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お酒

 2時間も無言で歩き続けていると感傷的な気持ちも薄れてしまうらしい。

 それよりも疲れの方が大きくて、ほとんどお昼は食べれなかった。

 アースは先に進むつもりだったようだけれど、私はもう休みたかったのでアースが食堂から出ようとして持った鞄を押さえた。


「エマ?」

「…………」

「次の村で休もう。ここはこの1件しか宿はないようだし、まだ休むのにも早いし」


 アースの言い分は分かる。次の村まで行ったくらいで休むのが時間的にもいいくらいだろう。

 でも私の体力はもう限界。眠たくて仕方ない。ていうかアースが早く起こしてきたのも原因のはず。


「………嫌」


 まだそんなに声が出ないのでそれしか言えなかった。

 アースは考えているのか少し間があった。


「それは、エマのわがままってこと?」


 そういえばアースにわがままを言えとか言われていたっけ?

 わがままでも何でもいい。今日はもう休みたい。

 私が頷くと、アースは了承してくれたようだった。


「分かった。今日はここで休もう」


 そう言ったアースはニヤニヤした顔をしていた。


 宿の部屋に入ると私はすぐにベッドの上に倒れるように乗って寝てしまった。

 夢の中でシャラさんに言われた言葉が聞こえてきたような気がした。


『今のあなたは向けられているものを受け取るだけでもいいんじゃない?』


 向けられているもの、とは何だろう?

 それにしてもシャラさんは声も綺麗だったな。


 目が覚めると、既に夕方になっていた。

 部屋の中にアースはいなくて、私は重たい体をしばらく横たえていた。

 まだ眠たい。けれど、お腹が空いた。

 部屋を出てアースを探しに行くべきだろうかと考えていると、アースが部屋の中に入ってきた。


「エマ、起きたの?」


 体を起こそうとするとアースが手を差し伸べてきて手伝ってくれた。


「よく寝てたね。ご飯食べれそうならもう食べる?」


 私が頷くと、アースは下の食堂に行くまでずっと手を繋いだままだった。

 まだ時間が早いのか食堂はそんなに混んでいなかった。

 いつものようにアースが料理を注文してくれた。


「この村は果実酒が有名らしいよ。飲んでみる?」


 アースは今日は私の分もお酒を頼んだ。

 お酒はあんまり飲んだことがなかったんだけど、果実酒は飲みやすくて美味しかった。

 普段飲まないからか私は飲み過ぎてしまったらしい。

 ご飯もそこそこ美味しかったし、少し楽しい気分になっていた。

 その時、私はいつもよりアースに対して悪い気がしてなくって。

 私の喉のことを気にしてわざわざ森の魔女様のところにも連れて行ってくれたし、なんだかんだ優しいところがあるのを認めるしかなかった。

 だから、アースの体がすぐ近くにあって、唇を塞がれた、と思っても酔ってフワフワした私の頭は拒否するなんて思いもしなかった訳で。



 体に重たいものを感じて目が覚めた。

 アースの顔がすぐ横にあって、同じベッドの上で私達は裸で寝ていた。

 横向きに寝ているアースの片足が私のお腹の上に乗っていて重たい。

 ……………………。

 やっっっってしまった。

 否、正しくはやられた方なんだけれど。

 事後であることは疑いようもなく。

 うっっっっそでしょ?

 そんなまさか。

 お酒が入ったくらいでこんなに簡単に体を許してしまうなんて。

 何をやってるの、エマ?

 アースにとってはただの関係を持った1人に過ぎないのだろうけれども。

 同じ部屋に泊まるのが当たり前になってしまって警戒を怠っていた。

 否、本当はいつこうなってもおかしくないとはちょっとは思っていたけど。

 私の生まれ育った土地を思えばよく今までこの身を守ってこれたものだと思わなくもないのだけど。

 親の借金の代わりに旦那様に連れられてお屋敷仕事をすることになっていたけど、体を売る店に売られても不思議じゃなかったんだから。

 それにね、エマ。

 ショックよりも今まで何人もの美女の裸を見てきたアース(予想)に裸を見られたことが恥ずかしいって気持ちの方が強いというのもどうかと思うのよ?

 この貧相な体を晒す日がきてしまうなんてね。

 今私は恥ずかしがるよりも怒っていいところなはず。


「エマ………。まだ眠たい」


 一応意識が浮上はしたアースはまだ眠いと言いながら私の体に抱きついてきた。

 ちょっっっ、ちょっと!

 私達裸なんだけれど!?

 しかも以外と抱きついてくる力が強くてアースの腕の中から逃げ出せない。

 アースが寝返りをうつまで私は動くことが出来なかった。


 これはどうしたらいいの?

 ここは冷静にならないと、エマ。

 何もなかったかのように振る舞うの!

 昨晩私達の間には何もなかった。いつも通り、何もなかったかのように。反応しちゃダメ!


 そんな演技力私にある訳がなかった。

 意識しないようにすればするほど恥ずかしくてアースの方を見ることが出来ない。


「エマ、怒ってるの?」


 アースが声をかけてきても私は無視をした。

 視線どころか体の向きもアースの方に向けることが出来ない。

 アースが触れてきそうになると思いっきり手を叩き落とした。

 攻撃体勢に入った猫みたい。


 今日は雨だった。

 アースが昨日の内に馬車の手配をしてくれていたみたいで今日は馬車での移動だった。


「エマ、何か言ってくれない?」


 アースが何度かそう言ってくる。

 でも私は全部無視をした。せっかく声が出るようになったのに。

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