興味からの事
「おい、てめぇ、それ、寄こしやがれ」
『我、願う、我を脅す存在、虫垂爆発』
「何をぶつぶつ言ってやが……う、うう、何だ、急に、腹が、くそ、待て、こら」
殺す意志とか持てないって前言撤回。
案外簡単に思えちゃったんだ。
最初の殺人で枷が外れたのかな?
とにかく、妙にあっさりと殺してやりたいと思えたんだ。
でも即死じゃないからその分、制約が甘かったのかも知れないけどさ。
帰って風呂上りにビール飲みながら諸元を見たら、階級18で霊魂は3になっていた。
どうやらあのチンピラは死んだらしいな。
腹膜炎かな? けどあれなら殺しても殺人って言われないかも知れないな。
他にも色々やれそうだよな……心臓爆発とかさ、クククッ。
おお、魔力が1000超えたな。
それと共に転身魔法ってのが青くなった。
今まで使えない魔法は灰色で、使えるようになったら青色だったんだ。
破滅魔法は1回使うのに10~みたいだけど、予知は最低100だ。
そして移動魔法が1回300で、回復魔法が1回500だ。
そんでもって転身魔法がどうやら1000らしいな。
移動魔法がやたら食う訳はさ、移動場所をまるで透視と千里眼のように特定するのに力を食うんだと思うんだ。
だから同期で部長の彼の移動が見渡せる、ビルの屋上を特定するのに力を食ってさ、爆発魔法で使い切ってそのまま屋上で少し寝たんだよ。
後は回復魔法だけどこれって多分さ、とんでもなく高性能だと思うんだ。
だからやたら消費が多いんだろうけど、だからこそ切り傷ぐらいに使うのはもったいない。
どうしてそう思うのかと言うとだね、試しにカッターで軽く手を切って、使ってみたんだよ。
『我、願う、我が身体の不調の除去を、身体回復』
そうしたらさ、切り傷は言うに及ばず、肩こりは消えるわ水虫も消えるわ、おまけに虫歯まで消えてさ、近眼も乱視も消えちまってさ、古傷すらも全て消えちまったんだ。
そりゃ500も食うはずだよな。
ある意味、納得した消費量だった回復魔法。
でもさ、転身って何だろうね。
確かに呪文は頭に浮かんだんだ。
だからそれに当てはめて使ってみたんだ。
『我、願う、我が身体の転身を。転身魔法、発動』
そうしたらさ、やっぱり急に眠気が来てさ、魔力ギリギリだったせいか、そのまま寝ちまったんだ。
それでさ、朝起きてトイレに行ってさ、小便をしようと思ったら無いんだよ、アレが。
いやね、オレもそんなにでかい訳じゃないけどさ、平均サイズと言うか、朝だからテントは張ってるものじゃない。
そりゃ30才だから若い子のようにはいかないけど、それでもそれなりのモノはあるんだよ。
なのに今日はそれが無くてさ、寝ぼけてたのがはっきり目が覚めて、慌てて服を脱いだんだ。
そうしたら姿見の向こうに女の子が裸で立っていたんだ。
思わずゴクリとつばを飲み込んで、それを凝視しちまって、気付いたら小便漏らしてて、慌てて風呂で身体を洗おうと思ったらさ、その女の身体だったんだ。
転身ってそういう意味かぁぁぁぁ……
風呂場で大声はやめましょう、近所迷惑ですから。
まあね、たまたま町外れの一軒家で良かったと言うべきか、近所に届いてはいなかったろうけど、あれはパニックになっちまったよ。
でさ、男に戻ろうにも戻れないんだよ。
魔力ってさ、一晩寝たら回復するものだけど、1000を超えたせいか、一晩の回復力じゃ足りないみたいでさ、978ってギリギリの数値になってるんだ。
んでまぁ、回復するまでベッドで寝ていれば良いと思ったんだけどさ、魔が差したと言うか何と言うか。
いやね、オレは別にロリコンって訳じゃないよ。
そんな訳じゃないけど、自分の身体だ。
だからちょっとこう、触れてみたんだ。
自分の身体なのに妙に緊張すると言うか、刺激が派手に感じると言うか。
自分で自分の胸を触ってさ、その柔らかさと共に妙にこう下半身に感じると言うかさ。
そのまま戻れない扉を開くような気がして、それ以上はやれなかったんだけど。
そんな訳で1000超えて唱えて戻れて熟睡後に安心したんだ。
ああ、戻れて良かったって。
でもさ、何となく惜しいような気もしてさ、また転身してみたくなったんだ。
ただね、そのまましても面白くないと言うか、竿が無ければ自家発電もやれない訳じゃない。
もうね、ここは独り暮らしの優位性を有効利用しようと思ったね。
自転車レースで稼いだ金があるからさ、それで色々機材を買ったんだ。
撮影機材を色々とさ。
やっている事は犯罪っぽいんだけど、モデルが本人だからギリギリセーフだよな。
仕上がった作品は犯罪と言われるだろうけど、被害者が居ないんだから問題無いはずだ。
ともかく、表に出さなければ問題無い映像になるはずだし、それで楽しめれば余計な金も必要無いと。
かくして興味と好奇心と開き直りの30才独身による、自作自演のノーカットヌードビデオの撮影が開始された。
