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地図

 隣のベッドで寝ているアースライさ、じゃなくてアース様の寝息が聞こえてくる。

 よく寝ていられるなこの人は。

 結局同じ部屋で眠ることになってしまった。

 この宿で別の部屋を取った場合の値段を聞いて、私は諦めるしかなかった。

 だって、宿代だけでそんなにもかかっていたら、お金なんてすぐになくなってしまう。

 私の給金には手をつけないぞ、と私は固く心に誓っていた。

 それにしても、何なのだろう。

 考えなければいけないことが多すぎる。

 まだ状況を飲み込めていない。

 後1年は勤めると思っていたお屋敷仕事が、いきなり何の前触れもなく終わってしまった。

 その事を考えようとすると、心の中にもやもやと沸き上がってくるものがあり、それに気付かないふりを今はしている。

 それよりも、今は気になるのが、駆け落ちって………

 アース様のその設定に動揺している私がいる。

 もしかして………と思うのが危険なことはよーく分かっている。

 そう、多分、アース様にとっては遊びの一環なんだと思う。

 婚約破棄によって怒らせてしまったお祖父様に、駆け落ちをしていると思わせたいのらしい。

 多分、婚約破棄も、お家を出られたことも、アース様には特に理由なんてないのだ。

 ただのいつもの気まぐれ。

 その気まぐれがいつまで続くかというだけ。

 私はたまたまアース様の遊びのターゲットとするのに年齢が合っていたというだけなのだろう。

 今、私がしなければいけないのは、アース様を親戚の家に送り届ける。それだけ。

 その後アース様が私をどうするつもりなのかは分からないけれど…

 もしその親戚の家でも私を使用人として雇ってターゲットとし続けるつもりだとすれば………

 それはもしかしなくとも、ものすごく危険なのでは?

 国内だったら、1週間もすれば目的の場所まで着くはずだ。

 もし送り届けるだけでいいのであれば、私は後1週間で自由の身!?

 その後新しい雇用が始まってしまうと、今度は期限なしで一生アース様のターゲット扱いになってしまうかもしれない。

 そんなの、ダメだ。

 それだけは避けなければ。

 よし、私は今からとっても使えない使用人になってやろう。

 今まで優秀な使用人に囲まれていたアース様だ。私が使えないと分かれば、その後の雇用はしないはずだ。



 ほとんど眠れず、頭が重たい。

 どうやらアース様は先に起きているみたいで、主人よりも寝坊してしまうなんて、と思ったけれど、すぐに考え直す。

 使えない使用人を目指すならば主人よりも寝坊するのは正解の行動だ。

 アース様が隣の部屋にいる内にと、昨日の服に着替える。

 髪の毛がボサボサで、本当は結んでしまいたいのだけれども、長さが中途半端すぎて結べない。

 髪を無理やり切られた恨みはもちろんある。

 アース様がその内の1人であることを思い出すと、朝から嫌な気分になってくる。

 隣の部屋に行くと、アース様が机の上に広げた地図を見ているようだった。

 ………そういえば、私は目的地を知らないな、と今さら気付いた。

 地図なんてほとんど見たことなかったから見ても分からない訳だけれども。


「おはようございます」


 多少の寝坊の罪悪感があり、声が小さくなってしまったけれど、アース様は気にした様子はなく笑顔を向けてきた。

 朝からその笑顔は眩しすぎます。


「おはよう、エマ。今日もいい天気だね」


 どうやらアース様はとても機嫌がいいらしい。


「地図を見ているんですか?」

「ああ。目的地はここ。海沿いのきれいな街だよ。貿易が盛んで、とても活気がある。叔父さんはそこで貿易商をしているからそこで働かせてもらう予定だ」


 アース様が働くなんて言葉を使ったけれど、全く想像できなかったのでそこはスルーすることにした。

 それよりアース様が指差す所を見て私は疑問に思ったことを解消することにした。


「今はどこですか?」


 アース様は今はここ、と地図を指差した。

 どうやら昨晩は隣街の入り口で降ろされていたのらしい。

 アース様はどの道でいく予定なのかを嬉そうに説明してくれた。

 私は、そこまで道に詳しいのならアース様1人でたどり着けるのではないだろうか、と思いながら聞いていた。


「だいたいこんな感じかな」


 説明を終えたアース様は何か聞きたいことがないか、と聞いてきたので普通に疑問に思ったことを聞いた。


「この街は行かないのですか?」


 アース様の説明では、目的地である港街の隣街を避けて行くようだったので何故だろうと思ったのだ。

 それにこの街、もしかしたら私の生まれた街かもしれない。


「その街は行かない方がいいかもしれない。まだ2年前の疫病の大流行から復興しているとはいえないから」


 アース様の説明に私は心臓が大きくなるのを感じた。


「え?疫病、ですか?」

「けっこうおおきな問題になっていたけど、知らなかった?その辺の地域はそこまで酷くはなかったようだけれど、この街は街の整備がきちんとされていなかったのもあってかなり酷い状況だったらしい。大きな火事もあったっていうし、見てもいいものではないだろうし、今回は寄るのは止めておこう」


 私は信じられない気持ちで地図を見た。

 疫病?火事?なにそれ、知らない。

 アース様は朝食を食べよう、と地図を片付けた。



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