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誕生日の朝

数話で終わります。

 

 昨日、変な夢を見たんだ。


 久しぶりにと言うべきか、黒い歴史の夢。

 クラスメイト達との雑談なんだけど、童貞のまま30才になったら魔法使いになれるって話。

 それのどこが黒い歴史なんだって言われそうだけど、僕さ、今日で30才になったんだ。

 ちょうど30才になった途端にあんな夢を見るとさ、ちょっと期待しちゃわないかな?


 だから黒い歴史の夢さ。


「ステータスオープン」


 ははっ、空しいけどね。

 出ないと分かっていてもやりたくなる、今日は僕の誕生日。

 あんな嘘話、信じている訳じゃなかったけど、機会にも巡り合えずに風俗は何となく嫌だと、気付いたら30才だ。

 でもこれで気が済んだだろ? あんなのは黒い歴史の中だけの話さ。


 さて、今日も会社に行かないと。


 もう、毎日毎日、嫌になるけど辞める訳にもいかない仕事。

 でもさ、最近上司からの嫌なメッセージが届くんだ。

 肩叩きって訳じゃないけど、どうにも居辛いんだよな。

 若手優遇古参放置って言うかさ、うちの会社って役付きですら早くて20代前半なんだ。

 だから同期の奴らも役付きが殆どだ。

 まあ、係長が殆どで課長が少し、部長1人って感じになっている。

 30才で部長ってエリートだと思うだろうが、彼は社長の親戚だ。

 半分ぐらい同族会社風なせいか、そういうコネが優遇されているんだ。

 僕の手柄を殆ど自分の物として、そしてコネも使って部長になった同期君からの暗黙のアプローチ。


 そろそろ辞めてくんねーかっての。


 後輩に僕みたいなのが居るんだけど、そいつに乗り換えるみたいなんだ。

 だからもう僕は要らないって、そんな感じなんだよね。

 もっとも、その後輩君にアイディアを出しているのは僕だけど、彼はどうにも気付いてないみたいなんだ。

 だからきっと、今辞めるとあいつも後輩も困る事になるかも知れないと、少しそんな事を思ったりしているんだ。


「なあ、お前さ、もう、良いんじゃねぇか? 」


 やれやれ、遂に直接来ましたか。

 まだ30才なのに肩叩きって、どんな会社だろうね。

 だからかな、つい、言っちまったんだ。


「退職金はまともに出るんだろうね」


 おお、妙に嬉しそうな顔だが、そういうノルマでもあったのか?


「お、そうか、ああ、たくさん出るようにしてやるから、そいつは心配するな」


 親戚の社長にでも言われたのか、そうかそうかと頷きながら、彼は自分の部屋に向かって歩いて行く。

 売り言葉に買い言葉っぽかったけど、もう止まらないか。

 どのみちもう、やる気も何も無かったんだし、キリを付けるのも良いかも知れない。

 勤続12年か……こんな会社によく勤めたもんだな。

 ああ、今の仕事でのアイディア、出すの止めてそのまま投げちゃえ。

 あれはかなり画期的だと思っていて、そいつは後輩の手柄にしてやろうと思っていたけど、どうやら部長のあいつの手柄になりそうだし、それぐらいならライバル会社に勤務している昔のダチに進呈するよ。

 正々堂々と戦おうなんて言ってたけど、どうやら僕のほうがリタイアになるようだし、それぐらいならこれを使ってくれないか、かつての友よ。


(なっ、これ、マジかよ……あいつ、こんな……何かあったのか。こんなとんでもねぇアイディア、捨てるようなあいつじゃねぇだろ。確かに鳴かず飛ばずとか言われてるけど、あいつの会社から出る新製品の殆どがあいつが昔考えていた奴ばかり。盗られたんだろうな、あいつ、そういうの気にしない性質だから……器用貧乏か……はぁ? 会社辞める? あいつ、まさか……ああ、そんな恩知らずな会社、とっとと辞めちまえよ。そん代わり、おめぇのアイディアはオレが生かしてやる。んでお前にも見返りは渡すからよ)


 ~☆~★~☆


 退職金は20年分出るらしく、かなりお得だと言われた。

 まあ、12年勤めて20年分出るならお得なのは確かだけど、それを誰が証明すんのさ。

 去年退職した勤続6年の後輩君と変わらないような額を寄こして、お得と言われてどう返事すりゃいい。


 つくづく舐めてくれるよな。


 僕がおとなしいから? まあいいよ、そう思うならそれでさ。

 退職願と引き換えに、妙に薄っぺらい封筒を受け取る。

 明細書となっているけど、振込み? 

 口座には来月入金の予定だけど、先に受け取りにサインしろと?

 それでもし入金が無かったらどうするの。

 法廷でも勝てないのは確実なのに、それでもサインしろと言うんだね。

 未来が分かっているのにサインするのは嫌なんだけど、どうせゴネてもどうにもならない。


 だからとっととサインしたさ。


 んで、翌月になっても当然、入金なんかは無い訳だ。

 電話で問い合わせてもとぼけて終わりだ。

 封筒で現金を渡し、それと交換で受け取りにサインしたろ、これで終わりだ。

 僕の退職金、そっくり着服して嬉しいかい?


