ、おる、絶対にな、このドアを開けさせる気だ、だから開ける訳にはいかん、すまん」


?「熊から逃げてきたんだあ・・頼むう・・死ぬう・・」


石塚「熊から逃げた?違うな、逃がされてきたんだ、はよそこの崖から飛べ、その方が早い」


?「あ・・ああ・・早く!早くう!なんか居る!近づいて来て・・あ!ああぎゃあああああ!!いや!やめ!食べないでえ!!やめ!ぐお!んえ!じゃごぶえふう!ふう!ふうう!!ふげあ!!ぐぼ!あ!ぎ!ひゃ・・び・・・・・・・・・・」


《ボシュ!グギ!ボキ!ゴキキ!クチャクチャ、ゴキキ!クチャクチャ・・》


石塚「・・すまん」


部屋の中に入られれば、勝ち目はない。


石塚は黙って、引きちぎられる肉の音を聞くしかなかった。


朝。


石塚は死体を横目に出発。


埋めてやる時間は無い。


赤鬼を殺す。


その使命の為に汗をかき、山を登る。


全ての邪魔な情報を無視し、赤鬼の痕跡のみ、探す。


14時、赤い毛が枝に絡まっているのを発見。


後1時間で日が暮れる。


ここは、山の影になる、日暮れが早い。


石塚「急がねば」


その頃巷には、マスコミ、動物愛護団体が騒ぎを大きくしていた。


ニュースで特番が組まれ、石塚達蔵は犯罪者だと騒ぎ立てる。


ネットでも、人と山は相容れない、野生の世界には人は干渉するべきではない等々が騒がれ、石塚達蔵を悪人に仕立て上げる動きが活発化。


そんな中、熊の被害が解ってる市町村が別マスコミに頭を下げ、被害者達の現場の叫びを伝えた。


熊を生かすのは賛成だ、しかし、人の肉の味を覚えた野生の肉食獣は、例え、人が山に干渉しなくとも、わざと人里に降りて、弱い子供、女、老人を襲い食べる事は事実としてあるという事。


叫びを叫んだ。







その頃、山。



なるべく汗をかきたくない石塚は、雪を脇に挟み、体温を下げる。


赤熊は、しっかり匂いを読み、先回り。


石塚は熊の罠にまんまと嵌まった格好だ。


谷の間、人間は走れない。


弩は一発射てば、時間がかかる。


上から飛んで、体重をかけ、踏めば、人間なんか直ぐに死ぬ。


赤熊は自分の妻を殺した男に復讐したい、その一心だった。


食わない。


食わずに、ゴミとして、放置してやる。


人里に飾ってやる。






石塚は谷に続く糞、足跡を追って来た。


そして。


石塚「・・」


立ち止まる。


上から赤い毛の巨大な熊がフウフウ言いながら現れた。


石塚「・・」


ゆっくり振り替える。


石塚「・・よう、ひさしいの」


赤熊「ふご、ふご」 


笑っているようだ。


優越感に浸りながら、ゆっくりゆっくり歩いてくる。


まだまだ遠いが、目視出来る距離であり、弩の射程距離にはまだ遠い。


赤熊はゆっくり下る。


石塚は立ち尽くす。


石塚「・・なあ?人間を襲っても、一時 (いっとき) ぞ?美味しいんわ、人間はしょっちゅう殺し合いしちゅう、俺を殺っても、次は自衛隊じゃき、わんさか、わんさか、いくら殺しろうがキリなかちょ」


