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これは、罰?

 それまで堪えていたものが、どんどん心の中から流れるように出て来て、涙が止まらない。

 どうしてこんなにも辛い目に合わなければならないのか。

 今まで泣いたことなんてほとんどないのに。

 酒と賭博に呑まれていた両親に、怯えながら必死に弟と妹と生きてきた時も、泣いている場合なんてなかった。

 お屋敷で働き始めて坊っちゃん達の嫌がらせを受けならがらも、いつも歯を食いしばって耐えるしかなかった。泣くと坊っちゃん達が喜ぶのが分かっていたから、坊っちゃん達の前では絶対泣きたくなかった。

 そりゃ人がいないところで少しは泣くことはあったかもしれないけれど。

 どんどん悲しい記憶ばかり思い出して、涙が止まらない。


 坊っちゃん達はよく虫を捕まえて、その死骸を人が食べている料理にも、せっかく洗ったシーツにも、人のベッドにすら隠して、見付けた人が驚くのを見て楽しんでいた。

 始めは虫がかわいそうだと思う気持ちがあった。でもだんだんと、死んだ虫のことよりもその後の洗濯のことばかり考えるようになって、虫への憐れみなんてどこかにいってしまった。

 私はまるでその虫みたい。

 誰からも憐れまれることもなく、首をもがれて、邪魔者扱いにされる。


 口煩い私を、両親が嫌っていたのを知っている。私は弟と妹を守らないといけなかったから言っていただけなのに。

 坊っちゃん達のターゲットになってから、他の使用人に私がいるから坊っちゃん達が悪さをするみたいに見られ始めて、使用人達からも嫌われていった。

 親の借金で売られて辞めることのできない私は、坊っちゃん達にとって格好の獲物。

 嫌なら辞めたらいい他の使用人とは違って、私に逃げ道なんてなかった。


 それに、私………

 何よりも今心に重くのし掛かるのは…

 私は、旦那様にも捨てられたのね…

 その事がとても辛くて、涙が止まらない。

 そりゃあ私なんて大して使えない使用人だったかもしれないけれど、でも、何人もの使用人が逃げ出したあの坊っちゃん達に、4年も耐えたのにそれがこんな風に放り出されるなんて。

 どうして私がこんな目に合わないといけないの?

 2年前からは1人で坊っちゃん達の相手をされられていたのに。

 坊っちゃん達に関わらなくていいなら辞めない、という気の強いおばさん達に、坊っちゃん達を押し付けられて。

 それから坊っちゃん達がシーツを泥だらけにしても、あの人達、坊っちゃんがしたことだからって洗濯もしてくれなくなった。

 毎日毎日、坊っちゃん達の泥遊びで汚れたシーツを洗い続けて、私の手はボロボロ。


 って、あの坊っちゃん達はいったい何歳よ!?

 何よ泥遊びって?

 虫を捕まえて使用人に嫌がらせも!

 4年もいたのに、少年から青年になったはずの坊っちゃん達のすることが全然変わってないって、イタイでしょ。

 まああの坊っちゃん達は既にそういう生き物くらいにしか思ってなかったから今まで不思議にすら思ったことなかったけれど。

 せめて、ルマさんとか料理長さんとか、気の強い人達がガツン、と言ってくれていたら違ったかもしれないのに。

 ルマさんは自分はただの使用人だからって何もしてくれなかったけれど、ルマさんの立場的にも坊っちゃん達を注意するくらいしても良かったんじゃない?

 あの坊っちゃん達でもルマさんが機嫌が悪い時は嫌がらせを控えていたし。

 料理長さんには食事をムダにするな、と1回怒られてから私の食事以外は手は出さなくなったし。


 だんだん悲しいのから、怒りに変わってきた。

 それに、何よあの人!

 ただでさえお屋敷は坊っちゃん達のせいで人手不足だったっていうのに、なんで自分の家の使用人じゃなくて私を連れ出したの?

 あの人のお家の事情なんて、私には関係ないじゃない!

 駆け落ちがしたいならちょっと声を掛ければ着いてくる女の人なんてたくさんいただろうに。

 それがどうしてあの人の相手を私がしないといけないの?

 私だって………いつあの毒牙にはまってしまうか…

 確かに年頃の娘らしくしたい、という願望だってある。

 でも、私の娘らしくは、かわいいお洋服を着て、楽しく友人とお喋りしたりしたい、とかその程度。

 恋人が欲しいとかまではいかない。

 駆け落ちなんて以ての外。

 なんであの人私なんかにそんな役をやらせようと思ったわけ?


 あ、あんなやつ、様呼びする必要なんてないのよね。

 そうだ。あんなやつ、アースで十分!これからは心の中だけでも呼び捨てにしてやる!

 たったそれだけのことかもしれないけれど、私にはそれだけでも大きな反抗だ。


 アースの違いすぎる金銭感覚に、着いていける気がしない。

 私がいくらアースを嫌いでも、いちおうもらってしまった給金の働きを最低限でもしなければ。

 その後は、家族を探そう。

 今までお屋敷に来てから1度も連絡をとっていない。

 今さらかもしれないけれど、弟と妹が心配。

 正直、その事を考えることから逃げていた。

 元の生活を考えると辛い。

 お屋敷仕事は辛かったけれど、それでも食事に困ることはなかった。

 坊っちゃん達のせいで何度も食べれないことはあったけれど、いつご飯を食べれるか心配していた前の生活程じゃない。

 弟と妹は、今もそんな苦しい生活をしているのだろうか。

 これは、罰?

 私がこんなにも辛い思いをしないといけなかったのは、姉としての役目から、逃げていたから?


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