アイドルかよ
爽やかな風が頬を撫でる。
綺麗に舗装させた石畳の道を、西へと向かって俺たちは歩いている。
少し肌寒いが、歩いている内に段々と体が温まっていき、今では気持ちよく感じる。
西へ行くほど、人通りが多くなっていく。
もともと人の多い迷宮都市だが、ここまで人が多いのは始めてだ。
迷宮都市の西側に勇者がいるというのは、本当なんだろう。
人が多すぎて、注意しないとぶつかってしまいそうになるくらいだ。
「……人多すぎ。」
フクシアは嫌そうに俯いている。
フクシアは人混みが嫌いなんだろうな。
俺もあまり好きじゃない。
「勇者ってのは人気なんだな。」
まるで、アイドルでもきたかのような賑わいかただ。
人混みが嫌いな人にとっては迷惑でしかない。
西側へと進み続けていると、あるところで、人混みが途切れた。
その先を見てみると、四人の人物がいた。
見た感じ結構若く、高校生ぐらいって感じだ。
男が一人と女が三人。
まるでハーレムだな。
少し、羨ましい。
いや、俺にはフクシアがいる。
羨ましくなんてないぞ。
うん。
日光を反射して輝く黄金の鎧、所々に宝石で装飾されたローブ。
みな、いかにも高そうな装備を身につけている。
そして、民衆たちはその四人の人物達を囲んでいる。
しかし、近寄る者はいない。
遠目から見ているだけだ。
多分、あれが勇者だろう。
神は弱いと言っていたが、なかなかいい装備をつけてるじゃないか。
近寄る者がいないと言うのは好都合だ。
話かけやすい。
まぁ、周りのやつらに見られなが話すことになるけど。
「フクシア、ちょっと勇者と話してくる。
フクシアはここで待ってるか?」
「……私も行く。」
「わかった、大人しくしてろよ。
面倒事にはしたくないからね。」
勇者の周りを囲んでる人々を避けながら、勇者達のところに向かう。
俺が勇者に近づくと、後ろがさらに騒がしくなる。
視線が痛い。
そして、勇者の前で立ち止まる。
「あのどいて貰ってもいいですか?」
リーダーらしき、男のほうの勇者がそう言う。
「君達に伝えることがあるんだ。ある人に頼まれてね。」
さて、神に頼まれたことを実行するとしようか。
「魔王討伐に行くのを止めてくれないか?」
「は?」
男の勇者も三人の女の勇者たちも、なに言ってんだこいつって顔をしている。
俺の言ったことを理解できていないようだ。
それもそうだろう、彼らはこれまで魔王討伐を止められることなんてなかったんだから。
早く倒してくれと、言われるばかりだったんだから。
「もう一度、言って貰ってもいいですか?」
「魔王討伐に行くのを止めてくれないか?」
聞き返してくるので、再度俺はそう告げた。




