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第95話 継承

 和やかで緩やかな生活であった。


 雲一つない青空が広がる晴れの日もあれば、雷雲が空を黒く染め、豪雨と共に雷が地面に向けて走る。


 そんな自然現象に悩まされながらも、彼ら四人は非凡な人生を過ごしていた。


 何故彼ら四人はこの世界で過ごしているのか、それはさらに少しばかり時を遡る。


 〉〉〉


「あの方は我が生まれて幾年もの歳月を経てその証を我に授けた。もしかしたらそれがこの力を次の世代に託す間の時間なのかもしれない。なら、我がするのは一つだけ。この力を次世代に託すだけ」


 その日、神域に住む頂点の神は。自分に託された力は、また新たに託さねばならないものだと考えた。


 その考えはすぐに神域に全体に広がり、それを知った神々は、自分が自分がと最高神に対して自己主張する上位神が後を絶たなくなった。


 当たり前だ。頂点に君臨する彼の神の力の継承を行うということはすなわち、己自身が次の頂点になるということだからだ、


 何日も何年も戦いは行われた。


 有力な神達は派閥を作り。その派閥を統べる者が勝つように動く。そうすればその派閥の一員として自分にも恩恵があるからだ。


 例え中級神・下級神で自分には関係ない物だとしても、その派閥に入ればまだ小さくとも自分に何かしらある。そう言うことで、一人の上位神が派閥を作れば、対抗しようと他の上位神も派閥を作り。その後は最早神々の戦争だ。


 最初は如何にして自分が優れているか、頂点に立つべき器だと主張するだけで選挙活動的なものであったが、過激な上位神が行動に走れば、それに伴って物理的に動き始めた。………そして戦争。


 いくつもの世界が戦いの余波で破壊された。自分が自分がと勝つ者がいれば負けて口がない敗者と……。それとも負けそうになって自滅に走る者もいた。


 世界は荒れに荒れた。星々はただのエネルギー体と還りエネルギーが蔓延するないもない世界が幾つも出来た。


 それを見ていた頂点の神は、最早この中に継承すべき人材がいなくなったことに気が付いた。何年もの歳月を経て、神では無い者の中からでも継承できる可能性がある人材を少し育成して継承することも考えていたがそれすら不可能。それほどまでに生物が生きていくことが可能な世界が破壊尽くされてしまったからだ。


 管理するための存在が管理する者を破壊するとは本末転倒である。そんな者から選ぶことなんてありえないのだ。したがって、彼の神は自らが想像した世界で、継承すべき人材を育成することを考えた。


 だが、それは一人では駄目だった。


「我はあの人自ら見出していただいた人材。そのような人材が今後現れる可能性は皆無。そう考えるならば……」


 彼の神は自分に力を授けてくれた始祖の神が選ぶほどの人材が金輪際現れるとは全く思っていないからだ。


 だから思いついた。彼の神は一人では不完全な存在なら、複数の力を合わせて初めて自分と同じ領域に辿り着けるようにすればいいじゃないかと。


 そうすれば僅かな才能を持つ者でも育て次第では継承が何とかなるのではないかと思いついた。


 そうして、彼は行動した。世紀末のような状態の生き残っている世界の中で一番才能がある生物を探し出し、それらを想像した世界で育成するために行動し。見事に一致する人間を見つけた。


