手遅れ1
少女レイと幼なじみギルの物語。
オキ爺と三人で暮らしていたある日、自称神の下僕ジン、エルフのコヴァル、少女チズと少年シンジ、猫のクロが訪れ共に暮らす事になる。
ジンの教えを受け、理術や生きていく術を学んでいく、その過程で深まる絆(病的)ギルや仲間を守る戦い(残虐)そしてジンが望む世界を実現する為に行動していく。
ジン達と暮らし始めた数年後の森から始まります。
「ねぇ、ギル」
鬱蒼とした森の中、孤児院に帰る道すがら、マツターケの入った篭を持ったまま、腰まで伸ばした黒髪を、振り回す様に振り返り、緑の、今は暗くて判りにくい、ギルの目を見て私は言う。
「何」
ギルは足を止め、黒い私の目を見て答える。
「沢山マツターケが採れて良かったわね」
程好く切られたギルの金髪が、今は濡れた木の皮みたいに見える、日の下なら、たわわに実った稲穂の様、そう、ギルは稲穂、私の糧。
幼い頃に婚約し、折に触れては接吻で、愛情の確認をした間柄。 でも、いつ頃からか、ギルが接吻を恥ずかしがってしなくなったのよね、嫌われた訳では無いから少し寂しく思ったくらい。
其に私は知っているのよ、接吻には大人の接吻がある事をっ、次にギルとする接吻は、大人の其に違いない、間違い無いっ。
私はギルを受け入れるわ、何時でも、何処でもっ、でもでもっ、二人の、愛の、大人の時間を邪魔されたくは無い訳よ。
そうなると事前に時間、場所、ギル都合も考えて逢い引きの計画を完璧にたてる必要があるわね。
其に其にっ、初めての、大人の経験をするなら此方から誘うのは避けなきゃ駄目よね、いやらしい女だと幻滅されて、避けられる様になるかも知れないわ。 其は無駄、ギルに避けられる様になったら時間の無駄だわ、常に相思相愛、其が私達なのだからっ、避けられるなんてあり得ない、あってはならないわ。
そうなるとよ、絶好の時間に絶好の場所に絶好のギルを誘い出し、良いですよ全て受け入れますよ早くしてくださいって雰囲気を醸し出し、数回上目遣いでちらりとする。
ギルは堪らなくなって私を求める。
大人の仲間入り。
この流れね、ギルからの求めで初めてを捧げる。
もう一生一緒。
子供は最低二人、女の子と男の子、三人目からは体力と金銭に相談ね、何人生めるかしら、私が体を壊したり、ギルとの子を飢えさせるなんて事は避けないとね。 子供達には私達と同じ様に、愛する人と家庭を持って幸せになって欲しいわ。「レイッ、レイッ」
いつの間にかギルの顔が目の前にっ。
今っ、今なのねっ、唐突に大人への扉は開かれるのねっ。
私は目を閉じ、少し顎を上げて、ほんの少し唇を開ける。
さようなら、子供の私。
「いやいやっ、どうしたんだいレイッ。急に黙って、目を閉じて、具合でも悪いのかいっ」
ふむ、どうやら今ではないらしい、大人の女になるのは。
「一寸考え事をしていたみたい、ごめんなさい」
ギルは整った、私と同じ色白の顔で言う。
「そうかい。じゃあ、帰ろうか」
私達は暗い森を歩き出す。
「オキ爺喜ぶわね」
「そうだね、マツターケが大好物だからね」
私はオキ爺が、焼いたマツターケを美味しそうに食べる姿を思い浮かべる、とっても幸せそうな顔で、「うまいのう、うまいのう」なんて言いながら食べるの、私も幸せな気分になっちゃう、早く帰らなきゃ。
ギルもオキ爺の事を考えているのかしら、なにやら微笑みながら歩いている。
いやっ、待ちなさい私、もしかしてギルったら私と二人きりでいる今この状況を嬉しく思い、幸せを感じて、思わず微笑んでしまっているのではっ。 嫌だわ、其ならそうと言ってくれれば良いのに慎ましいんだから、私も幸せよ、一緒に過ごせて嬉しいわ。
