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死神VS龍神





一分間。


一分間という動かないという龍神が出したハンデ。


この一分間をどう使うかにより、勝負が決まる。


一分間という短くも長い時間。


人生でここまで一分間が長く感じたのは多分、始めてだろう。


この一分間で俺のすることは二つだ。


龍神に魔法を打ちまくるとかではない。


そんなことしても一分間では龍神は倒せないだろうからな。


何となく、直感でわかる。


だから、俺はまず後方に全力でダッシュした。


龍神に背を向けて。


一分間は何もしないという言葉を信じて。


四十秒ほど走ったあと、俺は走るのを止める。


恐らくこれで一キロ程距離を取ることに成功しただろう。


そして、俺が密かに練習していた新技を発動する。


名づけて「転移分身」


高速で転移を繰り返すことにより、まるで分身がいるようにみせる技だ。


転移というのは本来、膨大なMPを消費する魔法なので普通はこんなことはできない。


無限のMPをもつ俺だからこそできる技だ。


転移を繰り返すほど残像の分身は増えていく。


もちろん本体以外はただの残像なので実体はない。


俺は残りの二十秒を転移に費やした。


ハンデの一分間が終わる頃、俺の分身はおよそ千体を超えていただろう。


一分間が終わり、ついに龍神が動き出す。


レベルアップで強化されたステータスにより、桁外れの視力となった俺の目にハッキリと写る。


龍神は、凄まじい速度でこちらへと走ってきていた。


俺の数倍、数十倍は速い。


目を逸らし、現実逃避したくなるほどの速さだ。


常人では視認できないであろう速さだ。


でも、俺には見えてしまう。


だから、龍神の強さがわかってしまう。


圧倒的な強さが。


心を落ち着かせ、転移を繰り返しさらに分身を増やす。


そして、転移と同時に別の魔法を発動をする準備を開始。


込められるだけMPを込める。


龍神が射程に入るまで後、三秒。


二秒、一秒……。


「グランドメテオ!!」


まるで隕石のごとき威力、そして、熱量を誇る最上位の火魔法、メテオ。


メテオの完全上位互換グランドメテオ。


その、グランドメテオを無限のMPにより過剰なまでの威力へと高めた。


それを龍神へと放った。


龍神は……避けなかった。


直後、訪れる破壊。


木々は消滅し、辺りは地獄の焔に包まれる。


轟音と火傷するほどの熱風の支配する赤の世界。


煙がはれ、グランドメテオが放たれた場所に目を向ける。


そこにあったのは、巨大なクレーターと焦げた大地。


ところどころ、マグマのように土が溶けている。


そこに一人、まるで何もなかったかのように立っている者がいた。


龍神だ。


「少し、暑いな。

これで終わりか? 死神ブラッド。」


これが、龍神か。


さすが、世界序列一位。


楽には終わらせてくれないようだ。


まぁ、これくらいは予想していた。


だからこその転移分身だ。


もちろん、グランドメテオを放った後も転移は止めていない。


「いや、こんなもんで終りじゃないさ。」


こうして喋ってる間も、もちろん転移を続けている。


「貴様その技はなんだ?

