殺すなんてもったいない
フラストル街道。
王都フラストルからフラストル王国内の各街へと伸びている街道である。
その街道を俺達は徒歩で進んでいた。
「なぁ、フクシアなんで俺達は歩いているんだ?」
「……金がないから。」
カルマーニの街を出てから今日で4日目。
俺達は慣れない野宿をしながらの移動に疲弊していた。
夜には交代で見張りをして過ごしているのだが、やはり魔物は襲いかかってくる。
その度に起きて戦闘をすることになり、俺もフクシアもあまり寝れてない。
こんな生活が後、6日間も続くと思うと嫌になってくる。
そして迷宮都市はまだまだ見えてこない。
「……馬車で移動してたら今頃迷宮都市についてた。」
「言うな。
悲しくなってくる……。」
思い足取りで街道を歩いて行く。
「なぁ、いっそのこと思いっきり全力で走ってみないか?
そしたら早くつくかもしれなし。
ほら、俺もフクシアもかなりレベルが上がったしさ。」
長すぎる道のりに嫌気がさしてきた俺は、そんなアホなことを提案する。
「……だめ……余計体力を消耗する。」
ですよね。
地道に歩くしかないようだ。
そんな精神的に参っていたその時、前方から薄汚い格好をした連中がこちらに向かってきた。
数は20人程。
皆、ナイフや斧を装備している。
「有り金と荷物全ておいてきな!
あとその女もだ。
たっぷりと可愛がってやるからよぉ。
そしたら命だけは見逃してやる。」
盗賊か。
金といえば4日間稼ぐことが出来ず、呪いで減り続けたので今は銀貨数枚しかなくなっている。
まぁ、銀貨数枚とはいえ盗賊になんてくれてやるつもりはないけどな。
「フクシア、どうする?」
「……皆殺しでいいんじゃない?」
「盗賊って殺しても罪に問われない?」
「……大丈夫……さっさと殺そ?」
盗賊は殺しても罪にはならないようだ。
しかし人を殺すってのは少しためらう。
「おい!! てめぇらなに無視してんだ!
さっさと金をおいてけ!
こっちは20人はいるんだ、大人しく金を置いていったほうが身のためだぞ?」
殺すか少しためらったがもうめんどくさいし、殺しちゃおう。
ファイアーアロー!
俺は、無言でファイアーアローを盗賊たちに放った。
連続で三つ。
手加減なしの"青い"ファイアーアローを。
直後、凄まじい爆発音が響く。
盗賊達の体は消滅し、焼け焦げた大地のみが残った。
「……もったいない。」
その光景を見て、そうフクシアが呟いた
「ん?なにが?」
「……首を街に持っていけば報酬が出たのに……。」
なるほどそれはもったいないことをしたな。
次回から気をつけよう。
しかし、久しぶりに手加減なしの魔法をぶっぱなしたお陰か少しスッキリした。
これで後、6日間迷宮都市までの長い道のりをがんばれそうだ。
「でも、久しぶりに魔法使ってお陰で少しスッキリしたから結果オーライってことで。」
「……ずるい……私も魔法、使いたい。」
「そういわれてもなぁ。
俺は、教えられないからなー。
俺の場合スキルのお陰で使えてるって感じだし。」
「……私もスキルを習得したら使える?」
「スキルを習得すれば使えるようにはなると思うけど、その魔法系スキルをどうやって習得するのかわからないからなぁ。」
「……ブラットはどうやってスキルを習得したの?」
フクシアにはもう言っちゃってもいいかな。
これからずっと一緒に生きていく訳だし。
普通の人には絶対に言えないけど。
「誰にも言わないって約束してくれるんなら、教えてあげてもいいよ。」
「……うん、約束する。」
俺はあえて約束という言葉を使った。
フクシアは奴隷だけれど俺はフクシアを奴隷としてではなく、仲間として接したいからだ。
だから命令という言葉は使わない。
「俺が色んな魔法を使えるのはね、神にスキルを貰ったからなんだ。
他にも不死になるスキルや永遠に老いないスキルも貰った。
毎日金が失われていくという呪いつきでね。」
そういえば呪いのことはフクシアにはまだ話してなかったな。
「……神様に?……ブラットは勇者様なの?」
「いや、勇者ではないよ。
ただの一般人だよ。
でも、もしかしたら魔王を倒しに行くことになるかもしれないね。
ところで、その勇者ってのは?」
フクシアによるとその勇者というのは、数千年前にこの世界に呼ばれた異世界人のことらしい。
神に一つだけスキルを貰ったと言われているそうだ。
てことは俺ってその勇者よりも多くスキル貰ってることになるじゃん。
そして神にスキルを貰いこの世界に召喚された勇者は、当時人族を滅ぼそうとしていた魔王の軍勢を単独で殲滅したそうだ。
そして当時、世界序列一位とされていた魔王を単独で討伐。
その後、人族の国を獣人族の国が攻めてきたそうだが、これも単独で殲滅。
しかし獣人族はそれでも諦めず、残った国全てで連合を組み再び人族の領土に侵略。
その獣人族の連合軍も、またまた単独で殲滅。
これにより人族からはまるで神のように崇められ、他種族からは魔王よりも恐れられた。
そしてその後も数々の功績を立て続け、現代も人族の大英雄としてその名が知れ渡っているのだそうだ。
てか勇者、単独行動好きだな。
「……ブラットはどんな呪いをつけられたの?」
「毎日、所持金が4割失われていくっていう呪い。
お陰でまったく金が貯まらない。」
「……神様酷い。」
「まぁ、その分色々スキルを貰ったからね。
でも100年後か1000年後くらいに魔王が人族を滅ぼしにくるときに、人族の味方をしたら勝敗に関係なく呪いを解いて貰えるらしいよ。」
「……ブラットはどうするの?」
「100年もあれば俺もかなり強くなってると思うからその時は、魔王と戦おうと思ってる。
まだまだ先の話しだけどね。
フクシアもその時は一緒に戦ってくれるかい?」
「……ブラットが戦うなら私も戦う。」
「ありがとう。」
そう言って俺達は再び歩き出した。
長い長い迷宮都市への道のりを。
【マネーロスト】発動。
所持金、銀貨6枚銅貨3枚のうち4割の銀貨2枚銅貨5枚をロスト。




