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最終話 『破壊』の神

 光がない。


 何故光がないのだろう?


 それは何も『ない』からだ。


 かつてそこには神がいた。


 全知全能を持つ神がいた。


 それは全てを創り出した。概念であったり、物体であったり生命でもあった。


 時が経つにつれて神は自分一人の力では全てを行うことが難しいと考え、自身の分身となる新たな神を創り上げた。


 そこからは色んな出来事が起きた。


 神達が自由気ままに、己が楽しむために新たな物をまた創り出し、それを真なる神がのぞき見しながら楽しむ。


 そんな……時間が経つにつれて神は思った。


「俺、楽しめねえじゃん」と。


 そう、彼の神は自分が何も出来ていない事に改めて気が付いた。


 するとそこからは彼がやりたい放題であった。


 適当に見積もった人材に次世代神に任命して、適当に自分の仕事を放り投げ今の立場を投げて逃げた。


 すると、対となる存在の女神の最高神が共に逃げたり。昔に封印した友の事をすっかり忘れていたりと……丸投げであった。


 そのツケが廻ったのか、今ではこの通り。力が暴走して全てを無に帰してしまった。


「はぁ……めんどくせぇー」


 何もない場所で確かに呟かれた声の主は静かに力を使った。


 〉〉〉



「うぐぐ……」


 身体が燃えるように熱い。爆発寸前のダイナマイトを体の内側でかっているようなそんな途轍もない力の暴力が全身を襲っている。


 力を授けた瞬間に最高神はいつの間にか目の前から消えていた。少し前に何かを言っていた気がするが彼らにはその言葉すら思い出す余裕すらない。

 チラリと隣に視線を向けると、そこには自分自身と─────クラと同様で己の内側で破裂しそうな膨大な力の放流をどうにか抑えようと蹲るリバ。片膝を地面に付けて荒い吐息をはき、大量の汗を出しながらも抑え込むチツの姿もあった。


「ぐぐ……ぐ」


 こんなものだとは少しも説明はされていなかった。さも当然の如く継承が始まり、当たり前のようにその場に取り残された。

 愚痴の一つは言いたくなる状況だ。だがやはり、彼らにそんな余裕は全くない。


 遂には立っていられなくなったクラはゆっくりと地面に身体が引きずり込まれるように膝を地面に突き、拳を強く握った。

 何かをしていないと抑え込めない、ギリギリと歯を食いしばみ力を込めた拳からは爪が皮膚に突き刺さり血がしたたり落ちる。


「う、ッ」


 身体が、体温が上がっている。高熱という言葉が優しく思えるほどの熱さだ。自身の熱で身体が燃え尽きてしまう……そう感じさせてしまうような強烈なもの。


 どれだけ経過した?一時間か?もしかしたらまだ一分かもしれない。時間間隔すら段々と薄れ、削られていっているような気もするしなくない。


 ふと、これを抑え込む必要はないんじゃないか?と思い始めた。


 何故これを抑え込まないといけないのか?そんな考えが一瞬過ぎった。


 それは大切意味がある行いだった筈。だが自分は何故そんなことを無意識で行っているのだ。


 そんなことを考えていると、身体を襲っていた熱が下がっていくのを感じた。


 ──────────そうだ、任せばこんなに苦しむことなんてない。


 そう、悪魔が囁いた気がした。だがそれは天使にも思えた。

 こんな苦しみから解放される、そんな甘い甘い言葉。縋りつかずにはいられない。


 どんどん熱が下がる。それと同時に何か大切な物が失われていく気がする。


 悲しみ、怒り、笑い、喜び、恐怖。


 嫉妬、傲慢、怠惰、強欲、色欲、憤怒、暴食。


 あの人がいい人、あれが当たり前、こうする事が当然、これはしてはいけない、この事を大切に。


 ──────────みんなを大切に。


 ──────────み・。をtsに。


 ──────────m。・?!sい。


 ──────────────────────────────。



「ああ」


「ああああ」


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


(身体が消える!俺の身体が!!気持ちが!!やめてくれ、やめてくれ!!!頼む頼むから。それを消さないでくれ、俺、私の。我の必要─────性のないもの。必要ない、何だ、いらないじゃないか。こんなものいらないじゃないか。いらないなら消してしまえばいい。そう、必要ないものは破壊すればいい。それが我の存在意義。破壊の、破壊を司る存在としての─────)


