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高き悲鳴は響き渡った――救援へ

他に載せる積りだったんですが、またやらかしました。

キャラは嫌いじゃないので連載すると思います。

 ギャリィは悲痛な叫び声で目覚めた。遠くから聞こえたような、ただの声ではないような気がした。絶叫。それも振り絞るような血の絶叫。いつまでも続いたような気もするし、すぐ終わったような気もする。

「ねえ、聞こえた?」

 ふあぁ、と欠伸をしながらカミリィが身を起こしていた。眉目秀麗。よく俺なんかに着いてきたな。と、いつも思う。胸もローブの下で豊かに存在を主張している。

 カミリィはピンクの魔装を着ている。

 普段はローブの下で見えないが、脱ぐと綺麗というか――ギャリィはあまり正視できない。

 下着だ。あれは。そう思っている。

 あの格好で剣を振るってたっていうんだから魔法剣士は分からない。

 長いピンク色の髪が夜は紫がかって見える。

 火を焚いて、テントの中で二人で眠っていた。

「お前も聞いてたのか。何だろうなありゃ」

「噂じゃ聞いた事あるけどね。女王の最後の叫び。っていう魔法だと思う」

「……分かんねえな」

「魔法都市があるでしょ? もうどうしようもないって時に女王が使うの。警報みたいに付近一帯、山も越えて響くんだよ」

「ふうん」

 考えを巡らせ始めたギャリィは生返事になる。

 金になるかどうか最初に考えるのがギャリィだ。

 傷の多い日に焼けた精悍な顔に、思案の皺が寄る。

 頭はこういう時に使わねえとな。

 左手を負傷して使い物に成らなくなるまでは盗賊だった。今は酒場で意気投合したカミリィと行商人をしている。

 必要なら――というかこちらが稼ぎ頭だが、盗品でも何でも運ぶ。

 鉄を貼った大型の荷馬車が自慢だ。液体燃料だろうが運べる。認可もある。

 ――液体燃料・危険物――って貼っとけばそうそう調べは受けない。

 後は中型が二台。これも簡単には壊せない。

 カミリィは魔法が使える。が――攻撃系ばっかりで『施術』というのが使えないらしい。だからギャリィの左手は壊れたままだ。

 一度カミリィに泣いて詫びられた事があるが、出来ない事までしろとは言わない。

 専門じゃない。

 何しろ元魔法剣士様だ。何で放浪してたかは聞かない事にしている。

「乗り込んでみるか。混乱は金になる」

 多少は計画も立った。最悪でも混乱に乗じて盗みくらいはどうにでもなる。

「ムリしないでよ? 行商人も悪くないじゃない」

 まあな。メシを食うだけならな。

「お前が俺の左手に成っててくれなきゃ、とっくに死んでる。お前が居りゃムリなんかないよ」

「……そう? 好きでやってるだけだからさ」

 カミリィも悪い気にはならない。今さら照れはしない。

 ギャリィの精悍な所、豪胆な所、知恵の回る所……あんまり褒めると調子に乗る所。

 いい所も多いんだけども。

 ギャリィの強欲だけは。誰にもどうにもできない。

「一番近い魔法都市までどのくらいだ?」

「三日? そんなトコだね」

