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覚悟

 結論から言おう。

 ただの小娘でしかない私がこんな横暴に従う訳にはいかない、などと抵抗する気力も勇気もない。

 説得という名目の愚痴り合いの数人に囲まれて私に『否』など言える訳がない。

 長いものには巻かれろ。アースが私のことを本当に好きなのか私のどこがそんなにいいのか謎はあれど、目の前の怖い人達に立ち向かう勇気などないのだ。


「とりあえず結婚さえしてしまえばあの子も落ち着くと思うから。嫌なら別れたらいいんだし。………まあ無理だとは思うけど」

「もしあの子に酷いことされたり困ったことがあったら遠慮せずに言いなさい。私達が必ず守ってあげるから。………まあないとは思うけど」

「もし離婚になったり、あの子がお金に困ったりしても言ってね。今後のことは一族の誇りにかけて責任を持つわ。………まあないはずだけど」


 とりあえずその後の対応はかなり恵まれているらしい。

 かなり強引に結婚することにはなるけれども、今後の金銭的不安も、もしかしたらのアースの心変わりの場合も一族の人達が責任を持って対応してくれるらしい。

 小声で付け足された語尾には気になるけれど、これはかなり良い条件なのではないだろうか。


 やっぱりアースのただの気まぐれだった。

 って捨てられた場合も一族の人達が責任を取ってくれるようなので少し私の心も落ち着いた。

 すぐ承諾をしようとした。

 のだけれども。

 ここにきて何故か旦那様と奥様がそんな横暴に従う訳にはいかないと私の代わりに反論を始めてしまった。

 お屋敷勤めを4年させては頂いたけれども、旦那様と奥様は私の親ではない。ないけれども、どうやら親のつもりで本気で抵抗して下さっているらしい。

 奥様はあの妄想癖で私の親にまだなりきっているらしいので分からなくもないけれども、何故に旦那様まで。

 どうやら旦那様はアースが私を連れて行きたいと言った時に承諾したことを後悔していたのらしい。

 しかも私がいなくなってから他の使用人達の信用が薄れてしまったらしく、そのことを気にされているらしい。旦那様なんてほとんど帰ってなんて来られなかったのに。

 でも一番側で仕えるルマさんに責められたら気にはなるかもしれない。


 旦那様と奥様の反論もあり、結局1週間がゴタゴタと過ぎ去った。

 最後はアースの誤解が解けて一応納得して下さったらしい。

 どうやらアースが私を酷い目に合わせるのではないかと心配して下さっていたみたいなのだけれども、一応アースは今のところ強引で人の話を聞いていないところがあるけれども、私に暴力を振るったりとかは今のところはない。

 お宅の息子達の方が酷いこと沢山されましたけれども。なんて今は言わないけれども。もうこれ以上ゴタゴタしたくはない。


 結婚式がすぐに迫っているとはいっても特に私がすることはなかった。

 ドレスのサイズの確認をしたりとかはしたけれども、基本的にジーナさんや他の一族のおば様達の話を聞いたりお茶をしたりして毎日のんびりと過ごしていた。

 とりあえずもう少し太れと言われて1日中何かを食べていた。

 でもアースは忙しそうにしていて、毎日顔を合わせてはいたけれども、直ぐに仕事か結婚式の準備なのか知らないけれどいなくなることも多かった。

 とても恵まれているとは思ったけれども、一族のおば様は要は私の監視をしているようなもので。一人でのんびり考えに更ける時間が欲しいなとは思ってしまった。

 どうやら承諾したとはいえ逃げ出さないかとかの心配はされているらしい。



 そんな逃げ出したりしないのに、とは思っていた。

 今更そんな無駄な抵抗などしない。

 そう思っていたのに、心は徐々に追い込まれていたらしい。

 結婚式が2週間後に迫ったある日、私の心は乱れた。

 この短い間に起こったことがいきなり心にのし掛かってきたみたいで、心が限界になっていた。

 日々のただのおば様達とのお茶やお食事も、気を遣うので正直しんどかった。

 不安定に乱れた心のまま、その日の夜、私はアースの部屋を訪れた。

 結婚式が終わるまではアースが私の部屋へくることは禁止されていたので、夜に訪ねてきた私を見てアースはとても驚いていた。


 私は、不安定な精神状態のまま、アースに結婚式を止めたい、と泣きついていた。

 今更式を止めるなんて準備だって進んでいるし、手伝って下さっている人達にだって迷惑をかけてしまう。

 いつもの私だったら迷惑をかけることを気にしてこんなことを言ったりしない。

 けれどその時の私は混乱状態だった。

 アースに何が嫌なのだ、と聞かれてもただ「無理」と駄々っ子のように繰り返すしか出来なかった。

 アースにキレてしまった旅の始まりの時よりも泣いて、ただただ無理だ、と繰り返すしか出来ない。


「エマ!君の言うことなら何でも聞くから!」


 アースの必死そうな様子も私の心を落ち着けはしなかった。


「じゃあシャラさんに会わせてよ!女将さんにも、ミミさんにも!おばあさんにだって、スミさんにだって、キーちゃんさんにだって会いたい!ルマさんにも、料理長さんにも!」


 どうして私はこんなことを言ったのか。会いたいのは本当だったけれど、アースには無理だろうと思っていた。

 おばあさんやスミさんのことはアースは知らないのだから。キーちゃんさんのことも。

 またあのお店に行こうと思っていたのにまだ行けていないことが心に引っ掛かっていたのだと思う。


 私はただ泣いて、泣いて、私を抱き締めてきたアースの腕を払おうとして力負けして無理で、アースの胸に顔を埋めながらも一晩中泣いていた。

 泣きつかれて眠ってしまった私は朝、アースのベッドの上でアースの腕の中で目が覚めた。

 上半身を起こしてまだ眠るアースの寝顔を見ると、アースの顔は疲れが滲み出てるように目の下に隈が出来ていた。

 そっとアースの部屋を出て、私に与えられている部屋に戻る。


 妙に頭がすっきりしていて晴れやかな気分だった。

 昨晩の不安定な心はどこかに消えていた。

 覚悟が決まった。

 そう思った。

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