其に、此処なら人目も無いし、手を繋ぐくらいならはしたないなんて思わないわよね。
徐にしっかりとギルの手を取る。
「レッレイ、どうしたの」
ギルは顔を赤くして私に問う、手を解こうとはしない、手を解こうとはしない。
「昔は何時も、こうして出掛けていたわよね」
本当は知ってるの、ギルが接吻をしなくなったり、こうして手を繋がなくなったのは、私を女として意識し始めたからなのよね。 そのギルがよ、手を繋いだままでいると言うことはっ、女としての私を受け入るって事ねっ、私は女として求められているって事ねっ。
「そうだったね」
ギルは同意しながら軽く私の手を握る、まだ顔は赤い。
でもやっとね、私は疾うにギルの全てを受け入れる準備万端、なのにギルったら今頃なのね。 良いわ、そんな奥ゆかしい所も好き、きっと色々考えていたのよね、私達の現状や将来とか。
ギルを尊重し、待ち続けて来たけど長かったわ、ギルが一人で考えたいならそうすれば良いわ。
でも、私は婚約者なんだから、相談してくれても良かったのに。
まぁ、これからも、今と変わらず共に過ごしながら色々な事を経験して、お互いの理解や信頼を深めながら愛を育んでいく、その合間に大人の時間が増えるだけの事ね。 初めて同士だから少し不安だけど、焦らずじっくり試して行けば問題無いわ、初めては痛いと言うけど、どのくらいの痛みなのかしら。
ギルの為ならどんなことも耐えて見せるわ、焦っては駄目よ私、やっとギルが女の私を求め始めたのだから、慎重に事を進めなければ。
二人きりなら手を繋ぐ事をよしとしている現状、此さえ未だ照れているのだから、徐々に慣れさせなければならないわ。
停滞も後退もさせないわっ、前進よっ、漸進でも急進でも邁進あるのみっ。
いやいや、落ち着きなさい私、細心に、徹底に、十全にギルの心を掴むのよっ。「僕汗っかきだから気持ち悪いだろ」
なんて言いながら手を解くギル、何を言っているのかしら、確かに手汗が出ていたけど、気持ち悪いなんて感じる訳無いわ。
寧ろギルの汗が私に染み込んでいる、ギルが私に入って来て一つになってると思うと幸せに感じるわ。「気持ち悪くなんか無いわ。私あまり汗をかかないからちょうどいいわね」
今度は解かれないように、指を絡めて手を繋ぐ。
「何がちょうどいいのか解らないけど」
納得してない様で困った表情だけど、手を解こうとはしない。
そうよ、私はギルを受け入れる、常に全肯定な女だと知るのよ、もっと求めてくれていいのよ。 でも、ギルが私を女として求め始めたのを知ってしまったからには、怖がらずに私からも積極的になって良いのかしらね、こんな感じに。
手を繋いだままギルに張り付く様に歩き、不自然に思われない間隔で胸をギルの腕に押し付ける。
成長途中とはいえ多少は膨らみがある私の胸の感触に、ギルは我慢出来なくなり獣の様に私を求めるのだった………… おかしいわね、ほらっ、ギルッ、今っ、今胸が当たりましたよっ、ほらっ、また当たりましたよっ、今なんか胸が押し付けられていますよっ。
何故かしら、この涙は嬉し涙の筈なのに、漸くギルに求められた嬉し涙の筈なのに、求められていない、存在していない、胸がないと言われている気がしてならないわ、泣けてくるわ。
「レイッ、泣いているのかいっ」
ギルが心配してくれている、嬉しい様な、憎い様な、殺したい様な気がするわ。「目に埃が入っただけよ」
「ほら、目を洗いなよ」
ギルは理術で、両目の前に水球を出してくれる。
「有難う」
私は目を水球に浸し瞬きする。
「助かったわ、もう大丈夫よ」