でもさ、不思議と言えば不思議なんだけど、顔も変わるんだよね、転身魔法って。
そりゃ30のおっさんのツラで女の身体とか、ただキモいだけだけどさ。
それでもどっかのモデルみたいな美少女ってさ、全く違う顔ってどういう意味だろう。
親戚連中でも見た事の無い顔立ちで、だから関連が全く分からないんだ。
転身って別人になる魔法なのかも知れないな。
しかしな、撮影は良いんだけど、これはどう見てもロリだよな。
うおおお、これは……我ながら大胆な……くっ……うっ……はぁぁ。
顔が違うから自分って感じがしなくてさ、モロにイケナイ犯罪している気分なんだよな。
しかも女になった時に独り遊びをするとさ、あの刺激と言うか頭がぼんやりする感覚と言うか、あれもあれで癖になりそうで怖いんだ。
でまあ、たっぷりと女で楽しんだ後、それを見ながら男で楽しむって、凄くコスパの良い方法だけど、妙に空しいのはどうしてだろうね。
それでも余計な金が要らなくなった訳だし、このままでも良いような気がしているんだ。
でも確実にストライクゾーンは下がっているだろうと思われるな。
だからもう、このままいくしかないよね。
誰にも知られなければ別に犯罪じゃないんだし。
客観的に見てその映像がヤバいってだけで、誰にも見せなければ別に犯罪じゃないんだ。
本人が本人の身体を撮影して、本人だけで楽しんでいるだけなんだからさ。
~☆~★~☆
僕が会社を辞めて2ヵ月後のある夜、あのライバル社に勤めているダチが訪ねてきたんだ。
何の用かと思ったら、酒の瓶やら小荷物やらを抱えているから、昔のように飲もうって言ってきた。
最近は付き合いも悪かったこいつだけど、また珍しい事もあるもんだ。
そういう事なら気の済むまで付き合うか。
メシもまだと言うからあり合わせで作ってやり、食べ終わった頃にあいつが金を渡してくる。
「これ、何の金? 」
「あのアイディアでよ、社長賞貰ってよ、オレは昇進も確定したからそいつはおめぇのもんだ」
「いや、いいよ別にあんなもの」
「何を言っているんだよ。あの画期的なシステムでよ、お前の元会社、そろそろヤバいって話だぜ」
「あれを出す前にクビになったからね」
「出されてたらうちの会社がヤバかったぜ。だからよ、社長賞って100万はそっくりおめぇのもんさ」
「まあそう言うならもらっておくけどさ、金には困ってないんだよ」
「何か仕事見つけたのかよ」
「まあね」
「そっか……なら誘えねぇな。うちの会社に来てもらおうと思ってたんだけどよ」
「月収500万の仕事だからね」
「うげ、マジかよ。お前の才能が遂に認められたんだな」
「ま、まあ、そうかもな」
「良かったなぁ、本当に良かったなぁ」
「お、おお、ああ、まぁな」
参ったな、レース予想の金をかなり過少に言っただけなのに。
先日3500万儲けたとか、さすがに言えないもんな。
だから3000万は端折って500万って……それでも多いわな、普通は。
でも遂に殺しも体験したし、戻るつもりは無いんだよ、表にはさ。
あれで表への未練はスッパリ断ち切れたんだ。
だからもう普通の暮らしとかどうでも良いんだよ、悪いな。
「ところでよ、おめぇ、VHSまだ持ってたよな」
「ベータもあるけど」
「うおお、さすがだぜ。実はよ、レア物が手に入ったんだけどな、今時の再生機じゃやれなくてよ」
「昔の規制前のヤバい映像じゃないだろうな」
「いやな、外に出さなければ問題はねぇんだよ。だからな、ちょいとホラ、再生をな」
「ジャンルは何だ」
「そりゃオレの趣味と言ったら分かるだろ」
「モデルは何才だ」
「ま、まあそれはよ、言いっこ無しって事でよ」
「イヤホーンは使ってくれよな」
「おお、悪いな。助かるぜ」
こいつもなぁ、ロリじゃなければ良い奴なんだけど。
規制前のビデオとなると、マジもんのガキんちょの可能性が高いな。
昔の規制ならいざ知らず、最近は重罪なのは分かっているんだろうな。
バレたら実刑確定なんだからな。
まあ、オレも人の事は言えないが、それでもあれは自作自演だ。
誰も信じないだろうと思われるのが何だけど、嘘じゃないのが救いと言うか何と言うか。
あれっ、何だ、このモデル、合法ロリかよ。
それにしてもその白いの、邪魔じゃないのか?
「なあ、その隠している白い光、邪魔じゃないのか」
「さすがにこいつは取れねぇんだよ。隠しじゃなくて焼いているからよ」
「ロリ映像のノーカットなら持ってるぞ」
「うおおおお、マジかよっ」
はぁぁ、つい、言っちまったな。
だってよ、合法ロリのフツメンなおばさんとか、見てもキモいだけだしよ。
そんな女優なのに、幼児体型ってだけで興奮するこいつが哀れになったのかもな。
「な、なぁ、頼む。誰にも言わねぇから見せてくれ」
ああ、もう止まらないか、仕方が無いな。