治療
シングルベッド。
それは一人用のベッドであり、一人で使用することを前提に作られたベッド。
そのベッドをもし、一人ではなく二人でしていたとしたら?
寝返り一回するだけでも二人の体は密着するであろう。
そして、寝返りを繰り返すうちに横で寝ている人間の上に乗っかってしまうこともあるのではないだろうか。
というか乗っかってた。
フクシアが。
「もう朝か。」
俺はフクシアが乗っかる重みで目覚めた。
だか決して嫌な目覚めではない。
最高の朝だ。
こんな可愛い子の顔が起きた瞬間から見れるんだ、少し重いくらいまったく苦ではない。
まだフクシアは起きていないようだ。
気持ちよさそうに寝ている。
俺はフクシアの頭を撫でながら起きるのを待った。
「……おはよう……御主人様。」
ついに起きちゃったか、もう少し撫でていたかったな。
「おはよう、フクシア。
後、俺のことは御主人様じゃなくてブラッドでいいぞ。」
御主人様って呼ばれるのも嬉しいのだが、やっぱりちょっと恥ずかしいからな。
「……いいの?。」
「もちろんだよ。
俺もそう呼ばれた方が嬉しいからね。」
そういえば、俺はまだこの世界に来てから名前で呼ばれたことはなかったな。
「……わかった……ブラッド。」
呼び捨てで女の子に名前を呼ばれるってなんか夫婦みたいでいいな。
これが俺が始めてこの世界で名前を呼ばれた瞬間だった。
その後二人で朝食を食べ、やっぱり宿のご飯だけだと物足りないので、追加でアイテムボックスから串焼きの肉を出して食べた。
「さて、朝食も食べ終えたことだしフクシアの足を治すとしようか。」
「……そんなに簡単にできるの?」
「できる、と思う。」
ステータスを開き、全属性魔法の欄を見ながら回復魔法について見てみる。
今まで俺には再生スキルがあったから、回復魔法について見るのは始めてだ。
回復魔法
ヒール……小さな怪我を治す。
ハイヒール……怪我を治す。
軽い毒や軽い病気なども治すことができる。
グランドヒール……大怪我を治す。
部位欠損は治せない。
大抵の毒や病気も治せる。
エクストラヒール……全ての怪我を治せる。
部位欠損も治せる。
全ての毒と全ての病気を治せる。
石化や麻痺など全ての状態異常を治せる。
リジェネレーション……一定の間ハイヒールと同程度の回復効果を受け続ける。
エクストラヒールを使えば治りそうだな。
リジェネレーションはフクシアが戦闘する際は必ず掛けよう。
「じゃあ今からフクシアに回復魔法をかけるぞ。
エクストラヒール!」
いつもであれば、心なかで叫ぶのだか今回はフクシアがいるのでちゃんと口で技名をいった。
MPがぐんぐん吸いとられていくのがわかる。
まぁ、俺はMPが無限にあるから減らないけどね。
フクシアの体を神々しい光が包む。
光が収まりやっとフクシアを直視できるようになると、フクシアが驚愕の表情をしているのが見えた。
「……最上位の回復魔法を無詠唱……ブラッドは教皇様だったの?」
よくわからないが、エクストラヒールってのは凄い魔法だったぽい。
部屋のなかで使ってよかった。
フクシアの様子からして、もし外で使っていたら騒ぎになっていただろう。
「俺はその教皇様という人じゃないよ。
後、俺がこの回復魔法を使えることは誰にも言わないでね。」
「……わかった……誰にも言わない。」
「足はちゃんと治った?
違和感とかはない?」
俺がそう言うとフクシアは部屋の中で軽く歩き、問題なく歩けるのを確かめた後勢いよく俺に抱きついてきた。
「……治って……る……もう、治らないとずっと思ってた……本当にありがとう、ブラッド。」
フクシアは俺にぎゅっと抱きついているので顔は見えないが、泣いているのがわかった。
これまできっとうまく動かない足のせいで辛い思いをしてきたのだろう。
その後、フクシアは一時間程泣き続けた。
フクシアが泣き止んだ頃俺は今日の予定について話した。
「今日はこれから武器屋に行こうと思っているんだけど、フクシアはもう大丈夫?」
「……大丈夫……もう落ち着いた。」
「じゃあ行こうか。」
俺とフクシアは宿を出て武器屋へと向かった。




