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未題  作者: 黒谷乃亜
1/1

準備運動

 朽ちかけの薄暗いトンネルに、どう考えても似つかわしい明るい声がこだまする。

『ねえ、ミシュはなんで旅をしているんだい』

「君こそ何回、同じ質問をするのかな」耳元でぐるぐる捩れながら過ぎ去る、湿り気を帯びた風のような声が答える。

『そうだな、君の答えに納得ができるまで。っていうのはどうだい?』

「なるほど、それは妥当な意見だ」

『だろ?で、なんでミシュは旅をしているんだい』

 30メートルほど進んだところでミシュと呼ばれた青年は口を開いた。

「それに答えるのは、53回目になるだろうけど、答えは変わらず〝旅が一番嫌いだから〟だ」

 53回目らしい答えにカラカラと笑う。

『嫌いなことを、わざわざするんだからミシュは、相当変わり者だよね』

「一番嫌いなことをしていたら、他のものはそれなりに好きになれたりするものさ」

『そうかな?』

「少なくとも俺はな」

『ふーん。それじゃあ僕と旅している理由も僕が嫌いだからかい』

「そうだな、喋る帽子なんて気味が悪いし、だいたいお前は喋りすぎだ。あと嫌に明るすぎる」

 気味が悪いといわれた帽子は、他人事のようにカラカラと笑う。

『確かにミシュと比べたら〝鶴とすっぽん〟だね』「月とすっぽんじゃないのか」『…ミシュ、いくら喋るとはいえ僕は帽子だよ。帽子界では鶴とすっぽんなのさ』

 顔の横に流した前髪を引っ張りながら、ミシュはしばらくの間考え「なるほど」と小さく呟いた。

『ちなみに、いつになったら旅をやめるんだい』

「旅が嫌いじゃなくなったらだ」

『なるほど、で。今のところやめる予定は?』

「ない」

 明るい声と、波打たぬ湖面の様な落ち着いた声が響くトンネルに、陽が射して一人の影だけを映し出した。



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