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第96話 破壊の力

「【臨界の輪(ディメンションリング)】!」


 クラがチツ目掛けて走り出した瞬間、チツが空間の力を使い黒く渦巻く輪っかを十程生み出した。


「おらぁぁぁぁ!!神懐魔法【激衝げきしょう】!」


 チツの動きを走りながら確認したクラが勢いを付けてジャンプをし、空中で一回転してから踵落としをチツから少し離れた地面にぶつけた。


「っう!」

「キャァァァァ!?」

「のわ────!?」


 地面を砕き、さらに砕き、また砕く。


 クラの踵落としを当てた場所を中心に、地面が何度もひび割れながら盛り上がり、周囲には強烈な衝撃波を放つ。


 衝撃波によって、ゴロゴロと転がるように寝水とゴブとシナナが遠くまで吹き飛ばされる。


「イ゛!」


 不幸なことに、偶々飛んできた巨大な水晶がゴブの頭にぶつかった。

 そのままの勢いでゴブを踏み潰すそうとしているように、巨大な水晶に身体が踏み潰された。哀れなゴブである。


「何やってんのよ!アホ!」


 間抜けなゴブに呆れたシナナが怒気を飛ばし、水晶を蹴り飛ばして地面に大の字で埋まっているゴブを採掘するが如く引っ張り上げた。…………拳骨のオマケ付きで。


「…………」


 引っ張り上げられたゴブは拳骨を受けるとカクッと首の力が抜け、白目を剥いて崩れ落ちるように仰向けで倒れた。とどめを刺されたようだ。


「何やってんのよ───!」


 首元を掴み上げながら、シナナが白目を剥いたゴブの首をガクガクと揺らし始めたのだった。



「ッチ!効かねえか!」


 余波で周囲に衝撃波が飛んだが微々たるもの。クラが放った【激衝げきしょう】は目標に目掛けて破壊の衝撃波を飛ばす魔法だ。本命の衝撃波はチツ目掛けて飛んでいったが……。そこに立ちふさがるのはチツが生み出した空間の輪っか。クラとチツの直線状に一つが移動すると、不可視の衝撃をその渦の中に取り込み消滅させる。


 その様子を見て即座に判断した。


 ─────確実に本当の空間の力を使っている、と。


 手加減無しの破壊神の魔法だ。本来ならば目の前にある輪っか全てを使って防ぐだろうと考えていたが、チツがしたのはたった一つを使い、尚且つ完璧に防いだ。『相殺』ではなく防いだのだ。


 その理由から考えるに、チツは魔法ではなく空間の力そのものを使ったと判断できる。


(あの野郎、まさか本当に制御したのか……?)


 口では分かったような風に言っているが内心では少しばかり焦りが見えた。力に飲み込まれて自我を失う可能性がある、それを一番恐れていたであろうチツ本人がそれを見た限り完璧に制御している。何故出来るのか、何故嫌な力を使おうと思ったのか。………結局は本人にしか分からない。


「うぉ!?」


 クラの攻撃を防いだ輪っかの死角から現れるように、四つの輪っかが横向きにクラに向かって飛んで来た。


(─────回避を……駄目だ、間に合わん!)


「クッソ」


 回避行動を取ろうとしたが間に合いそうにない。転移をしようにも、既にチツの妨害なのか分からないが、この世界全体が不安定で転移が出来ない状況だ。覚悟を決め両腕に力を込めて迎え撃とうする。


「神懐魔法【懐破かいは】!!!」


 クラの神懐魔法発動と共に白いオーラが体から湧き出てきた。それらを力を込めた両腕に集結させ、目の前に飛んで来た輪っかに殴った。


「おらぁぁぁあああ!!」


 一つ目。


 殴った右腕が空間に引き裂かれる。


 二つ目。


 同様に左腕が切り裂かれ、余波で頬に複数の傷が付く。


 三つ目。


 破壊しきれず、肩をバッサリと抉られ血が噴き出た。


 四つ目。


 左腕を酷く損傷。力が入りきらずぶらりと垂れ下がる。



 パチパチパチ。


「流石だクラ。まさか、ただの破壊でそこまで頑張るなんて……。呆れるよ」

「言いたいことは………それ、だけか」

「いや、まだ六個あるんだけど……防げる?無理だよね?その状態じゃ」


 劇的に驚いた表情で拍手をしたチツをどうにか睨み付ける。

 大量の血を流したせいで視界はぼやけるし身体は言う事を聞かず、異様にだるい。


 クラの身体の様子をじっくり見てから、言い聞かせるように言った。


 内心で悪態を吐いた。事実、半分にも満たない攻撃でこのざまだ。まだ半分以上残っている。既に満身創痍のような状況だ、やはり─────魔法の程度のまがい物では本当の力には勝てないかと改めて分かった。


