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手遅れ32

 私はギルの部屋の扉を静かに開ける、部屋ではギルとシンジが机に向かい、仲良さそうに並んで椅子に腰かけている、はて、お二人さん、何だか近すぎやしませんか、肩が触れ合っていますよ、何を楽しそうに話しているんですか、ええ解っていますとも、ギルとシンジは親友、私とチズの様にスキンシップくらいするわよね、「ギル、また少し筋肉付いたんじゃないか」「そうかな」「一寸触らせろよ」「うん、いいよ」「どれどれ、やっぱりついてるな、前に触った時より固くて大きく為ってるぞ」「そうかい、自分じゃ良く解らないよ」「ここも固いな、こっちも、良い筋肉だ」「……もう良いだろ、離れてよ」「何だよギル、顔が赤いぞ、もしかして感じたのか、筋肉を撫でられて」「ちっ、違うよっ、そんなわけないだろっ」「本当か、だったら何でコレがムッキムッキのムッケムッケに為っているんだよ」「馬鹿っ、そこはさわるなー」「何だよ、口では嫌がってる癖に、ちっとも止めようとしないじゃないか、本当はもっと触って欲しいんだろっ、ホレッ、これでどうだっ、どうなんだよっ、ギルッ、ホレホレッ」「シンジッ、駄目だよっ、そんなに激しくっ、そんなに早くしたらっ」「早くしたらどう駄目なんだよっ、ホレッ、ホレホレホレホレッ」「やっ、やめっ、あっ、あっ」

「けしからーんっ」

「わっ」

「うおっ」

 二人は驚いたらしく、身体をビクッとさせ、振り返り私を見る。

「あ、お邪魔します」

「お邪魔しますじゃないよっ、レイッ」

「そうだよっ、レイちゃんっ、何だよっ、けしからんって、ノックもせずに、勝手に部屋に入る方がけしからよっ」


 うむ、正論であるシンジ君は正しい事を言う。

「ごめんなさい。うっかり忘れちゃった、許して」

 私は素直に過ちを謝る。

「本当にうっかりなのかい」

「そうだね、けしからんって言われる迄、物音一つしなかった気がするよ、意図的に、静かに入って来たんじゃないかな」

何だか納得して無い様ね、不満そうねっ、何よっ、うっかりノックを忘れる事も、うっかり気配を消して静かに部屋に入る事もあるでしょうにっ、謝ったんだから許しなさいよっ、私を除け者にしてイチャイチャしているのが悪いのよっ、ギルは私の旦那様になるのよっ、ギルの性欲は私が全て受け入れて処理するのっ、シンジの性欲の捌け口になんかさせないんだからっ、ギルのお尻は使わせないわよっ。

「あれ、なんか怒ってる様な、えっ、何、僕達が悪いのっ」

「うん、何か僕、レイちゃんに思いっきり睨まれてるよ、僕達何か悪い事したのかな」

「まぁ、レイだから仕方ないよ」

「そうだね、レイちゃんじゃ、仕方ないね」

 何よっ、私を残念な人みたいに言ってっ、私を駄目な人間を見る様な目で見ないでっ、ギルが冷たいっ、怪しい、怪しいわっ、シンジと一緒にいる時のギルに距離を感じるわっ、大丈夫よね、只の友達よね、おホモ達じゃないわよねっ、お尻は開拓済みって事無いわよねっ、シンジの鍬でほじくりまわされ、ドピュッと種を蒔かれて無いわよねっ。

「……理術の名前を考えるのは終わったのかしら」

「いや、今考えていた所だよ」

「ほら、これが名前の候補だよ」

 シンジが紙を渡してくる、どれどれ、善の神アフラーよ、その真性に真正である神聖な力を持って神敵を滅する神炎を現し賜えっ、神現アフラー聖炎撃滅球(火球)、ふむふむ、馬鹿かっ、死ぬわっ、戦闘中にこんな長々詠唱してたら死ぬわっ、しかも使うの火球って、どんだけ名前負けしてるのよっ、神現アフラー聖炎撃滅球って、長いわっ、名前も長いわっ。

「シンジ」

 私は似たような詠唱と名前がビッシリが書かれた紙を破り捨てる。

「何をするんだっ、レイちゃんっ」

「レイッ、酷いよっ」

 何をするんだじゃないわよ、酷いのは貴方達の頭よ。

「五月蝿い、聞いて、先ず詠唱要らないから、詠唱せずに理術使えるのに詠唱する意味無いから」

「格好良いだろうっ、格好良いじゃないかっ、詠唱っ、物語の登場人物みたいじゃないかっ、格好良いじゃないかっ」

「そうだね、夢が広がるね、浪漫だね、僕達がジン流理術の、詠唱の様式美を作って行くんだよ、後世に綿々と残り、伝わって行くんだよ」

 五月蝿いわね、知らないわよ、唾を飛ばすなシンジっ、ギルは飛ばして良いのよ、飲んであげる、ピュピュッて飛んだの顔で受けて飲んであげる、直接口で受けて飲んであげるっ、ほら出して、いっぱい出してっ、おっと、いけないいけない、今はこの馬鹿と愛しのギルを説得しなければ。

