優しい死神
赤い強靭な鱗に守られた、レッドドラゴン。
その鱗はミスリル製の武器でさえ、傷つけるのは難しいと言われている。
10メートルを越えるその巨体で暴れまわるレッドドラゴンに大鎌で斬りかかると、あっさりと切り裂くことができた。
オークの時も思ったがこの大鎌切れ味が半端ないな。
しかし、レッドドラゴンもやられるだけではなくその巨大な足で蹴ってきた。
その巨大な体に秘められたパワーは凄まじく、俺は数十メートル吹き飛ぶ。
「…………うぅっ。」
地面に打ちつけられた衝撃で肺から一気に空気が抜ける。
全身の骨がバキバキに折れているのが伝わってくる。
普通の人間ならもう死んでいるだろう。
しかし、俺はそんな重症も、一瞬で完治する。
再びレッドドラゴンに斬りかかろうと立ち上がったその時、レッドドラゴンが口を開き力を貯めているのが見えた。
少し口の中が発光しているのが見える。
まさか、ブレスかっ。
レッドドラゴンは大きく息を吸った後、俺に向かって紅蓮のブレスを吐いてきた。
あまりに広範囲なそのブレスを俺は避けることはできなかった。
その紅蓮のブレスが直撃し俺は灼熱の炎に焼かれる。
体が焼かれ焦げる臭いがする。
俺の体は焼き爛れ次の瞬間には再生し、また焼き爛れ再生するのをレッドドラゴンがブレスを吐き終えるまで繰り返した。
大鎌はというと神が絶対に壊れないと保証した武器なだけのことはあり、傷1つついていなかった。
レッドドラゴンがブレスを吐き終えた後、俺は再び距離をつめ大鎌で斬りかかる。
先程のブレスは連発できないようで、レッドドラゴンはその巨大な体で何度も殴りかかってきた。
その度に俺の体中の骨が折れ、当たりどころが悪かった時は手足が吹き飛んだ。
しかし手足を失っても一瞬で再生し、新たな手足が生えてきたので問題はない。
一瞬で手足が再生するその光景はなかなか気持ち悪かった。
一撃、一撃が不死スキルがなければ致命傷となっていたであろうレッドドラゴンの攻撃を受け続けながら、大鎌で徐々にダメージを与えていく。
少しづつではあるがダメージが蓄積され、ドラゴンの動きが鈍っていく。
そしてついに、レッドドラゴンの足を切り落とすことに成功した。
後はもう、首を切り落とすだけだ。
しかし、足を失ってもなおレッドドラゴンは抵抗をやめない。
しばらくしてやっと、ドラゴンの首を切り落とすことができた。
ボコボコにされながらだけどなんとか勝つことができたな。
ドラゴンの首を切り落とした瞬間体に力が溢れるのを感じた。
きっとまた大幅にレベルアップしたのだろう。
今、後方で待機しているフクシアはどんなことを思っているのだろうか。
なんとかレッドドラゴンに勝つことはできたが、カッコ悪いところを見せちゃったな。
目の前の脅威が去ったことにより、どっと疲労感が押し寄せてきた。
その場に俺は座り込む。
改めて落ち着いてから辺りを見渡すと、何度もレッドドラゴンのブレスを受けた大地は焼け焦げた更地になっていた。
きっと俺があのレッドドラゴンを倒さなければ、街がこうなっていたのだと思うとぞっとする。
少しすると、フクシアが駆け寄ってきた。
「……凄い……本当にドラゴンを倒しちゃうなんて。」
フクシアを見て少しホッとする。
やはり後方に待機してもらっててよかった。
とてもじゃないがレッドドラゴンは、フクシアを守りながら戦える相手ではなかった。
「ボコボコにされながらだけどね。」
「……勝ったのは事実……単独でドラゴンを倒すなんてSランク冒険者でもないとできない。」
てことは、俺はとりあえずSランク冒険者ぐらいの実力はあるってことなのかな。