「途中でメデゥの所に寄れるかな。荷物は空で行きたい」

「都市の外周の森でしょ。寄れるわよ。一杯にして帰りたいわけ?」

「そりゃそうだろ。幾ら有っても困らない、だろ?」

 もう宝が手に入ったかのように、ギャリィは笑って見せた。

 お宝、というのならば幾らでも持っているのに。とカミリィは思う。

 竜の印。王の印。宝刀。それが何かは教えていない。ギャリィに火が点いたら止まらない。


「じゃ約束の燃料な。金貨千枚」

 大型の荷馬車一杯の燃料をメデゥに売る。いつも瘴気が漂っているようで気持ちは悪いが他に取引先が居ない。金にはなる。

 薄暗く巨大な建物。分厚い壁。メデゥの淫蕩で妖美な顔。

「混ぜ物はないわね?」

 厚めの唇に紅が目立つ。

「したことあるか? 上客にそんな事はしない」

「お茶でもどうぞ。話があるのよ」

「ん……」

 カミリィの顔色を伺う。何しろまともな建物じゃない。

「聞こうじゃない。帯剣して行くわよ」

「どうぞ。酷い事なんかしないわ」

「どうだか」

「あなた達にはね」


 メデゥの倉庫兼自宅に居た。途方もなく広い。

 人買い。調教。奴隷。大半は自分の悦楽。

 ずらっと限りなく並べられた檻。壁に張り付けられた少女。少年。

 人の事は言えないが、ここは悪の巣窟だ。

「……どうぞ」怯えた様子の少女が半裸でお茶を持って来る。

 何か文句を言われないかとびくびくしている。

「頂くよ。有難う」

「あ、ありがとうございます」

 少女は念の入った礼をする。何度も。乳が揺れるのを見るのも罪悪感しかない。

「いいんだよ。安心してくれ」

「は、はい」

 幾ら金の為でもこういうことをする気はギャリィにはない。

 奥には殺人さえ出来ればいいという傭兵候補が、さらに奥には飼い慣らした魔物が居る。

 一度見て逃げようと思った。

 カミリィも給仕に念入りにお礼を言った所だった。

 お茶が三杯。三人の少女がお代わりを頼みはしないかと命がけで手元を見ている。

 教えられているのか少し色気のあるポーズで立っている。

 足を洗う気はないのか。そう切り出そうと思ったが辞めておく。

「あのさ。ギャリィ」

 下着だけのメデゥが身を乗り出す。

 黒に近い紫の髪が灯りで赤く染まって見える。

 昼でも夜でもここは閉め切ったままだ。

「話があるんだったな」

「聞こえた? 悲鳴は」

 頭の先から響いた例の悲鳴だろう。

「聞こえた」

「いいチャンスだと思わない?」

「……どういう意味だ」

 チャンスだとは思っている。メデゥが乗り出すほどだとは思っていない。話が大きくなる。

「まだ『夕暮れの都市』はさ、出来たばっかりでさ。中で重用されれば幾らでも上が目指せるんだよ。どう?」

「どうって、何を狙ってんだ」

「乗っ取りだよ。あたくしもこんな狭いところで遊んでるのにも飽きててさ」

 どこが狭いんだ。空っぽになるなら譲ってくれ。

「一度は女王候補になったのよ? あたくし」

「変な趣味出したから放り出されたんだろ?」

「このくらいはどこでもやってるわ」

 思い込みだろ。街に入れて貰った事は何度もあるが、こんな気配のする所はないぞ?