「いや、ギル君、今日のオオカーミとの戦いを思い出して下さい、こんな詠唱が出来そうな時間ありましたか、こんな長い詠唱してこんな長い名前叫ぶ余裕なんて無かったでしょう」

「それは、そうかも知れないけど」

「知れています、詠唱はする必要が無いし、名前は出来る限り短くするべきでしょう、ギル君、貴方が名前を付けようと思ったのは仲間との連携を良くしようと思ったからじゃ無いのですか」

「いや、レイが爆発で僕に大きな枝をぶつ」

「そうでしょうっ、連携には簡潔にどんな理術を使うか仲間に知らせる事が重要なのですよっ、ギル君っ」

「……そうですね」

 ギルがどこか呆れた様な、諦めた様な目で私を見ているが気にしないでおく。

「えぇっ、じゃあ、詠唱無しになるのかっ」

 シンジはどうしても詠唱したいらしい、ま、実戦未経験じゃ仕方ないのかしら。

「どうしても詠唱したいなら戦闘以外でやれば、実戦を経験したら、無意味な詠唱なんかに拘らないと思うんだけど」

 ギルを見る、ギルは実戦を経験して死にかけているんだもの、こんな無意味な詠唱をしようだなんて本当は考えて無いわよね、シンジに合わせてあげただけよね、ギルは優しいもの、私は微笑む、自分が死にかけた経験をしているのに友人の趣味に合わせてあげる優しいギルを、未来の妻として誇りに思い、微笑む。

「そうだよっ、シンジッ、実戦じゃ難しいけど、訓練でやれば良いじゃないかっ」

 あれっ、ギル、詠唱したいのっ、する必要が無い詠唱したいのっ、自分が格好良いと思う言葉を考えて自分が格好良いと思うポーズなんかも決めて長々格好つけて詠唱してから理術を使いたいのっ、詠唱する必要が無いのに詠唱したいのっ、あれっ、ギルッ、あれっ、ギルもアホな子なのっ、シンジと同じアホな子なのっ。

「そっかっ、訓練で詠唱すれば良いのかっ、じゃあ実戦の時は詠唱破棄って設定だなっ」

 おいそこのアホの子、詠唱破棄って、だから元々詠唱する必要が無いでしょうがっ、設定って何よっ、ごっこ遊びかっ、伝説の勇者や賢者に成りきりプレイですかっ、後賢者私だから神賢者レイちゃんだからっ、シンジッ、お前一人でオオカーミの群れに囲まれて来いよっ、お遊び気分の奴と一緒に実戦とかしたくないわっ、良い迷惑よっ、あぁ、そう考えると実戦経験があるのに詠唱したがるギルの方がもっとアホな子になるわっ、嘘っ、嘘よっ、ギルは私が思いもよらない何か深遠な思想的見地から詠唱を望んでいるのよっ、そうよっ、きっとそうだわっ。

「じゃあシンジッ、また格好良い詠唱を考えようよっ、僕は鮮烈な死の運び手とか入れたな」

「良いじゃないかっ、良いじゃないかっ、続きを考えようっ」

 ギルの浅慮な、いえ、深慮な哲学を私理解出来ない、何だか疲れたわ、索敵様のお名前は後でゆっくり考える事にしよう、今日はもう寝ましょう、盛り上がる二人に一応お休み言う、聞こえていない、良いの、とても楽しそうなんだもの、邪魔しちゃ悪いわ、私は来た時と同じく気配を消して静かに部屋を出て扉を閉める、さぁ、部屋に戻って寝ましょう、私は自分の部屋に入り寝台に横になる、そうね、私もギルに幻想を見ていたのね、理想を押し付けていたのね、私は独り善がりで独りよがって気持ちよがっていたのね、ギルごめんなさい、私もギルを本当は見ていなかったみたい、明日からは本当のギルを見るわ、それで私の愛が変わる事もあるでしょう、でも理想と言う妄想のギルを見続けるより良いわよね、妄想を死ぬまで見続けるより、長年妄想を見続けてある日限界を迎え破綻するより、現実のギルを見て現実の私を見てもらう、それで上手くいかなくなっても良いわよね、いやっ、良くないわっ、良くない良くないっ、ギルは私の旦那様になるのよっ、これは決まった事なの、決まりきった事なのよっ 、ギルが私の理想と違う、ならギルを理想に合わせれば良いだけの事じゃないっ、そうよっ、そうだわっ、そうだったっ、何も問題無いっ、ギルを変えれば、ギルに変わってもらえば問題無いっ、いや勿論私もギルに相応しい嫁になる努力を怠らないわよっ、良し決まりっ、ギルを私の理想に合わせて育てる、私もギル相応しい嫁になる努力をする、うん、寝よ。

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