 車、乗り換えたんだね、新車に。


 運転しているのは君の秘書のようだけど、モーテルから出て来たね。

 昼間からいい身分じゃないかい。

 そのまま高速に乗って帰社かな?

 たっぷり楽しんだようだけど、心残りはもう無いよね。


 だったらもう……もう良いよね。

 いい加減、僕の我慢も限界なんだ。

 だからここらで終わりにしても良いよね。


 さようなら、くっくっくっ。


『我、願う、山澤正二の破滅。火炎爆発』


 2人が乗った車両が突然爆発を起こし、運転していた彼の秘書と共に高速道路の華になったのは、それから数秒後の事だった。


 ~☆~★~☆


 いや、まさかね、あんな話は嘘だと思っていたのさ。

 だけどさ、確かにステータスオープンは使えなかったんだけど、魔法自体は使えたんだ。

 どうやらさ、横文字に対応してないっぽいんだ、僕の魔法って。

 通勤途中、未練だと思ったけど暇だったからつい、色々試してみたんだ。

 そして陰陽師のように和名でやったら表示されてさ、ついその気になっちまったんだ。

 んでさ、ステータスの表示はこうやるんだよ。


『我、願う、我が諸元の表示を』


 名前 野村 洋平

 年齢 30

 性別 男

 階級 12

 耐久 850/850

 魔力 940/950

 戦闘 15

 防御 25

 霊魂 2


 魔法 破滅魔法・予知魔法・移動魔法・回復魔法・転身魔法


 いや、情けないよね、戦闘15とか、防御25とかさ。

 その癖、妙に耐久と魔法が高いんだけど、関連がよく分からないんだよね。

 弱っちぃ癖に耐久だけ高いとか、全く意味が無いような気がしてならないんだけどさ。


 それより魔法の話をしようか。


 同期で部長の彼を殺したのは、破滅魔法と呼ばれるものだ。

 これは対人に対して使う魔法で、相手を確実に殺す意志を持つ事が発動条件になっている。

 だから冗談で使っても使えないようになっていて、だからこそ彼に対する恨みを募らせたとも言えるのが今回の退職金の関連な。

 だからもし彼が着服を考えなかったら、僕の魔法は発動していなかったかも知れないんだ。


 後は予知魔法だけど、これはまさしく未来予知になる。

 これの確定にも苦労したんだよ。

 まず試してみたのは公営ギャンブルなんだけど、当たりの特定のやり方が難しくてね。


『我願う、第一レースの着順を……』


 これ、ダメだったんだ。

 ほら、レースって横文字だから。

 でさ、自転車競技にしてもダメでさ、これは言霊じゃ無理かなと思ったんだけど、ふと思い付いて玩具の金と銀と銅のメダルで試してみたのさ。

 3枚のメダルを新聞の上にばら撒いてみたらさ、③と⑤と⑧にそれぞれ、金と銀と銅で止まったんだ。

 しかもだよ、3回やって3回共同じ結果になったんだ。


 これで行けたと思ったね。


 たださ、これ1回やるのに魔力を100も使うみたいなんだ。

 だから途中で使えなくなると共に、妙にだるさを感じてさ、そのまま寝ちゃって起きたらレースが終わってたんだ。

 確かに当たっていたけど、買わずに寝たんじゃ何にもならないよね。


 後はさ、階級ってのがあるじゃない。

 あれってレベルの事なんだと思うんだ。

 確かに階級が1の時は魔力は300だったんだけど、それを全部使ったから眠くなったんだと思うんだ。

 よく、使い切ると死ぬとか、そんな小説も見るけど、眠くなるだけで終わるならラッキーだよな。


 そんでさ、階級が12になったのは破滅魔法を使った後の事だ。

 つまりさ、人2人殺してそれが経験になったっぽいんだ。

 後は霊魂なんだけど、これって殺した人数の事らしいな。

 何かに使えそうな数値だけど、今は何も分かってない。


 まあ、殺人歴だと思っていれば間違い無いだろうね。

 いやぁ、さすがにあれだけ募らせれば反動も殆ど無かったね。

 普通ならさ、良心の呵責とかが派手に来ると思うじゃない。

 だからこそ分かってて自ら詐欺に飛び込んだとも言えるんだけど、殺しても特に変わった事は無かったんだよね。

 本人はともかく、愛人の秘書には関係の無い話なのに、道連れにしたってのに特に何も思わないんだ。


 でも困ったね。


 殺さないと経験にならなくて、経験が増えないとステータスも増えないってさ、もっと殺さないとダメって事なのかな。

 12年我慢した後の詐欺行為でやっとクリアした殺しなのに、そうそう殺す意志とか持てないよな。


 ひとまず当座の生活費を稼ぐ為に、自転車レースで少し稼ぐ事にしたんだ。

 コイン振って大穴レースをいくつか予想して、眠くなって翌日に場外で購入したんだ。

 さすがに預金も無かったんだけど、手持ちの数万が数百万になってさ、そいつが数千万になったんだ。

 確かにカバンは用意していたけど、両手に提げて歩くと目立つ事、このうえないみたいでさ、やっぱり狙われたんだ。


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