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 私はショックで何の反応も出来ないでいた。

 クリフが私の名前を聞いても部屋に逃げるように入って行ってしまった。

 それに、目に包帯って、クリフの目はもう見えない、ってこと!?

 手に杖を持っていたし、足も悪くしているようだった。

 やんちゃで走り回っているクリフしか知らない私には、受け入れがたい現実だった。

 叔母さんが私の手を握って説明してくれた。


「火事の時に、目と足を悪くしてしまって、やっと落ち着いてきたところなの。体は大分良くなってはきたのだけれど、クリフもまだ十五才だもの。頑張って、戦っているのよ。今日はね、クリフの初仕事の日だったのよ。きっと疲れちゃったのね。本当はまだ働くのは早いと私とダグは止めたのだけれども、クリフがどうしても働きたい、って言ってね。まだお試しで働いてみる、ってことになっているのだけれども、これからどうするか確認もしないといけないからちょっと私はクリフのところにいってみるわね」


 そう言って叔母さんはクリフの部屋に入っていった。


 私の顔が青ざめていたからか、叔父さんが温かい飲み物を入れてくれた。

 叔父さんはとても無口の人のようでほとんど喋ってこないのだけれども、ルークとユリが懐いているのを見ると良い人なのだと分かった。

 ルークがおもちゃを自慢気に見せてくれるのをぼんやりと見ながら座っていると、気が付くとユリが私の横に座っていた。

 ユリもちょっとは私に心を許してくれたらしい。

 ただ、こうやっているだけでも分かる。

 ルークは十二才にしては子供っぽ過ぎる気がするし、ユリは今のところ全く喋っているところを見ない。

 もしかして私と同じように喉でも悪くしているのか、と心配になってユリの方を見ていると、もう1つ気付いた。ユリの表情が全く変わらない。

 私のことを警戒していて表情が固いのかと思っていたけど、ルークのおふざけの入ったおもちゃ遊びを見ていても全く表情が動いていなかった。

 問題はクリフだけでは無さそうだった。


 弟妹達の様子に罪悪感が出てくる。

 確かに私の弟妹達とは生きて会うことができた。それは良かったけれども、生きているからこそ、この幼い子供達にも心に大きな傷が出来てしまっているのだろう。

 それなのに私は不幸ぶってアースに当たって声が出なくなっているなんて。

 否、止めようこんなことを考えるのは。

 弟妹達がこんな風になっているのをまるで自分の責任のように感じるなんて、無意味なことだ。

 確かにこの子達の辛い時に私は側にいてあげることが出来なかったけれど、今会えたことを大切にしなければ。

 そうですよね、シャラさん!

 と心の師匠に問いかけていると、叔母さんがクリフの部屋から出て来た。


「エマ、クリフがあなたと話したいって。あなたの声が出ないことは言ってあるのどけれども、少し話を聞いてあげてくれるかしら?」


 叔母さんに言われて私はすぐにクリフの部屋に向かった。ルークとユリも付いて来ようとして驚いたけれど、2人は叔父さんと叔母さんが止めてくれた。


 クリフはベッドに座っていた。

 私が部屋に入った音を聞くと、手を伸ばしてきた。

 私がクリフの向かいに立って手を取ると、クリフは手に力を入れてきた。


「本当に姉さんなの?」

「もち、ろん」


 私が出ない声を無理やり出すと、クリフは私に抱きついてきた。


「姉さん!」


 クリフのその様子が会いたかったと言ってもらえたようて、私は嬉しくてクリフを抱き締めた。

 しばらくそうしてるとゆっくりとクリフは体を離してきた。目元は包帯をしているのでよく分からないけれど、照れているように見えた。


「さっきはゴメン。ただびっくりしただけなんだ。姉さんは喉が悪いんだってね?姉さんも大変だったんだよね」


 クリフに言われて私は泣きそうになった。

 クリフの方が大変だっただろうに、私のことを気にしてくれるなんて、本当に優しい弟。

 私にとってクリフは弟妹達の中でも特別だった。辛い時を一緒に頑張ってくれていた戦友のような存在。


「姉さんは帰ってきてくれたんだよね?また一緒に住めるの?」


 クリフの問いに、私はどうしたらいいのか分からなかった。

 先のことを全然考えていなかった。

 私はここに住んでもいいの?

 叔母さんにちゃんと確認しないと。

 しばらくは住まわせてくれるだろうか。

 クリフには肯定するようにおでことおでこを合わせあった。


 私とクリフは叔母さんの夕食にしようという声に呼ばれて手を繋いで部屋を出ていった。

 私とクリフを見て叔母さんがとても喜んでいた。


「家族がやっと揃ったわ」


 そう言った叔母さんの目は少し潤んでいた。

 その日の夕食はとても豪華だった。

 どうやらクリフの仕事の初日だったこともあって叔母さんが腕によりをかけてくれたらしい。


 父さんの妹だというからどんな人かと思ったら、叔母さんはとても良い人だった。

 昼間に確認したばっかりの私は幸運だという事実が見に染みてくるようにじわじわ私の心を温かくしてくれる。

 もちろん、全てが幸運であったかとは分からないけれど、今は会えたことを喜ぶべきなんだろうと思った。


 その日、1階のクリフの向かいにある客室に私は泊めてもらった。

 眠りに入って少ししてから、ユリの泣き声で目が覚めた。

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