赤熊「ゴフ、フゴ」


だんだん走る。


石塚「・・人間は、こわいちゃあ・・お前が、可愛いち、人間は、おそろしゅうてたまらんちい」


赤熊「フゴアアアア!!」


全力疾走で向かってくる。


石塚「なんで、なんで人間なんか食べたがや?」


石塚は泣いていた。


赤熊は歓喜の雄叫びを上げながら走ってくる。


石塚「・・しゃらばじゃあ 〈チキ、カキン〉」


構える。


赤熊は構わずに走ってくるが、少しジグザグに走る。


石塚「・・」


〈シ!ヒイイイイン!!ガキュ〉 石に当たった、外れたのだ。


赤熊は勝利を確信し、ジグザグの動きを止め、真っ直ぐに来た。


石塚「すまん・・」


まだ構えを解かない石塚に疑問が浮かぶ赤熊。


次の瞬間、〈カキン、カチ、ガチャン〉 装填完了。


赤熊「!?・・ウウグオオオオ!!」


覚悟を決め、突っ込む。


〈シ!ヒイイイイン!!ドス!〉


赤熊「ガフ!?ウウグオオオオ!!!!」


赤熊の肩に当たった!・・が、構わず突っ込んで来る赤熊。


石塚「わひゃ!?」


赤熊は勝利を確信し、跳んだ。


石塚「・・すまん」


赤熊「!?」


石塚の腹から無数の小さな鉄球が爆音と共に発射された。


指定方向性地雷、クレイモア。


石塚の手作りだった。


ガムテープで隙間なく張り付けていた、匂い対策だ。


赤熊は勝利を確信したせいで跳んでいる、もう、方向転換は出来ない。


赤熊は悟った。


人間を見殺しにしたのも、焦ったように見せる為。


本当はあのとき、人が食われてる音を聞きながら、コイツは寝ていたんじゃないかと。


谷間に誘われ、罠に掛かったのも、この人間が下にいく為?この爆弾を腹に付けるなら、上にいる敵を殺すのが都合が良いから?


赤熊「・・ (ばけものだ・・すまん・・かたき・・とれ)」


《ズシャアアアアア!!ザザザアアア!!パラ、コロコロ・・》


赤熊は石塚の直ぐ横に倒れ、暫く滑り、転げ、止まった。


舌は出て、目は閉じない。


石塚は赤熊に歩み寄る。


石塚「戦いの前はのう・・お前が恐ろしゅうてなあ・・自分を鼓舞する為に色んな事、自分に言い聞かせたあ・・でもなあ・・やっぱり・・おみゃあは・・人間から逃げて欲しかったわあ・・なして・・なして逃げなんだべやああ・・馬鹿があ・・馬鹿があ・・馬鹿な野郎じゃあ・・馬鹿がああ・・ヴあああああああああ、うアアアアアあああアア、アアあああああ・・」


赤熊の背中を叩きながら、徐々に失われ行く体温、白い雪が、赤く染まっていく。


もうすぐ、真っ暗になる。






マスコミかわ騒いでいる市役所へ、一台の軽トラがやって来た。


石塚だ。


軽トラには右腕が乗っていた。


そして大きな赤い袋も。


軽トラは市役所の玄関に止まり、石塚は降りた。


マスコミが騒ぐ。


それを尻目に石塚は右腕を見せる。


石塚「山の人食い鬼はわしが仕留めた、後は、雑魚の熊ばかりじゃき、地元の猟師で何とか出来るじゃろ」


マスコミ、動物愛護団体『あなたは心が痛まないんですか!?、そうだそうだ!弱いもんを殺して!!殺人となんら変わらんやんか!!、動物は動物の世界があるっちゅう!!、そうだそうだ!この快楽殺戮者あ!!そうだそうだ!』


石塚「・・ほうか、では、あのまま、ほっときゃあ、よかった、そういうちょうやな?」


赤い袋?を軽トラの横ドアを開け、見せる。


石塚「カメラ回せえ、これが現実じゃあ、これは胃袋じゃき」


マスコミ、動物愛護団体『は?』


皆が心の準備を終える前にかっさばく。


〈ザキャ、ザクザクザクザクザクザク、ドロオオオオ・・〉


人間の想像したくない部分が、皮膚というモザイクなしの姿で、バラバラに露になった。


気絶する者、吐く者、呆然とする者、色々居た。


石塚「さあ!!ようみい!!ほらあ!ようみんかあ!!これが現実じゃあ!!お前らとわし!どっちが正しいんじゃあ!!おお!!?、ほれえ!言うてみいやあわりゃあ!!どっちが正しいんじゃあ!!!!」


全国生放送されたこの映像に、保護者らはカンカンに激怒。


マスコミは大バッシングを受けた。


視聴者らは、石塚を悪者にするのを止め、今度はマスコミ、動物愛護団体を叩き始めた。


これには、マスコミ、動物愛護団体も呆れた。


結局視聴者は、叩ければ、正義感ぶれれば、敵は何でもいいのだと。


痛感したのだった。













3ヵ月後。


伝説のマタギ、石塚達蔵の特集がNHKで組まれた。


番組の最後に質問が石塚に飛ぶ。


リポーター「もし、またあのような人食い熊が現れた場合、また戦いますか?」


石塚「・・ほうじゃなあ、もう勘弁してほしゅう、一番は、人の味を与えん事じゃ、熊の餌を取らんでといてくれ、そしたら熊もわさわざ人を食わんよ」


リポーター「マタギとはなんですか?」


石塚「・・人間の尻を拭く役目じゃなあ・・ほほ」


NHKが帰り、夏の荒々しい岩山に風がうるさい。


石塚「さあ・・今日も、熊を減らすとするか、あいつらには、天敵はおらんからのう・・」


石塚の後ろには若いマタギがついていく。


石塚「さあ、ここから、音、匂い、立ててはなんねえぞ?」


若いマタギ「は、はい!」



高い空、白い雲、吹きすさぶ風。


二人は岩場を抜け、森へ消えて行った。






〈END〉


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