「そ、そんざ、い意義」

「じゃないからね?それ」

「いぐぁ!?」


 突如として聞こえた声と同時に、顔面に何かがぶつかり引き飛ばされた影響で

 訳が分からなくなっていた思考が一旦停止した。


「はぁー。何でこうなったんだか……めんど」


 クラが居た場所には、緑色の髪してダボダボのサイズが全くあっていない服を着た男が立っていた。


「取り敢えず回収ー」


 握り絞めていた拳を開くと、そこには球体上の丸い球が茶色に光りながら浮かんでいた。それを確認したのちに男はちゃらけた軽いノリで丸い球を自らの胸の中に押し込んだ。


「う……一体何が」


 急な出来事に気が動転しつつ身体に付いた土を払いながら立ち上がると……ふと、かなりのダメージを負っていそうな勢いで殴られたのにも関わらず、自分に何の痛みが無い事に気が付いた。


「どういうことだ……?」


 ペタペタと自分の体に触りながら異常がない不思議な現象に疑問を持つが。


「そ、そうだ!チツ!り……ば?」


 先程のクラと同様で必死に『何か』を抑え込んでいた二人の事が気掛かりになり急いで二人の方向に目を向けたが、そこには。


 ──────────自分を殴ったとされる人物が二人に増えて、チツとリバに同時で腹パンを食らわした場面であった。


「…………」


 意味が分からない状況に開いた口が塞がらないクラであるが、さらに訳が分からないことに。殴られた二人が、拳が離されたのにもかかわらず時間が止まったように少し空中で浮かんだ状態で止まっていた。


 そのチツとリバの状態が当たり前のように緑色の髪をした男は、今度は二人の腹の中に腕が飲み込まれていくように突っ込むと、ゴソゴソと中身を物色し始めた。


 お!と、探し物が見つかったような表情をすると、腕を引っこ抜いくと同時にリバとチツの時間が動き出したようにその場で崩れ落ちた。


「チツ!リバ!!」


 それに気が付いたクラは急いで二人の傍に寄ろうと走るが……すぐに何もない所で躓いて─────こけた。


「な、なんで」


 すぐに起き上がろうとするが……何故か体に力が入りきらず。力を込めた筈の腕はプルプルと震えて、身体を支える程度の力すら込められなかった。


「「ま、そうだろうな」」

「っ!?」


 当然のように掛けられた声に驚き、身体をビクッとさせてすぐに顔を上げる。そこにはやはり、緑色の髪をした男が二人立っていた。


「抑え込むのに全ての力を使っていたとはいえ」

「完全に抑えきれずにいたから」

「身体の全ての力を使った後の人のように力が入らないだろう」

「「っほい」」


 緑色の髪の男は、片方が黒い光る球を持ち。もう片方も白い光る球を持っていたが、喋り終えると二人同時に自分の胸の中に光る球を押し込むと、ボフンと煙玉が破裂したような音がして煙が立ち上がり二人の姿を消した。


「これで、あのような事は起こらないだろう」


 煙が晴れると、そこには二人から一人に減り、先程の二十代辺りの見た目から三十代後半程の姿に変わった緑色の髪をした男が立っていた。


「あーーあ、あのハナタレ小僧に渡したのが間違いだったか」


 頭をガシガシ掻きながら空を見上げ、独り言をつぶやいた。


 そこに、内臓を痛めてフラフラした身体をどうにか動かしたスーナが、二人の間に身体を広げてクラを庇うように立ち塞がった。


「もう、この子達を虐めないで下さい。お願い……します」

「す、スーナ!?」


 スーナな行動に驚きの声を上げるクラに対して、顔を向けて口だけを動かし『大丈夫だから』と伝えるとすぐに真剣な表情に変えて再び緑色の髪をした男を睨み付けるように顔を向ける。


「………」


 口から血を流しながら、立っているのすら厳しい体に鞭を打ち、尚も立ってこちらを睨み付けるスーナに、冷めた眼で見下すように見つめ返した。


 数分の無言の眼やり取りが行われたのち、ゆっくりと口を開けた緑色の髪をした男。


「なら、死にたいようだ────────痛い!」

「黙れアホ」

「良い所なのに何する!?」


 死の宣告を告げようとした瞬間にスパン!と気持ちいい音を頭から鳴らし、後ろから聞こえた声の主に涙目になりながら講義の声を上げた。


 後ろには黒と赤をモチーフにしたドレスを着て、真っ赤な紅い髪を背中まで下ろしたロングヘアーの女性が、ハリセンを片手に持ち、もう片手で腰に手を当てながら佇んでいた。


「もう『用事』は終わっただろうが、何時までここにいるつもりだゴミ。まさか、別れが恋しいとかほざくつもりか……?いい年した男が」

「ちょっと……『お兄様!』に対し─────痛い!」

「輪廻に還すぞ」

「私は─────全知全能なので。その程度の輪廻転生など片腹痛いわ!─────痛い!いた!いって!ちょ……いた!!いたいたたたたた!!!叩きすぎぃ!!」


 ポカーンと、SEが出てきそうな程間抜けな顔をしたスーナとクラ。今だ尚バシバシと叩きまくる女性に対して身体を丸めて蹲る緑色の髪の男。バシッ!バシッ!と鳴っていた音が途中から、バン!バン!と金属で叩いている音にいつの間にか変わっていた。気のせいか、ハリセンも紙から黒い光沢があるものに変わっている気がする。…………気のせいだ。


