最下層
21層からは、やはり出てくる魔物が変わった。
つまり、もうあの酷い腐臭を撒き散らすゾンビはいなかったということだ。
じゃあ何が出てきたのか?
レイスだ。
実体をもたず、半透明な不気味な魔物。
この魔物、スケルトンとはまた違った厄介な特徴がある。
物理攻撃がきかないのだ。
実体がないからね。
しかし、フクシアは物理攻撃しかできない。
レイスには魔法攻撃しか効かない。
かといって、ゾンビの時のように俺が全て倒すというのは避けたい。
それをしちゃうと、フクシアが経験値を稼げないからね。
なので、魔法でなんとかできないかと考えた。
俺は全ての魔法を使えるんだし、何かいい魔法はないかと。
結果から言えば、あった。
付与魔法に。
付与魔法……一定の期間、武器に属性を付与する。
MPを追加で消費することにより、効果時間を伸ばせる。
この付与魔法をフクシアに掛けることにより、フクシアもレイスを倒せるようになった。
属性はとりあえず、火属性にしておいた。
フクシアがレイスを倒せるようになってからは、ガンガン下層へと進んだ。
ゾンビの腐臭から開放されてハイテンションになった俺達は、それはもうハイスピードで進んだ。
そしてついに30層にたどり着いた。
30層、つまりこのダンジョンの最下層。
当然フロアボスもいる。
マップによると、今回はリッチが出てくるようだ。
魔法攻撃を主に使ってくるらしい。
このCランクダンジョンの最後のフロアボスなので、かなり強いと書いてある。
ただその分、リッチから取れる魔石は高額で売れるとも。
つまり、今回は俺が遠距離から魔法で殲滅するわけにもいかない。
物理で倒さなければ。
しばらく進むと、リッチが見えてきた。
不気味な雰囲気を発する、黒いローブを羽織った人影が立っている。
スケルトンのような骨身の体をしているが、スケルトンなんかとは明らかに格が違うのが伝わってくる。
「……強そう。」
「ヤツの魔石は、高く売れるらしいぞ。」
「……じゃあ魔法はダメ……お金は大事。」
「勝てそうか?」
「……難しい、と思う……でも頑張る。」
「じゃ、始めるとするか!
リジェネレーション!!」
フクシアに継続回復魔法をかけ、リッチへと距離をつめる。
「グギャッギャッ!」
リッチがそう叫んだ瞬間、三つの火球が現れフクシアに放たれる。
フクシアは紙一重でそれを回避し、リッチに肉薄する。
そして鋭い踏み込みから、一閃。
リッチの首を狙い、剣を振るう。
しかし、リッチは最後のフロアボス。
魔法だけではなく、身体能力も高かった。
フクシアの高速で振るわれる剣を回避し、距離をとる。
でも、リッチと戦っているのはフクシアだけではない。
リッチが距離をとった先には、大鎌を構えた俺がいた。
俺はニヤリと笑い、大鎌を全力で振るう。
狙いは杖を持った右腕だ。
ヒュッと風切り音とともに大鎌が、振るわれる。
ポトッ。
リッチも流石にこれは回避できず、右腕を斬り落とすことに成功した。
「グギャアァァッ」
直後、リッチを悲鳴をあげる。
かなりお怒りのようだ。
これで杖もなくなったし、大した魔法は使えなくなったはず。
そう、油断していた。
「グギャ、ギャ、グギャァ!」
リッチがまた、火球を生成する。
しかし、その火球の大きさは先程ものとは、比べものにならない。
感じられる熱量も桁違いだ。
その巨大な火球は、フクシアへと放たれた。
俺より弱いとみて、先に潰そうと考えたのだろうか。
放たれるスピードも、格段に上がっていた。
フクシアは回避しようとするが、先程と同じ間隔で回避しようとしたため完全に避けることはできなかった。
とてつもない威力のこめられた火球を、左腕に受けてしまう。
左腕は消滅していた。
「フクシアっ!」
「……まだ右腕がある……まだ戦える。」
「本当に大丈夫かっ?」
「……右腕さえあれば、まだ戦える。」
もう、魔石なんてどうでもいいから魔法でリッチを殺してしまおうかと思った。
しかし、まだフクシアの眼はしっかりと戦意を持っていた。
「わかった、でも無茶はするなよ。」
そう言って、再びリッチに距離をつめる。
リッチの魔法を避けながら俺とフクシアで、斬りかかる。
そしてまた、リッチが魔法を放つ。
その後は、この繰り返しだった。
フクシアはあの後、一度もリッチの魔法をくらうことはなかった。
俺はというと、回避しきれず何度か直撃をくらった。
その度に強烈な痛みとともに、肉の焦げる嫌な感触を味わう。
何度も焦がされながらも再生を繰り返し、リッチに立ち向かう。
そしてついにリッチに、限界が訪れる。
満身創痍のリッチが、俺の猛攻によりバランスを崩す。
フクシアはその隙を見逃さず、残った右腕でリッチの首へと全力で剣を降り下ろす。
スパッ、ポトッ。
フクシアのその一撃が止めとなり、俺達はついにリッチを倒すことができた。
とれた魔石はデュラハンのものより一回り大きく、濃い赤色をしていた。
「……綺麗。」
「高く売れそうだな。
フクシアが頑張ってくれたお陰だ。」
あの時、怒りに任せて俺が魔法でリッチを倒していたら、この魔石はとれていなかった。
「じゃ、そろそろ左腕治そっか。
エクストラヒール!!」
そう唱えると、フクシアの肩から、ニョキニョキと腕が生えてきた。
「……なんか気持ち悪い。」
「何度みても、これは慣れないな。」
俺は何度も腕や足が消滅した後、再生するのを見てきたがやはり慣れない。
普通に気持ち悪い。
再生スキルには何度も助けられてきたから、文句はないけどさ。
「最下層のフロアボスも倒したし、帰ろっか。
ゾンビの層は通らずにね。」
とある手段を使って。




