第56話 苦労人
「キャアアアアアアアアア!!」
平和な町中に響き渡った女性の叫び声。
なんだなんだと、わらわらと民衆がその現場に集まってくる。その場所は───
「どうですか?俺の十字架教に入る気はあるか?」
「キャアアアアアアアアア!!??誰か!助けて!!」
公園であった。
公園のど真ん中で十字架を持った神官姿のおっさんが女性を追いかけていた。両手で持った十字架を女性に向かって掲げながら何やら呪文のようなものを唱えていた。
「じゅげーむじゅげーむ」
「誰か!!変態がいます!!」
じゅげーむじゅげーむ!まさに!じゅげーむじゅげーむ!ひたすらそう言いながら女性を追いかけていた。まさに……世にも奇妙な公園……お、おそろしい……。
「じゅげーむじゅげ──ぐっぼわ!!」
「止めろおっさん!!」
乱入者により、おっさんの暴行?が止められた。盛大に乱入者に吹っ飛ばされたおっさんは木に背中から打ち付けられた。そのままずれ落ちるとがっくりと首を下に傾けた。
「ありがとう!助かりました!」
「いえいえ。自分はただ当たり前のことをしただけです。後始末はしておくので、行っていいですよ」
「すみません。もう、あの人に関わりたくないので……」
「ん?……え?」
タッタッタと走って現場を離れていく女性に呆気にとられながら見送った。
「……今『あの人』って言ったよね…まさか知り合い?」
乱入者もとい──広野はポツリと呟いた。すると、集まっていた民衆は何事もなかったようにその場から離れて行った。
「え?え?え?」
まるで劇場が終わった後に観客が帰っていくように自然と離れていく住民にどういう事!?と驚きながらキョロキョロ見渡す。
「よし、俺も帰るか」
「え?」
いつの間にか立ち上がっていたおっさんも、すたすたと広野の前を通り過ぎて行く。
「………」
「おわ!?何をするんだ少年。急に人の首元を掴むのではないぞ!危ないじゃないか!」
無言でおっさんを掴んで止めた。
「おっさん……お前が俺らをあのよくわからん世界に飛ばしたおっさんだろ」
「………ん?」
何を言っているんだこの少年はと、考えるが。ふと、前に青年一人と少年五人と少女二人を転移させたことを思いつく。その中に―?
「おうおう。いたな。そう言えば君を転移させたな」
「やっぱあんたか!?お前のせいでどれだけ俺達が困っていると思っているんだ!樹屋も香菜女も予測だが、この力に目を付けられて攫われているんだぞ!!どうせてくれるんだ!!」
「うげ……何でか面倒な事に巻き込まれてんな……。うわぁー。旦那に叱られコース待ったなしだな……いや。まてよ」
「何でそんなめんどくさい顔をしているんだ!おっさんが妙な力持ってんなら樹屋と香菜女を助け出すのを手伝えよ!!」
「オッケー……。冗談はこのぐらいで。ま、取り敢えず家に来い。此処じゃあ聞くことも聞きずれえしな……」
「手伝ってくれるんだな?」
「ああ。ついて来い」
攫わてた理由の元凶のおっさんを前に珍しく広野は激怒した。二人の事を早く助けに行きたいと思いながら広野はおっさんの後について行く。
〉〉〉
「そういう事か……」
おっさん座りするおっさんは顎に手を当てて考え込む。
広野はおっさんの家が教会とか宗教的な家かと思いながらついて行ったが。着いたのは至って普通の木造一軒家であった。年数はかなり経っている様子で。築数十年はあるであろうと見た限りのボロさで思った。
しかし、入って見れば、中は外見とは裏腹に綺麗に磨かれた廊下など、下駄箱も新品みたいに綺麗で。まさに外見で判断するなよと言うのはこのこと。
奥のほうに歩いて行くおっさんの後をついて行くと、大きな水色の水晶が上に置かれた円卓のテーブルが真ん中に置いてある以外普通のリビングに辿り着く。
向かい合いながらテーブルの席に着くと、広野はこれまでの事をおっさんに告げた。突然樹屋や香菜女が行方不明になり、その原因がおっさんの不思議な移動方法によって巻き込まれた事によって得てしまった力だという事を。
その話を聞いておっさんは葛藤していた。
(これヤバくね?まさか、禁断症状で子供の誘拐事件の元凶になった!とか言ったら……。うん。間違いなく旦那にリバの旦那が造った別世界に括り付けられて強制処刑させられるな……。やっべ。八方塞がり……。力使ったら敏感な旦那は気が付くだろうし。力を使わなかったらこの子が怒るだろうしな……)
揺れ動く天秤。片方は『クラの世界ごと抹殺の刑!!』もう片方は『広野。怒る』と、ん?思ってより大丈夫か?とも考え始めたおっさん。
基本的に自分勝手に楽しむが、他の人も楽しもうぜ!精神のおっさんは、自分の力で巻き込んで、それでさらにやばい事件に巻き込まれているとなると……おっさんの良心が傷つく。
「どうすっか………ん?誰だ?こんなと───げ。こっちは知り合い専用電話じゃねぇか………」
すると、おっさんが普段日本で使っている右ポケットに入っている携帯から電話かと思ったら。左ポケットに入っている知り合い用神様テレホンから着信音が鳴っていることに気が付く。着信音は何故かエ〇ダアアアア!!だが。
「え~~と……お。旦那じゃなくってプリンか。えーもしもし?」
『プリン!!プリン!プリンプリン!!!』
「お、おう」
『プププリ!プリンリン!!プリ?プリン!!』
「お、う、うん」
『プリン!?プリーーーーーン!!!』
全くに持って会話が成立していない。おっさんも何年もプリンとの付き合いは長いが、未だに言っている事がさっぱりわかってない。適当に相槌をしながら会話が成立するように合わしていた。
すると、叫んだプリンという名の者はそのまま一方的に電話を切った。
ふと、前にいる広野の方に顔を向けると、広野も聞こえていたらしく苦笑いをしていたので、苦笑いを返すと……?
「私!参の上!!」
「おわ!?プリン!?」
「だ、誰!?」
テーブルの上に決めポーズ押しながら少女が現れた。
広野とは違う学校の制服姿で、小柄な体格。声はまさにアニメ声だった。ポニーテイルの髪型の先にはプリンのストラップを付けていた。
「私が遥々やって来たわよ!葛木さん!」
「やめろおおお!本名を言うなあああああああああああああああ!!」
「あ、ごめん!……でも!私が来たからにはもう安心!絶対安で本当安である私に任せればどんな事件も安心間違いなし!」
「うわぁ……、どっちにしろめんどくせえ事になっちまいそうだぁ……」
「…………………………………………………なんだこれ」
キラリ☆世界の平和は彼女マジック女子のプリンに任せよう!!どんな問題もたちまち解決してしまうぞ!!
〉〉〉
「っく!?殺せ!!こんな状況に私を追い込むつもりなんて!!なんて卑怯な人達!!」
とある部屋の一室で、自らを殺せと唸っている白衣の少女がいた。
─────金崎 香菜女だった。
手に持ったある物をギュッと抱き絞めながら目線の先にある監視カメラを睨み付ける。
「こんな……」
周囲をキョロキョロと見渡す。
「こんな!!」
さらに持った物の抱きしめる力を強める。
「パラダイスに連れ込むなんて!!ああああああああああああああああ!!サイコーーーー!!ここは天国よ!!!!!!」
苦労している広野と樹屋を全く知らない香菜女は、現在。可愛いぬいぐるみと女の子に囲まれて幸せであった……。
お読みいただきありがとうございました!




