晴れ時々、人
いつものように人通りの多い迷宮都市。
勇者がきたということもあり、よりいっそう人が多くなっている。
そして、騒がしい。
耳をすませば、「勇者」という言葉が嫌でも聞こえてくる。
迷宮都市は今、勇者についての話題でにぎわっていた。
勇者が来た、というのもあるがそれだけではない。
人々が話題にしていることはもう一つあったのだ。
それは、「死神」を名乗る者が勇者を倒したこと。
そして、勇者に魔王討伐に行くのを止めさせたこと、だ。
死神はすでに死んでいる。
一年程、前に。
そして、生前の死神は男ではなく女だ。
じゃあ、あの死神を名乗った奴はなんなのか。
ただ、勝手に死神を名乗っているだけなのか。
しかし、その死神を名乗った男はある物を持っていた。
生前の死神が使っていた、深紅の大鎌とまったく同じ物を。
なので、人々は死神の後継者なんじゃないかとか、実は死神は男で死んでなかったんじゃないかなどと想像をふくらませていた。
で、その死神を名乗った俺はというと、いつものようにダンジョンに向かっている。
黒い外套を羽織り、フードで顔を隠して。
なぜ顔を隠すのか。
それは、こうでもしないと周りに気づかれるからだ。
できるだけ面倒事は避けたいので、しばらくは外に出るときは外套を羽織ろうとおもう。
昨日、俺が死神を名乗ったせいか、勇者を倒したせいか有名になりすぎてしまったみたいだ。
まぁ、この時期は涼しいし外套も特に気にならない。
「……ブラッド、全身真っ黒だね。」
黒髪に黒い目、そして黒い外套。
「確かに言われてみれば……。」
ちなみにフクシアは外套を羽織っていない。
昨日の戦いにフクシアは参加しなかったからあまり有名にならなかったみたいだ。
街を出て歩くこと数分。
いつもの道。
今日もダンジョンで稼ごうと思いながら歩いていた。
そんな時だった。
ドォォォォォォン!!!!!
人が。
人が降ってきたのは。
今日の天気は晴れ時々、人。
今日は人が降ってくるので注意しましょう。
天気予報風に言うならこんな感じだろうか。
あれだけの衝撃があったのだ、グロいことにになっていると思いつつ目を向ける。
しかし、その体には傷一つなかった。
びっしりと鱗に覆われた肌。
恐らく龍人だろう。
迷宮都市では一人も見なかったが、そういう種族がいると聞いたことがある。
鱗による優秀な防御力をもつ種族なんだそうだ。
だからといって、空から降ってきて全くの無傷って凄すぎるだろ。
降ってきたその人物が俺に向かって歩いてくる。
もしかして、ないとは思うけど俺に用があるとかじゃないよね?
でも明らかに俺のこと見てるし。
俺達、ではなく俺のみを。
ゆっくりと近づいてくる。
凄まじい威圧感がある。
勇者君なんて比べ物にならないほどの。
そして、俺との距離が二メートル程になった頃、彼はついに口を開いた。
「貴様には今から死んでもらう。」
え?
俺、この人始めて会ったんだけど。
いきなり、死ねって言われても。
隣にたっているフクシアがプルプルと震えている。
「フクシア、どうした?」
「……ブラッドあれ龍人じゃない、龍神……!」
んなバカな。
龍神つったらあの龍神だぞ?
世界序列、一位の。
世界最強の存在。
そんなのなわけ、ないじゃないか。
降ってきた人物にもう一度目を向ける。
ヒリヒリと感じる威圧感。
今まで戦ってきた誰よりも強い威圧感。
そう、レッドドラゴンのときよりも。
やばい、本物かもしれない。
「その小娘の言う通り我は龍神である。
さて、貴様には我に殺されてもらうとしようか。」
逃がしては……くれなさそうだ。
目が完全に俺のことを殺すと言っている。
あぁ、今日はなんてついてないんだ。
今日は晴れ時々、人。
ではなく。
今日は晴れ時々、龍神だったようだ。
傘、持ってきてたら防げたかなぁ……。




