勇者の出発
俺達がフラストル王国に召喚されてから、およそ一ヶ月の時が経った。
俺達はあの後、まず王城の騎士達と戦闘訓練をすることになった。
訓練を始めてから一週間程は、まるで騎士達の相手にならなかった。
訓練はすごく痛かったし辛かったけど、皆から期待されているのが伝わってきて頑張ることができた。
そして、二週間が経った頃には騎士達といい勝負ができるようになってきた。
こうして俺達は少しずつ、力をつけていったのである。
王国側がもう今の俺達なら魔物と戦っても大丈夫と判断したようで、ついに俺達は実戦をすることになった。
王城付近の森へといき、騎士達に護衛をされながら魔物を倒した。
この世界にきてから始めての魔物との戦い。
緊張もあったが、それよりも高揚感の方が強かった。
魔物を倒すことによる急激なレベルアップ。
それにより、高まっていくステータス。
体にみなぎる力。
俺達は、特別な力を持っていると再認識した。
「もう私達なら、魔王も倒せるかもしれませんね。」
「かも、じゃなくて余裕なんじゃない?」
「隼人が居れば余裕だよぉー。」
「そうかな?」
森の魔物には無双できたけど、まだ魔王は早いんじゃないかな?
「大丈夫ですよ。
隼人にできないことはありません。」
「そうだよ! 隼人なら魔王だって余裕だよ!」
「うん、隼人ならできるよぉー。
私達もいるしねー。」
小雪達がそこまで言うならそうなのかもしれない。
魔物をレベルアップし、急激に力をつけた今なら魔王だって倒せる気がしてきた。
「数千年前の勇者は、一人で魔王を倒したらしいですよ。
そして私達は四人もいます。
負けることはないでしょう。」
「四人だよ、四人! 四人も勇者がいるんだから、魔王が4体いても余裕だよ!」
「そうだよぉー。
隼人もいるし、もう魔王倒しに行っちゃおうよぉー。」
そうだな。
魔王は1体、勇者は四人もいるんだし余裕だな。
「魔王、倒しに行っちゃおうか!」
こうして俺達は魔王を倒しに行くことを決めたのだった。
これを決めた後、王国側にこれから魔王を倒しに行くことを伝えた。
しかし、何故か反対された。
もっと強くなってから行けと。
俺達は、勇者が四人もいるんだから大丈夫だと説明した。
それでもまだ魔王を倒しに行くのは早いと言う。
だが、俺は今から倒しに出発すると譲らない。
俺は一度決めたことを曲げるのは嫌いなんだ。
結局、最後は王国側が折れた。
魔王城までの道中で、魔物を倒しながら行くというなら、今から出発してもいいと。
俺達はその妥協案をのんだ。
そして、俺達は王城から魔王城へと出発する。
王国から支給された最高級の装備を纏って。
王城のあるこの王都フラストルから、魔王城に行くにはいくつかのルートがある。
俺達はその中でも最短のルートを選ぶことにした。
迷宮都市を経由して行くルートだ。
俺達は全員もうレベル60を超えた。
この時、俺も小雪達も魔王を余裕で倒せると信じていた。
「やっと出発の時がきたな。」
「そうですね、この一ヶ月色々なことがありましたね。」
「あの頃は弱かった私達も、もう最強になっちゃったって思うと一ヶ月も早く感じるね!」
「そうだねー。」
こうして俺達は王都を出発した。
今の自分達なら余裕で魔王を倒せると一欠片も疑わずに。
そして彼らはまだ知らない。
自分達がCランク冒険者ぐらいの実力しかないということを。