「引導を渡してやる…………」

「いや、もう二十回は死んでいるんですが?」

「知らん」

「アバーー!」


 目にも留まらぬ速さで降り下げられたハリセン?に頭を打ち付けられた緑色の髪をした男は、釘の如く地面に足から頭がすっぽり埋まるように打ち付けられた。


「さて、こちらの用事は終わったので、さようなら」

「まっ待ってください!」

「何だ?」


 埋められた緑色の髪をした男の頭の天辺をグリグリとヒールで気が済むまで踏みつけたのち、さっさと帰ろうと頭を持って地面から抜こうとする。その様子を見て慌ててスーナが声を掛けた。

 ギロリとスーナを睨み付ける。それの殺気だった眼にスーナが少し怖じ気付くが恐怖心を心の奥に押し退け、口を開いた。


「わ、私達は。この子達は、今後はどうなるんですか?」


 ──────────絞り出した声は震えていた。


 彼女はこう考えていた。


 この子達はあの最高神によって育てられ、継承されることだけの『駒』として今まで生かされていた。だが、継承されるはずの力は目の前の謎の男に取られた。しかし、目の前の男は回収と言っていたので、何かしらあの最高神に近しい人物。

 最高神の様子からしてこの事はあの最高神は知らないはず。なら、継承を出来なかったこの子達はもしかしたら『処分』されるかもしれない。そんな未来しかないなら、目の前の可能性に賭けるしかない。そう考えていた。


 彼女の言葉を聞いて赤い髪の女性は─────。


「抗えばいい」

「え?」


 スーナの隣を通りすぎ、そのまま顔を見上げているクラの目の前まで歩いた。


「貴方ならもしかしたら─────いや、何でもないわ。私から言えるのは抗いなさい。自分一人で出来ないなら」


 後ろを振り返り、気を失っているチツとリバに一瞬だけ目を向け。


「三人で抗いなさい」

「どういうこ─────」


 クラの言葉を無視し、埋まっている緑色の髪をした男を地面から引っこ抜いた。


「さようなら、─────」

「じゃあね、─────」


 元からいなかったように、風に溶け込むように二人は目の前から消えていった。


 ボソリと呟かれた最後の言葉は…………クラの耳に届かなかった。


 〉〉〉



「クラーー?そろそろ行かないと遅れるんじゃない?」

「わかってるリバ。それじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃーい」


 これは彼の物語。


「クラ!僕ちんを待たせるなんて………。それで神を目指している男がすることかぁー?」

「うるせぇ!いちいちそんな事をいちいち言うチツ、お前の方が器がないわ!」

「やんのか?この野郎?」

「いいぜ、肩慣らしぐらいしないとな」


 世界に名を轟かし。


「抗ってやったぞ、最高神」

「待ってたよ、ボ──クラ」


 神の力を得て。


「お前は!?俺の筋肉が永遠と叫んでいる!?─────さては仲間(ホモ)だな!」

「違うわ!」


 破壊の称号を受け。


「頑張っているようね。パパは」

「そうだね……。ボスは、ああでなきゃ」


 彼は再び転移した。


「寝水ちゃんおはよー!」

「峰川ちゃんもおはー!」


 スーツ姿のクラの隣を、笑顔で挨拶をしている女子高校生二人が、並んで登校していった。

 それを見て、何故か無意識に口角が上がり微笑んだクラはそのまま逆方向に歩き始めた。


「こらぁー!アホ樹屋!まて!!」

「あっはっは!待たねーよ!!行くぞ広野!」

「朝から……元気……ありすぎ」


 遠くから知らない三人の元気な声が聞こえてきた。ふと、腕時計で時間を確認した。


「あ、もう時間か」


 新たな世界の旅立ちを祝うように、一瞬だけ強い風がクラの髪を靡かせた。


「じゃあ、行くか─────次の世界に」


 次の瞬間、その世界から彼は消えた。


 さらなる世界の調査をするために─────破壊の神は異世界に転移したのであった。

これにて破壊の神の異世界は終わりです!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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