第98話 家族
どうしてこうも道を間違えたのか。
チツの言葉を聞きクラは思わずそう考えてしまう。
チツが創り上げた剣は恐らく創造の力で作り上げたであろう最強の剣。それに加え空間の力が足されているであろう。それに対してクラは破壊の力ただ一つ、どう考えたって勝ち目などない。
諦めたら終わりだ、だがこれ以上どうすればいいのか。体中傷だらけで満身創痍。体は既に鉛のように重く、思うように動かない。
〉〉〉
「クラ!!」
必要なのは正しい秩序。いらないものはくだらないココロ。
蹲って己の暴走に耐えながらも懸命に叫ぶリバの声は、これからすべきことを無表情に分析し始めたクラには届かない。
「………」
チラリと煩わしいく思ったのか叫び声を上げたリバに視線を向け、また虚空を見つた。
すると、クラの身体を包み込むようにあたたかい温もりが冷え切った心を溶かすように伝わる。
「だめ、そうなってしまってはだめ……!」
抱きついて必死に引き戻そうと悲願の声を上げるのはスーナ。ギュッと抱きしめる力を強めた。
「スー、ナ?」
「!?そうよ!大丈夫だから………戻っておいで?」
冷え切った目に光が戻っていくと、自分に抱きついている人物がようやく理解してきたのか、振り絞るように口に出した。
クラの様子に気が付いた彼女はすぐに反応して顔を上げると、安心させるために口元を緩ませて微笑む。
「そ、大丈夫だか、……ら」
「………あ」
ポタリポタリ。
自分の腕から生暖かい何かが伝って地面に落ちていくのを感じた。
スーナの声の様子に、自分自身の腕の状態が気になって目を向けると……見えたのは。
自分の腕が彼女の腹部を貫通しているという無残な状態だった。
「あ、あああ、スーナ!!!!!」
遂に力が抜けて崩れ落ちる彼女を受け止め、腕を引きぬくと同時に穴が開いている腹部の治療を始めた。
「そ、そんな………」
「………スーナ?」
力の暴走が落ち着いたのか、チツとリバは蹲っている状況から立ち直り、その状況の理解をして唖然と口から言葉が零れ出た。
「スーナ!スーナ!!!」
「コッフ!……はぁ、はぁ……」
治療をしたはずなのに口からはとめどなく血が零れ落ち、咳と共に血を吐き出した。顔色も悪くなり………誰が見ても助かりそうにない弱弱しい姿だった。
「く、ら」
「あ、ああ!!いる!ここにいる!」
どうにか上げた右手に反応して、両手で包むように掴んだクラが必死に言葉を返す。
「リバ。……ち。つ」
既に何も見えていない様な虚ろな目をしながら言葉を出す。
「貴方達は………ソウル。たましゴッホ!魂で繋がった。かぞ、く。何があってもこれだけは……忘れないで」
「~~~!!」
口を噛み締めて叫びたい衝動を抑え込んで、スーナの言葉の続きを聞く。
「クラ。貴方は『これ』を……後悔するかもしれない……ケッホ。けど、大丈夫。貴方は素敵な人よ。皆を愛して………クラ・ソウル、わた………しも愛し─────だからみんなを……愛し」
彼女の最後の言葉は、惜しくも誰の耳に届かなかった。
〉〉〉
「─────っ!」
走馬燈のように頭に過ぎった光景が無意識に身体を横に動かし、チツの攻撃を回避した。
無理矢理に動かした身体から悲鳴が上がる。傷口から血が流れながらも無様に地面を転がりながら、視線はどうにかチツを向けたまま警戒しつつゆっくりと起き上がる。
「どうし─────何故、まだ立ち上がれる?」
チツから見ても先程の攻撃で確実に仕留めたと判断した。だが、結果はこうなった。思わず口から出そうになった言葉は途中で押しとどめ、再度口にした。
ボロボロで血塗れ、フラフラと立ち上がっても左右に身体が揺れている。……なのに何故?と。
「聞こえたんだ」
ゆっくりとだが足を一歩前に踏みしめた。
「確かに聞こえたんだ」
更に一歩足を進める。
「幻覚かもしれない、けどそんなこと関係ない」
既に満身創痍の己の身に鞭を打つように拳を握り絞めた。
走馬燈のように流れた過去の出来事。
それは自分自身が犯してしまった罪。
母親という存在を自らが殺してしまったという罪。
だけども、母はそれでも微笑み願った。
『みんなを愛してと』
例えどんなに大きな過ちを起こしてしまった人でも、自分は可能な限り愛そう。
「お前が俺達の『家族』だからだ」
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「は?」
彼の頭に以前起きたノイズが再び走る。
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「僕ちんが言ったの聞いてたのか?」
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「俺が何をしていたのか知っているのか?」
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何度も何度も静まれ静まれ五月蠅い五月蠅いと頭の中で叫んでもノイズが止まらない。
「うる……さ……っ!」
口に出しても。
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やはり。
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収まらない。
「つっ!?」
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そうして世界は。
滅んだ。
お読みいただきありがとうございました!