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手遅れ23

「レイ。僕に言うことがあるんじゃないか」

 ギルが私を睨んでいる、嘘、優しいギルが、婚約者のギルが私を睨んでいる、初めてみる、嫌悪する様な、蔑む様な、否定の、怒りの目。

「あ、あ、違うの、ギル、違うの」

「何が違うんだよ、お前が理術でパンツ盗ったんだろ」

 違うの、そんなに怒るなんて思わなかったのっ、そんなに嫌がるなんて思わなかったのっ。

「今持ってんのかよ、返せよ」

「ごめんなさいっ、ギルッ、ごめんなさいっ」

「いいから返せよっ」

 ギルが怒鳴る、私は震える手で胸元からパンツを取り出す。

「何でそんなとこに入れてんだよっ。気持ちわりぃ」

 ギルがパンツをひったくりポケットに入れる。

「ギルッ、ごめんなさいっ、そんなに怒るなんて思わなかったのっ」

「は。普通怒るだろ、パンツ盗られて怒らないって何処の変態だよ、強制ノーパンに怒らないって何処の変態だよ」

「違うのよっ」

「だから何が違うんだよ、さっき鼻血出したのもアレだろ、覗いて鼻血出したんだろ、全部聞いたよ、お前変態だったんだな、気持ちわりぃ、パンツ盗って何するつもりだったんだよ、気持ちわりぃ」

 嘘っ、こんなの嘘よっ、さっき命懸けで私を守ってくれたギルがっ、私に欲情したギルが私を変態扱いするなんて。

「ごめんなさいっ、新しい理術を覚えて舞い上がっていたのっ、悪気は無かったのよっ、ギルッ」

 ギルに縋り付こうと手を伸ばす。

「触んなっ」

 ギルが手を強く払う、痛い。

「痛い」

「……知らねぇよっ、何なんだよ」

「ギル、ごめんなさい、謝るから話を聞いてっ」

「変態と話す事なんかねぇよっ」

 ギルが居間から出て行く。

「……なんと言うか。レイ。色々と手遅れですね」

 ジンが私見ている、可哀想な人を見る様な、疲れ果てた様な目。

「どうなるか心配で一緒に来ましたが、何なんですか、レイ、本当に何なんですか」

 何を言っているのかしら、ジンは。

「レイ。反省して下さい。ギルをあんなに怒らせる様な事をレイはしたんですよ、解ってますか」

 解っているわっ、ギルがあんな目で私を睨むなんてっ、初めてよっ、ギルッ、あんな野性的な、攻撃的な目で私を見るなんてっ、興奮するじゃないのっ、何なのっ、この胸の高鳴りっ、顔が紅潮して息が荒くなるっ、何なのっ、何なのっ、何か変だわっ、嫌われたのにっ、気持ち悪いって言われたのにっ、何なのっ、この気持ちっ。

「いや。反省して下さいよ、レイ、反省して下さい、本当に変態ですか、その息づかいに赤い顔、どうにかして下さい」

 五月蝿いわねっ、この気持ちっ、この新しい扉が開かれた様なこの気持ちっ、この新鮮な気持ちに浸らせなさいよっ。

「レイ。自分は言いましたよね、理術を初めて教える前に」

 何なのかしらっ、この気持ちっ、ギルに嫌われた、気持ち悪がられたのよね、私、ギルに睨まれ、変態と蔑まれ、手を払われる、なのに何故嬉しいの、悦んでるいるの……、ふむ、そっか、そうなのね、これは私が原因でギルの感情に変化を起こせたのが嬉しいのね。

「理術は力、能力や金銭、権力等と同じ、それ自体に価値はあるが重要なのは使い方だと言いましたよね」

 私がギルの精神に、心に突き刺さり、ギルがビクンビクン反応しているのが嬉しいのねっ、本当は愛し合う事でビクンビクンしたいけど、これもありねっ、ギルの記憶に経験に鮮烈に私が刻まれる喜びっ、本当は愛し合う記憶、経験を刻みたいけど今は無理っ、自業自得ね、本当に舞い上がって後先考えなかった、慎重に、焦らないつもりだったのにっ。

「善の精神がなければ畜生と同じ、利己的に他者、環境を食い散らかすだけ、弱肉強食なんて畜生の論理、感情です、人間は環境も規範も自分達で管理、決める事が出来る、畜生の様に受動的に環境に適応するだけじゃない、能動的に環境やルールを決める事が出来る、善の精神を基に環境を、規範を決める事が出来る、レイは皆と一緒に、自分の手伝いをすると約束してくれましたよね」

 ま、過ぎた事は仕方がないわね、これからどう挽回するかが問題ね、変態返上出来るかしら、いやっ、待ちなさい私っ、もう良いんじゃないかしら、もう変態だとばれてしまった、もう変態の儘愛してもらえば良いんじゃないかしら、そうよっ、ありのままの私でギルに愛してもらえば良いじゃないっ。

「約束に反してますよね、覗き、窃盗は悪ですよね、レイ、約束を破るつもりですか」

 なんかジンも怒ってるわね、どうしたのかしら、ま、良いわ。

「ジン、私が間違っていたっ、これまでのやり方は改めるわっ」

 私は決意を新たにジンをみる。

「……そうですか、解りました、でも、ギルとの仲直りは手伝いませんよ、これは罰、自力で仲直りして下さい」

 ジンが微笑む。

「当然っ、私はギルの婚約者っ、未来の嫁よっ、夫婦は山あり谷ありっ、色々経験して絆を深めて行くものよっ」

「ははっ。そうですか、頑張って下さい」

 私は頷き、ギルを追って走り出す。

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