いや、Sランクともなればボコボコにされながらなんてカッコ悪い勝ちかたではなく、きっとドラゴンを圧倒して勝つのだろう。
俺もまだまだだな。
「……戦ってるブラット、凄くかっこよかった。」
フクシアはそういって褒めてくれた。
そして俺に抱きついてくる。
俺もフクシアを抱きしめようとしたその直後、横から俺たちの甘い雰囲気を邪魔する声が聞こえた。
「レッドドラゴンが倒された!!」
「誰が倒したの?!」
「俺は見てたぜ。大鎌を持ったやつがやったんだ! ほらあそこにいるやつ!」
「そうそう。凄かったんだよ! 何度も吹き飛ばされても立ち向かっていってたんだ!」
「深紅の大鎌で戦うやつなんて死神くらいしかいないけど、死神って死んだんじゃなかったっけ?」
「ばか、死神は街を助けたりなんかしねーよ。」
「あいつはなんか元世界序列4位の死神と違うよな。二つ名をつけるとしたら、"優しい死神"って感じだな。」
「ねぇねぇおかーさん。あのおにーさんのところにいってきてもいいー?」
「ダメよ。今、あのおにーさんはお楽しみ中だからね。後にしなさい。」
レッドドラゴンが倒されたことに気づいた街の連中が、集まってきたのだ。
何人か俺が戦ってるところを見ていたやつがいたらしい。
そのせいか皆俺には近寄らず、こちらを見ながら騒いでいる。
てか今、子供にお楽しみ中とか教えてた声が聞こえたぞ。
子供にそういうことを教えるのはやめなさい。
まぁこのあと宿に帰ったらするつもりだけどね。
もうさっさと宿に帰りたいんだけどこれだけ人が集まってしまっては、この人たちを無視して帰ることはできなさそうだ。
俺が倒したってばれてるみたいだしね。
俺はあんまりこういう目立つのとか嫌なんだよね。
めんどくさいし。
なので俺はある魔法を使うことにした。
それは、闇魔法のロストメモリーだ。
ロストメモリー……その日に起こった出来事の記憶を書き換える。
追加でMPを消費することにより効果の及ぶ範囲を変えられる。
範囲はこの街全体に設定する。
書き換える記憶はレッドドラゴンに関する記憶と俺に関する記憶。
レッドドラゴンを倒したのは俺ではない誰かだと書き換える。
そしてその誰かは大鎌を使っていたという設定にする。
俺がロストメモリーを使った後、ドラゴンを倒したのは俺だということ知る者はいなくなった。
これでゆっくりと帰れる。
「……ブラット……何かした?」
ロストメモリーを使った後、俺に集まっていた人が急にいなくなったことを不思議に思ったフクシアがそう聞いてきた。
「俺がドラゴンを倒したことを忘れてもらったのさ。」
「……どうやって?」
「この前、俺は全ての魔法を使えるって話しただろ?
闇魔法で俺のことを忘れてもらったのさ。」
「……どうしてそんなことをするの?……そんなことしなければ名誉もお金も手に入ったのに。」
別に名誉とかはいらないんだよなぁ。
あんま目立ちたくないし。
でも金のことに関しては忘れてた。
ドラゴンを倒した報酬を受け取ってからロストメモリーを使えばよかったな。
しかし、それを正直に話すのはちょっとカッコ悪いな。
「俺はフクシアが知っていてくれればそれで充分だよ。
そろそろ帰ろっか。」
なのでお金のことには触れずそう言っておいた。
「……うん。」
宿に帰ったあと、あの時中断されたお楽しみの続きをした。
フクシアもあのあと我慢していたようで、部屋入った後、フクシアに押し倒された。
今日はフクシアがとても積極的だ。
「……しよ?」
フクシアは俺の下半身へと手を伸ばし、俺の聖剣を衣服という鎖から解き放った。
さぁ夜の楽しみの始まりだ!
「……もっと、して?」
行為の最中フクシアが蕩けた表情でそう耳元で囁いた。
俺の中の理性は遥か遠くへと消えて行った。