「捨てられし者か。神と現世との繋がりも薄いであろうから、好都合か……」


 本来合うことも無く、そのまま死んでいく運命であった三人は。彼の神の手により創られた世界で育てられることになった。


 〉〉〉


 そうして彼ら三人は家族として育てられた。他の世界との時間がずれている世界で、他の何者にも邪魔がされない非凡な生活を……来たる時まで。



 この小さな世界が彼らの世界だった。彼らの幸せだった。


 朝に起こされるか自分で起きて、朝ご飯。その後昼まで知識を学び昼ご飯を食べると、身体の鍛えが夜まで行われ、晩御飯を食べ風呂に入ってから少し経つと寝る。


 そんな生活が当たり前だと過ごしていると。


「初めてだな。我は最高神。全ての世界を管理する者だ。貴様達は力を継承するために今まで育てられ、そして、今日。我から力を継承してもらう」

「は?」

「え?」

「どういうこと?」


 突然目の前に現れ唐突にそう言った。

 白い布を一枚体に纏い、鋭い目つきで此方を観察するように下から上を見る白い髭を口周りに生やし男。


「主様……まだ約束の時間ではない筈ですが……」

「黙れ、我に指図をするな。人形が」

「─────っ」


 自らを最高神と名乗る男に驚愕した彼らの母親であるスーナは、顔色を悪くしたまますぐさま最高神の前で跪いて、首を垂れながら。疑問に思った事を口に出した。

 無感情で、ただ目の前の壁を見ているような目で目の前のスーナを見下したまま言葉を吐きかけた。


 ふん、と鼻で笑い、そのまま跪いているスーナの横を通り抜け、今だ状況に追い付けず固まっているクラ・リバ・チツの三人の前に立つ。


 二十前の年まで成長した三人の姿をジロジロ確認し、口を開く。


「………少し早いようだが。今のままでは神域まで役立たず共の影響が響く可能性があるので仕方がないか。─────貴様ら三人には今まで学んで貰った知識を使い、我に代わって神々の頂点の最高神─────ではないな。さしずめ最上位神と言ったところか。それになってもらう、当然拒否権はない。このために貴様らをこの人形に育てさせたのでな」

「にん……ぎょう?」

「何?─────っは、教えていなかったのか貴様」


 最高神が何故スーナの事を『人形』と呼んでいるのか理解できないクラ達の内チツが振り絞って零れるように声に出した。

 その言葉に反応した最高神はどういうことだ?と反応して、少し考えて三人の反応を見て、喋っていない事に気が付いた。


 何も知らない馬鹿共を隠す気もなく嘲笑うように息を吐き出し、後ろでピクピクと反応しているスーナに向けて振り返る。


「貴様は我がこやつらを育てる為だけに創り出した『人形』だと」

「─────っ!何で……そんな事を、い。言ったのです、か」


 最高神の言葉を聞くごとに何かが崩れる音を聞こえるような気がした。三人の大切な何かが少しづつ壊されている様な、そんな気が。


「黙れ」

「うっぐ!ゴホゴッホ!!」


 言っている意味が全くにもって理解できない最高神は、どうにも反抗的な人形に苛立ちを覚えて、思わず蹴りを腹に入れた。

 ほんの軽い蹴りだが、それだけで彼女は内臓を痛め、口から血を吐きながら蹲った。


「「「母さん!!!」」」


 スーナが殺される、そんな雰囲気に流石に固まっていられないクラ達は、急いで最高神を睨み付けながらスーナの横に走って向かった。


「どうやら、まあまあな程度で育ったようだが………。無駄に必要ない感情が育ったようだな」


 他の事を心配する、そんな人間感情は神の頂点に立つうえでいらないと考えていた最高神にとって、虫唾が走る行動に少しばかり苛立ちを覚える。


「情でも覚えたのか、人形の癖に。我は継承する為の人材として育てろと命令差た筈なのだが……このポンコツは。創造主の考えぐらい想像できないとは、な。まあ、いい。三人いればそれぞれが上手く働けばいくであろう。見た限りいらない物が沢山あるようだが、継承するうえでは問題ないだろう」


 おもむろに足を上げて軽く地面を踏みつける。すると、この世界を覆ていた結界は崩壊して、他の世界との時間のズレがなくなった。


「あとは眠るための場所か。それは神域で問題ないだろう」


 顎に手を当ててこれから事を考える。上を見上げながら考えている最高神の後ろ姿を睨みながらクラ達三人がスーナの容態の心配をしていた。


「母さん!大丈夫か!?」

「母さん……」

「待ってて!ボクがあいつを殴ってくる!」


 スーナの身体の状態を見て、居てもいられなくなったチツが立ち上がって最高神の元に行こうとするが、殴る為に握り絞めていた手にスーナの手が重ねられて、向かうのを止められた。