そんな技、見たことがないぞ。」


なるほど、龍神でも転移で分身するやつは見たことがないのか。


「教えるわけないだろ?」


「そうか、まぁ全て殺せばいいだけだな。

貴様が増えたところで何もできまい。」


そう言って龍神は跳躍、空中にいる俺の分身の一体を腕で貫く。


しかし、それは本体ではない。


「残念、それは残像だ。」


ちなみにこれは、俺のいってみたかったセリフ十位以内に入っている。


「実体はない、ということか。」


俺の分身は増えに増え、現在は二千体程まで増えている。


本体にたどり着くには龍神とはいえ、しばらくかかるだろう。


龍神は次々と俺の分身を消していく。


俺が分身を作り出すよりも早く。


龍神が地を蹴る度に、小さなクレーターができる。


龍神が腕を降る度に衝撃波が生まれ破壊をばらまく。


徐々に分身が減っていく。


しかし、俺も逃げるだけではない。


この転移分身は、逃げ回るだけにやっているわけではないからな。


逃げながら、魔法を放つためにやっているのだから。


しかし、まだ魔法は使わない。


分身がなくなる直前まで。


ギリギリまで、使わない。


それまでは、MPを込め続ける作業を延々と続ける。


ちょっとやそっとじゃ、龍神に傷をつけることはできない。


先程のグランドメテオのようになってしまうだろう。


だから、分身がなくなるギリギリまで威力を高める準備をする。


俺のMPは無限。


底はない。


使えるだけ、使ってやる。


これまで、俺は全力で魔法を使うことはなかった。


あまり目立ちたくない、周りに被害を与えたくない、など理由は色々ある。


でも、今回は地形が変わろうと気にしない。


そんなことを気にしてどうにかなる相手ではないからな。


少しずつ、少しずつ分身は減っていき、今では残り百体程となってしまった。


「貴様の分身も、もうほとんどないな。

殺される覚悟はできたか?」


ニヤリと残忍な笑みを浮かべる龍神。


「お前に俺を殺すことはできない。」


最初は、龍神を殺さないようにしようと思っていた。


しかし、今は違う。


殺すつもりでやる。


そうしなければ、龍神に勝つことなどできないだろう。


俺の分身は残り五十体ほど。


MPを充分に込められたかというと、まだ少し不安が残る。




残りの四十体、三十……二十……、十…………。




俺の分身は全て。






消えた。






「分身は消えた、後は貴様だけだ。

さぁ、死ね。」


そう言って俺に跳びかっかってくる、龍神。


分身達にしたようにその腕で貫くつもりなのだろう。


そして俺は、とある魔法を発動する。


俺の魔法の発動の方が数瞬早く発動し、龍神は後一歩のところで俺を貫くことに失敗する。


転移分身で逃げ回りながらずっとMPを込め続けた魔法。


無限のMPを持つものが、本気でMPを込め続けた魔法。


それが今、発動する。








「スターダストサンダーァァァァァァァ!!!!!」








それは、星々の煌めき。








光輝く、幾千もの雷撃。








美しくも残忍な破壊。








全てを破壊せんとする、暴力。








最上位雷魔法、スターダストサンダー。


ただでさえ、凶悪なまでの威力の魔法。


それにMPを込めに込め、龍神へと放った。


避けることは不可能。


龍神は光の速さで放たれたそれの直撃を受ける。


さすがの龍神とはいえ無傷とはいかないだろう。


龍神へと近づく。


そこにあった光景に俺は驚きを隠せなかった。


グランドメテオをくらっても平然と立っていた龍神。


その龍神が地に倒れていた。


しかし、意識はあるようだ。


倒れていたというのも驚きだが、一番の驚きはたいした傷がついていないということだ。


でも今は驚いている場合じゃない。


龍神は意識はあるが、まだ動けないでいる。


今が、チャンスだ。


右手に持った深紅の大鎌を龍神の左足へと降り下ろす。


俺の手加減無しの本気の魔法でさえ、たいした傷をつけることのできなかった頑丈過ぎる龍神の体。


しかし、深紅の大鎌は、かつて死神の大鎌と恐れられた大鎌は、龍神の体さえも容易く切り裂くことに成功する。


まるで豆腐を斬るように。


そして、龍神の左足は胴体とさよならした。


ポトリ、と左足が落ちる。


さらに深紅の大鎌を降り下ろす。


「グ、ガァァァ、き、貴様ぁ……。

おい、止めろ、それは止めてくれぇぇぇ!!」


足を切断された苦痛に顔を歪めながら、制止を求める龍神。


そんなもんで俺は止まらない。


再度、深紅の大鎌を降り下ろす。


ヒュンと風切り音を響かせながら、右足へと降り下ろされる大鎌。



右足、左手、右手と、一つずつ斬り落とす。


その度に悲鳴を漏らす龍神。


断面からポタポタと垂れる赤黒い鮮血。


切断された断面の近くには、赤黒い、池ができている。


その色はこの深紅の大鎌と似ていた。


あの時のデュラハンのようにだるまにされた龍神。


しかし、生き絶える様子はない。


生命力もずば抜けてやがる。


「さて、龍神よ降参するか?」


「降参もなにも、既に貴様の勝ちのようなものだろう。

貴様の言った通り、我に貴様を殺すことはできなかったようだな。」


全てを諦めたような表情をする龍神。


その顔が死ぬ覚悟はできていると物語っている。


「生きたいか?」


別に俺は龍神を殺したい訳じゃない。


「この出血量では助からないだろう。

我が出血するなど数百年ぶりだ。

腕も足もないしな。

貴様も殺すつもりで我の四肢を斬り落としたのだろう? なぜ今更そんなことを聞く。」


殺すために斬り落としたんじゃない。


話せる状況を作るためだ。


殺すためなら、既に首を斬り落としているだろう。


「俺を今後、狙わないというなら治してやってもいい。」


こんなやつでも一応、国の王だ。


殺すとそれはそれで後がめんどくさい。


国のやつが復讐にくるかもしれないしな。


「そんなことできるはずがないだろう。

部位欠損を治せるやつなど教皇でもなければできん。」


まったくこの世界は疑い深いやつばっかだな。


素直に信じれば楽なのさ。


「それぐらいできるよ、死神をなめるな。

エクストラヒール!」


信じさせるために、左足だけエクストラヒールで治してやった。


「なんと、まさか本当にできるとは……。」


「で、どうするんだ?」


「わかった、今後一切貴様を狙わないと誓おう。」


「絶対だぞ?」


念を押してもう一度確認する。


「我は誓いを破ったことはない。」


「ならいい。

エクストラヒール!」


今度は手足全てを治してやった。


「こちらから手を出したのにもかかわらず、完全に敗北した我に対し情けをかけてくれたことに礼をいう。

この恩は一生忘れん。

何かあったら我を頼れ。

必ず、我と我の国が貴様の力になる。」


龍神、割りと礼儀正しいな。


固くて頑固なのはアレだけども嫌いじゃない。


「俺は帰るから、お前もさっさと帰れよ。」


「では、さらばだ。」


そう言って、龍神は飛んでいった。


ん?


飛んでいった?


「おい! ちょっと待て!!

戻ってこい!!!」


空中に上昇した龍神にそう叫ぶ。


「なんだ、まだなにか用か。」


「あぁ、そうだ。

もう一つ誓ってもらいたいことがある。」


そう、これは譲れないというものが一つ。


「言ってみろ。」


「いいか、次もし俺のところにくるとしても普通に現れろ。

空から降ってくるとか絶対止めろ。」


「それはいいが、なぜだ?」


「こっちがビックリするからだよ!

心臓に悪い。」


「まぁ、よかろう。」


「絶対、絶対だぞ!!」


「うむ、了解した。」


そう言い残し、龍神は空へと消えていった。


目の前の脅威がいなくなり、少し、落ち着いた俺は改めて周囲を見渡す。


今朝、フクシアと歩いた道などは跡形も無くなっていた。


道を囲むようにあった森は消滅し、一つの大きなクレーターと、中規模のクレーターだらけになっている。


まだマグマのように溶けている場所もある。


はぁ、ちょっとやり過ぎたかな……。


うん、まぁ、仕方ないよね!


そんなことより、さっさと帰ろう。


フクシアの待つ宿へ。






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