手遅れ6
「レイッ」
振り向こうとした私は背中を押されてつんのめる。
振り返ると、ギルがオオカーミに左腕を咬まれながらも、ナイフをオオカーミの喉に突き刺していた。
「ギルッ」
オオカーミがズルリと地に伏す。
駆け寄りギルの腕を掴み治癒を始める、治癒は得意よ。
「我慢してね、こんなの直ぐ治るわ」「レイ」
ギルの声に顔を上げると苦しそうな表情で前を見てる、視線を追って驚愕、オオカーミ達が火を突っ切って此方に走って来る。
治癒を止めて火球を放ち、オオカーミ達の直前で爆発を起こす、直撃の二頭は爆散、他のオオカーミも吹き飛んだ儘動かない。
「レイッ、まだ来るよっ」 次々と火の壁をオオカーミが抜けて来る。
「理術は迄使えそうかい」
私は走り寄るオオカーミ達を爆散しながら答える。
「殺れるわ」
少し頭が重いけど殺れる。
「じゃあ、僕はレイが討ち漏らしたのを始末するよ」
ギルはそう言いながら傷口も覆う大きな氷柱を左腕に作る。 ふむ、私が漏らしたのを始末してくれるらしい……
「ギルッ、漏らしたのをお願いっ」
「任せてっ」
ギルは私が漏らしたものに氷柱を突き刺す。
「ギルッ、また漏らしちゃったっ」
「了解っ」
ギルは私が漏らしたものを受け入れてくれる。
「ギルッ、いっぱい漏らしちゃったっ」
「大丈夫っ、このくらい平気だよ」
ギルは私が漏らしたものを直に大量にその体で受け止めてくれる、クッ、理術の使い過ぎね、思考が少しだけ変だわ。「ギルッ。もう駄目っ、限界よっ」
「解った、レイは休んでて。多分此奴等で終わりだっ」
ギルはオオカーミの牙や爪を交わして、一匹々々ナイフや氷柱を突き刺して殺していく。
「ふぅ、終わったよ。レイは怪我しなかったかい」
自分の怪我より私の安否を確認するなんて、ギルッたら私の事を愛し過ぎね。
「私は平気よ。治癒の続きをするから氷柱をのけて」
「うん」
ギルはナイフの柄で氷柱を砕き左腕を此方に出す。
「最近の獣は火を怖がらないのかしら」
治癒をしながらギルに聞く。
「本当だよ、二手に別れていたら不味い事になってたね」
ふむ、私の正確な戦術判断に惚れ直しているのね、嫌だわ、愛され過ぎて怖い、ギルを失うのが怖いわ。「ギルッ」
不意に一回り大きいオオカーミが火を突っ切って来た。
押して爆発を起こそうとする、けど。
「速いっ」
既に振り上げられた前肢で切り裂かれるばかり。
「グゥッ」
衝撃と共に吹き飛ばされる、体が痛むけど無理矢理立ち上がる。
隣では両腕が折れ、ちぎれ、顔から胸まで切り裂かれたギルが、呻きながら立とうとしていた。「ギルッ」
ギルは立ち上がり両手を氷柱で覆うと、血だらけの顔を向け「レイは逃げろ」と言い、止める間もなくオオカーミに向け走り出す。
逃げない、逃げる訳がない、私を庇ってあんなになったギルを置いて、最愛の人を見捨てて逃げるなんてあり得ない。
怒りに任せて爆発を起こす、オオカーミの頭を吹き飛ばす筈が、少し仰け反らせるだけで終わる。
「逃げろっ」
ギルが走りながら怒った顔で私を一瞥する。
「いやっ」
ギルを追って走り出す、もう理術は使えない、ナイフしか無い、目を抉る、鼻を突き刺す、耳を切り落とす、なんとしてもギルと一緒に帰るのよ。「おおおおおおおおおぉ」
ギルが雄叫びをあげてオオカーミに突っ込む。
オオカーミの間合いに入る直前、ギルが火球をオオカーミの顔に飛ばすがオオカーミが左に飛び退く、瞬間、ギルは身体強化の理術を使ったみたい、オオカーミに素早く、真っ直ぐ飛び、着地する前に右手の氷柱を深々とオオカーミの脇腹に突き刺した、「ギャウッ」と鳴き、巧く着地出来ずに倒れ込むオオカーミ。