「駄目、あの方にはどうやっても適わないわ」

「でも!母さんがこんな目に遭って我慢なんて出来る訳がっ!」

「やめなさい!!」

「う……」


 反論するチツを一喝で黙らせる。力んだせいで再び口から血を吐き出しながらも最高神の様子を確認してからクラ達三人を自分の近くに座らせた。


「こうなったら……どうしようもない。クラ・リバ・チツ。貴方達を継承として育てていたのは本当のことよ」


 スーナの言葉を聞き。最高神の言葉が本当だということだと理解した途端に三人の顔色が悪くなる。

 何で、どうして。今までそんな事はこれっぽちも話してくれていなかったからだ。もしかしたらこの後自分たちは捨てられるのではないだろうかと、そんな事が頭にチラつくせいもあるが、それ以外にも原因はある。


「人形って……どういう、こと、なの」


 クラが嫌な想像をし、喉の渇きを感じながら震えた声を出した。クラの言葉を聞いてスーナは俯きながら自分の胸に手を当てる。


「私は─────造られた存在なの。最高神。神々の頂点に立つ存在の力の継承者を行うものを育てる、ただそれだけの為に生み出された人形(ホムンクルス)なの。私は貴方達三人をずっと騙していた。偽物の家族だったの……私達は」

「そ、そんな……」


 スーナの言葉を聞いたチツは膝から崩れ落ちた。頭が真っ白になる、今までの生活が無意味になった。じゃあ、ボク達が何のために頑張ってきたの?と。


「偽物?」


 クラの口から言葉が出る。


 同時に頭に過ぎるのは三人で誓った言葉。


『いつか、母さんをアッと驚かそう!』


 その誓いが。


「あれが」


 過ぎった。


「……偽物?」


 そんなの。


 そんなこと。


「そんなの、信じられるか!!!」

「……っ」


 立ち上がって喚き散らかすように叫んだ。


「あれが、あの生活が偽物の訳がねぇ!!……本物の家族じゃない?母さんが人形?そんな事関係ねぇ!!俺は、そんなんで。訳も分からねぇ男の言葉で崩れ落ちるものだと思わねぇよ!何子供みたいに泣き崩れているんだよ─────チツ。何で自我呆然になってぼーとしてるんだよリバ。最高神の継承者で育てられた?それだけだろ。継承なんかさっさと終わらせて、いつも通りに暮らせばいいだけだろうが!何してんだよ……本当に!!」

「「クラ……」」


 そうだね……、そうか、と呟きながら立ち上がるリバとチツ。


「クラにそんなこと言われたら、ぼーとしていられないや」

「母さんは母さん。それは変わらないよね」

「貴方達……」


 顔の涙を拭って立ち上がったリバとチツの姿を見て、思わず涙が出そうになりながらも三人を見上げた。


「じゃあ………まだ。あな─────クラ、リバ、チツの親でいてもいいの?

「「「当たり前」」」


 クラ達の返事に感極まったスーナは俯いて一滴の涙を地面に落とすと、慈愛に満ちた表情で顔を上げ。


「ありがとう、みんな」


 そう返事をした。


 〉〉〉


「継承者とやらを早くしろ」


 自分達の住まいである教会から離れた所まで移動した最高神の後を追い、立ち止まった最高神に向けて好戦的にクラが言う。


「ふん、生意気な餓鬼だが。そのぐらい威勢がなければ務まらんか。─────貴様ら三人には今から我の力を継承してもらう。力を継承した後、我はすぐに神域にあるに転移して寝床で眠りに付く。そうしたら後は我から受けた知識を元に神々の頂点として貴様ら三人が管理しろ。説明は以上だ。他は渡した知識を元に考えろ。そこに並んで立て」


 顔をクイッと少し前に向けてそこに立って並べと指示をする最高神に渋々従ってクラ達は最高神の前で並んだ。


「では、継承してもらうぞ。次の世代に、この力を。むん!」

「「「うっ!?」」」


 最高神の中から溢れ出た光が三人の中に流れ込んでいく。ありえない程の力が流れ込み、自分自身の存在を押しつぶしてしまいそうになる。

 呻き声を上げながら、三人は自らの意志をしっかりと保とうと踏ん張りながら力を受け入れた。


「では、後は任せるぞ」



 少ない言葉を残すと、最高神は転移していった。


 継承し終わった三人を残して、その場から。


お読みいただきありがとうございました!

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