「もし乗ってくれるなら左手、治してあげる。ついでに王座もあげるわ」

「はぁ?」

「あたくしはそうね、この十倍くらいで足りる。地下迷宮で自由にする権利を頂戴。それだけでいいわよ」

「そのまま化け物だな」

「うふふ」

 ギャリィが何を言っても効果はない。はぁ、とカミリィが溜息を吐いた。

「いつからどうするのかだけ教えてくれ。一応乗ってやる」

 ギャリィにも野望がないわけではない。まだ燻っているだけだが、火が点きそうな感じはある。

 何も食べないで眠らずに人を殺し続ける千の傭兵。どんな魔法の産物かは知らないが、ここに置いておくだけじゃもったいないだろう。

 さらに魔物。

 子供はさすがに許してやってくれと思うが。

「探りは入れてあるの。後は動くだけ」

 妖艶な顔に笑みを浮かべて、メデゥは計画を話した。


 左手が動く。萎えた筋肉も元通り、いや、全体にそれ以上だ。

 石の祭壇で目覚めた時、ギャリィは一瞬だけだがメデゥに感謝した。いいやつじゃないかと一瞬だけ思った。

 様子を見ていたらしいカミリィが屈みこんでいた。

「どう? 何ともない?」

 思わず左手でカミリィの胸を掴んでいた。

「……どういうつもり?」

「動く! いや感触はどうかなって」

 頬に平手打ちを食らう。破裂音の後、床に転がっていた。

 さすが魔法戦士。いや戦姫。

「これで多少殴ろうが蹴ろうが死なないわね」

 ブーツを鳴らしてカミリィが出て行った。

「いやお前が本気出したら死ぬぞ」

 ローブを纏ってから下履きをつける。

「王になる気なら覚悟して。強いだけじゃダメなのよ」

 カミリィが覚悟を問うように睨む。

「どっかの都市だと子供が王だったぞ」

「王とか王女とか飾りの名前なのよ。王政じゃないの。実力が伴わないと誰も認めてくれないわよ」

「レベル? だっけ?」

「そう。今から鍛えてたんじゃ間に合わないわ。本当に成りたいの?」

「お前が王妃ってことだろ? いいじゃねえか」

「……その言葉は有難う。でも柄じゃないわ」

 カミリィが眉を寄せる。

「見た目は充分だと思うぞ」

「あ・り・が・と・う」

 嫌味を込めて言われた。

 またカミリィが溜息を吐く。

「いいわ。全力で背中は押してあげる。弱音を吐いたら叩き直してあげるからね?」


「夕暮れの都市は罠に嵌まったのよ」

 馬車に揺られながらメデゥが言う。

「ムリな都市拡張工事で魔法防壁を切ったところに魔物が入り込んだ。そこにかかり切りになっているところで帝国連合軍の急襲を受けた。両方とも帝国の策動だけど。都市は不可侵で互いに不介入が原則。こういう場合は別だけどね」

「どうでもいいけどよ」

「全然どうでもよくない話をしているのよ?」

「傭兵は走って着いて来てるけどそれでいいのか?」

「体力に限界はないのよ。あれは」

 魔装らしいが男のは軽装の甲冑に見える。

「魔物も、か」

「そう。子供は選りすぐりの子だけ。いいでしょ空荷なんだから」

「残りは飢え死にしたりしないだろうな?」

「最低限世話できる魔物は残してあるわ」

 魔物にメシ食わして貰うのかよ。

「で、作戦は?」

「最初に魔物で夜襲。逃げて来たのは全部傭兵で片づける。これで戦功を上げて歓迎されましょ」

「中に入り込んでるってのも同じか」

「そう。どうってことないでしょ。中枢部に入り込んでからよ。勝負は。任せてね」

 メデゥが魔物のように笑う。

「犠牲は最小限にしたいの。メデゥ。あなたは女王ごと皆殺しにしてでも都市を制圧する積りでしょう?」

 カミリィが侮蔑したように言う。

「それが? 何か?」

 メデゥは意に解する様子さえない。

「使って。ギャリィ。王の目」

 カミリィが鋭く、言った。

 王の指輪、の説明は受けていた。もう右手に嵌めている。

 目に力を入れる。

 ギャリィの目の奥で光が瞬く。

「メデゥ。都市での虐殺は許さない。従え」

「! 何、これっ」

「従え」

「は……はい」

 帝国か魔法都市かは忘れた。盗賊時代に手に入れたものだった。

 嵌めた者は王たるべき権能を全て得る。その力で王でないものを従属、支配できる。

「脱げ」

 メデゥに命じていた。

「ギャリィ?」

 カミリィが噛みつくように言う。

「副作用だ。色欲だ」

 狂いそうな欲が噴き出す。王が務まるのか、不安になる。

「あ……そう。私に向けなかっただけ感謝しておくわ」

「はい、王様」

 全裸になったメデゥが目の前にゆらり、と立つ。

「奉仕させて頂きます。王様」

 心の奥まで感化されたメデゥが跪いてギャリィの腰を抱いた。

 夢中になって舐める音だけが続く。

 不機嫌そうにカミリィが窓の外を向いた。

 ピンクの髪が風に揺れていた。


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