フクシアの初戦闘
草原へと向かう途中また兵士のおっさんに会った。
この人いつもいるな。
いつ休んでるんだろう?
相方の人は見る度にころころ代わるんだか、このおっさんだけはいつもいる。
このおっさんには休みがないのだろうか。
だとしたらとんだブラック企業だな。
まぁ本人はいつも生き生きと仕事をしているし、問題はないだろう。
「おっ、ついに買ったのか。」
おっさんは俺の隣にいるフクシアをみてそう言った。
「えぇ、やっとお金が貯まったので。」
フクシアは無言を貫いている。
「お前はもう草原で出る魔物なんて余裕で倒せるだろうが、そっちの嬢ちゃんはそうでもないんだろ?
ランクもまだFだしな。
お前がしっかり守ってやれよ!」
「はい!
なにがあっても必ずフクシアは守ります。」
「じゃ、気よつけていってこい。」
そう言っていつものようにおっさんは見送ってくれた。
フクシアはというと俺がおっさんと話している間、終始無言で俺にはりついていた。
人見知りなのかもしれないな。
あのおっさん見た目がいかついからね。
性格はホントいい人なんだけど。
「……ゴブリンって私でも倒せる?」
フクシアは初の戦闘ということで、少し緊張しているようだ。
「大丈夫だよ。
俺が一対一になるようにするから。
一体だけなら絶対倒せるよ。」
ゴブリンというのは一対一ならそれなりの武装をしていれば、一般人でも倒せると言われている最弱の魔物だ。
まぁ、俺はこの世界にきた最初の頃その最弱の魔物相手に逃げ出した訳だが。
その後、殴り殴られ再生しての肉弾戦を数時間繰り返し、やっとのことで1つの群れを全滅させたんだっけな。
ゴブリンからしてみればいくらボコっても致命傷となる一撃を何度も食らっても、次の瞬間には完全回復して襲ってくる実に厄介な相手だったのだろうな。
さて、それはさておきゴブリンというのは基本的に5~10体程度の群れを作り行動する魔物だ。
俺が毎日のようにゴブリンの討伐依頼を受け続け、倒したゴブリンの数は四桁を越えるだろう。
いったいどこからそんなに沸いてくるんだと言いたいくらいだ。
そんな膨大な数のゴブリンを倒してきた俺だが、単独で行動するゴブリンというのは数回しか見たことがない。
じゃあどうやってフクシアと一対一の状況を作り出すのか?
もちろん、極稀にいる単独で行動しているゴブリンを探すなんてことはしない。
やるのはとても簡単なことだ。
俺が一体だけ残して群れを全滅させればいい。
それだけだ。
おっ、さっそくゴブリンの群れを発見。
「じゃ、ちょっとゴブリンの数を削ってくるからそこで待ってて。」
そう言って俺は、ゴブリンの群れへと斬りかかる。
そして数秒でゴブリン一体を残し、群れは全滅した。
「……ブラット、強い……剣もそんなにできるなんて凄い。」
まぁ、この黒鉄の剣を買った後、オーク相手に訓練し続けたからな。
いまでは剣術スキルもレベル4まで上がった。
「先に回復魔法かけといてあげるから、頑張って戦ってきな。
もしもの時は助けにいくから。
リジェネレーション!」
俺は継続回復の魔法をフクシアにかけた。
俺だって時間はかかったが、ゴブリンを倒すことができた。
あの時の俺と比べればフクシアには武器も防具もあるし、回復も掛けてある。
多分、安全に倒せるはず。
でもフクシアは不死ではないのだからしっかりと見守っていなければ。
フクシアがゴブリンに斬りかかる。
最初に俺が剣を使った時のような素人の動きで剣を振るう。
ゴブリンに深い傷をつけるが、致命傷にはならずゴブリンがこん棒を降り下ろす。
フクシアは左腕に装着されたスモールシールドでガードしようとするが、間に合わず胴体にこん棒を受けてしまう。
「……うっ。」
革鎧を買っておいてよかったな。
すぐにリジェネレーションの効果で回復したらしく、またゴブリンに斬りかかる。
ゴブリンは回復手段を持たないので、常に回復し続けるフクシアが徐々に優勢になっていく。
しばらくした後、動きの悪くなってきたゴブリンの首を切り落とし、ついに決着がついた。
「よく頑張ったな。
フクシアなら必ずできると信じていたぞ。」
「……ブラットのお蔭……あの回復魔法凄かった。」
リジェネレーションのことか。
一定の間常に回復し続けるってのも、少しは助けになったのだろう。
「あの魔法そんなに凄かったのか?」
俺は、再生スキルがあるから回復魔法を自分に使ったことがない。
なので俺の掛けた回復魔法がどの程度の効果なのか聞いておきたかった。
「……こん棒で殴られても一瞬で痛みが消えた……あんな回復魔法を使えるは多分教皇様くらいだと思う。」
ちょっとMPをこめすぎちゃったかもしれないな。
しかし、また教皇様か。
確か足を治した時にも聞いたな。
どんな人物なんだろう。
「その教皇様ってのはどんな人なの?」
フクシアによるとその教皇様というのは、女神教という宗教のトップなんだそうだ。
そして、このフラストル王国で唯一の最上位回復魔法の使い手であるらしい。
リジェネレーションもあまり人前では使わないようにしよう。
今朝、フクシアに使ったエクストラヒールもそうだが最近隠さなければいけないことが増えてきたな。
しっかりとこの世界の知識をつけなければ、いつかボロが出てしまうだろう。
「まだ戦えそうか?」
「……大丈夫。」
その後、俺に見守られながらフクシアはゴブリンを倒し続け、三体までなら同時に戦えるようにまでになった。
そんなフクシアのステータスはこんな感じだ。
名前フクシア
レベル7
HP51
MP22
攻撃49
防御56
魔防20
魔攻19
スキル
【剣術】レベル1
固有スキル
【不老】
加護
【ブラットの加護】
かなり前衛向きのステータスになってきた。
剣術スキルを獲得することもでき、今日はなかなかの収穫だ。
それとフクシアには才能があるのかもしれない。
俺が剣術スキルレベル1だったころよりも、いい動きをしていた。
いつかは俺よりも強くなるかもしれないな。
もちろん今日は森にはいっていない。
今日初めて戦闘をしたばっかりのフクシアには危険すぎるからな。
なのでゴブリンのみと戦ってから帰った。
俺も少しゴブリンを倒したので、金貨2枚程の収入になった。
ギルドを出た後はフクシアがかなり疲れているようなので寄り道せずまっすぐ宿に帰り夕食をとった。
「ごちそうさま。」
俺がそういうとフクシアは首をかしげた。
あぁそうか、この世界に食後にはごちそうさまを言う風習はないんだったな。
ちなみに首をかしげるそのしぐさはとても可愛いかった。
まぁ、フクシアはいつも可愛いんだけどね。
「これはね、俺の故郷で食後に言う言葉なんだ。」
「……ブラットが言うなら私も言う……ごちそうさま。」
その後、二人でベッドに入るとフクシアは戦闘の疲れからかすぐに寝てしまった。
その可愛らしい寝顔を見ながら、なにがあってもフクシアは絶対に守らないとなと思いながら俺は眠りについた。
【マネーロスト】発動。
所持金、金貨5枚銀貨7枚銅貨3枚のうち4割の金貨2枚銀貨2枚銅貨3枚をロスト。