 この力は自分自身の罪のような物だ。あの時も。


『大丈夫、だい、じょうぶ、だから。ね?だから……飲み込まれないで?』


 あの人の、彼女の、最愛の、母の、親の─────大切な人のお陰で今がある。


 今を大切にしたい。例えあの時に戻れないかもしれない、誰よりもあの時に戻りたいと思っていたリバの気持ちを踏み壊すかもしれない決断でも、今は─────。


「負ける、訳には。─────いかねぇんだよぉぉぉ!!!!」

「─────な!?」


 心の底からの決意の叫び。それに呼応するように体から溢れる赤いオーラ。


 周囲にプレッシャーを放ちピリピリと肌を刺激すると、ピシリとチツの黒い輪っかに亀裂が入る。それに驚愕した声を上げると。


 バリィィ!!


 輪っかが粉々に砕け散った。


「ぐっ!……まさか!?」


 フラフラになりながらも腕を伸ばして、握った右拳をチツに向けた。


「これからが本番だ!!チツ!!!」

「な、何が。本番だよ………」


 ギラギラと目に闘志を燃やしながら目を向けるクラ。その目に苛立ちを覚える。


 何が本番だ。これから、何がこれからだ。もうすでに全てが遅い。何もかもが終わる直前なんだ。自分の気持ちを真正面から否定するような瞳でこっちを見るな。


「ふ、ふざけるな!!いまさら破壊の本当の力を使って、何が本番だ!!最初っから使えよ!!ボクを、俺を舐めているのか!!クラ!!」


 虚仮にしていたのかとふるふると体を震わせながら足を上げて思いっきり踏みつけ、空間ごと地面を切り裂いた。


「舐めて何かはいねぇ、ただ。俺が馬鹿なだけだ。自分自身が許せなかった、何時までも餓鬼のように怖がっていただけだ。だけど、いまそれを克服しただけだ。………何でそんなに嘘を付いているんだ、チツ」

「う、嘘?ボクが?ハハハ!!何を言っているんだ!!馬鹿馬鹿しい!ボクが何時!?何処で!?嘘なんて最初から終わりまで全てが嘘だ!!こんな世界そのもの全てが嘘だ!!」

「お前─────本当はリバを殺してないだろ」

「─────っ!?な、何を出任せを!!」

「そんに驚いてるなら肯定してると同義だぞ」

「っ─────!黙れ、黙れよ。黙れぇぇぇぇ!!!」


 癇癪を上げるように叫び、両手を上に掲げた。すると大地が揺れ、徐々に全てを引きずり込もうと空間を吸収しよう黒い球体上の巨大な渦が出現した。


「これの中は歪な空間になってるから引きずり込まれたらどんな物でもすぐにバラバラだ!全部、ボクを誑かす全てを引きずり込んでやる!!」


 既にやけくそになってチツの持てる全ての力を球体上に込める。


「うぐぐ……引きずり込まれる」


 最上位神の全てを込めた力は、今のクラでは対処しきれないほどに膨れ上がっていた。どうにか堪えながらも球体に破壊の力を行使したが………現状が変わる様子はない。


「あの子ごと引きずり込むつもりか!!!」


 視界の端で岩にしがみついて堪えている三人のうち、チツが連れていた寝水に目を向けてからチツに叫ぶ。

 チツが、チラリと寝水に目を向け。一瞬、ほんの一瞬後悔したような目が、何でこんなことをしたのかという後悔が、クラには見えたような気がした。しかし、すぐにクラに目線を戻し。


「これも、全部し、仕方がないんだ。もうこうするしか。だって、だってボクは、ボクは」


 責められた子供の様な目をして俯き、ガバッと少しばかり涙目の顔を上げた。


「ボクは───────────────


 ──────────────────────────────


「─────は?」


 クラの視界には消え去った黒い球体と、身体から離れ宙に浮かぶ首だった。


「そこまでだ」

お読みいただきありがとうございました!

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