鉄壁のマルコ
ドラゴン。
それは誰もが恐れ畏怖する災害指定種の魔物。
Aランクの冒険者がパーティを組んでやっと倒せるような魔物だ。
そのドラゴンが今、カルマーニの街に襲いかかってきていた。
「ちっ、なんでドラゴンなんかが……」
応援にきた冒険者たちは皆倒れちまった。
もう立っているのは俺だけだ。
今、この街にはAランクの冒険者がいない。
なんでこんなときにっ。
駆けつけた冒険者は皆Cランク以下の冒険者しか、いなかった。
Cランク以下の冒険者がドラゴンの相手になるはずもなく、残ったのは俺だけとなってしまった。
街の人間の避難が終わるまではなんとかもちこたえなくては。
そう決意し、街の外壁の門番の俺は再びドラゴンに立ち向かう。
何故、Aランク冒険者がパーティ組んで倒すようなドラゴンを門番でしかない彼が、かろうじてではあるが止めることができていたのか。
その訳は彼の過去にあった。
彼は元Bランクの鉄壁のマルコの二つ名を持つ冒険者だったからだ。
冒険者を引退し、今では街の門番をしているがその実力はまったく衰えてはいない。
冒険者をしていた当時はあと少しでAランクに上がると言われ、カルマーニの街最強の冒険者とされていた。
マルコのパーティでの役割は盾役だった。
自分の体と同じくらい大きな盾を構え後衛を守る。
どんな攻撃も必ず受け止め、後衛を絶対に傷つけさせない。
そんな彼はパーティメンバーからも厚い信頼を得ていた。
しかしやはり一人では限界がある。
いくら鉄壁の防御力を誇るマルコでもドラゴンに一人で立ち向かうには無理があった。
自分の無力さを感じながらステータスを見る。
名前マルコ
レベル138
HP97/1242+372
MP632/632
攻撃791
防御874+393
魔防863+345
魔攻765
スキル
【格闘】レベル6
【剣術】レベル5
【槍術】レベル5
【盾術】レベル8
【耐久強化】レベル9
【魔防強化】レベル8
【生命力強化】レベル6
【土魔法】レベル4
【回復魔法】レベル2
固有スキル
もうHPも残り少ない。
「俺の人生もここで終わりか……。」
鉄壁のマルコと呼ばれた俺もドラゴンの前では呆気ないものだな。
せめて昔のパーティメンバーがいればなんとかなったかもしれない。
しかし、マルコ一人ではドラゴンを街に入れさせないようにするのが精一杯であった。
ドラゴンのブレスを二度受け止め、何度もドラゴンの攻撃を受けたマルコの体はもうボロボロだった。
残りHPもついに100をきってしまった。
そろそろ俺は死ぬんだな……。
なら、くたばる前に腕の一本くらい貰ってやろうと、最後の特攻をしかけようとしたその直後、見慣れた人間がこちらに向かって来るのが見えた。
最近、Eランクになったというあの坊主だ。
右手にはいつもの黒鉄の剣ではなく、禍々しい深紅の大鎌を持っていた。
「おい!あれはお前のかなう相手じゃねぇ。早く逃げろ!」
坊主はまだEランクの冒険者だ。
決してドラゴンと戦って勝ち目のある実力ではない。
しかし、俺が逃げろと叫んでも坊主は止まらなかった。
「俺は死にませんから。」
そう俺に告げると坊主は、深紅の大鎌を構えドラゴンに立ち向かっていった。




