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風と共に、6

 ローズの暮らす家は、村にある他の家と同じで、ワイズリー家の馬小屋と似たような大きさだった。


 扉を開けるとすぐに円いテーブルがあり、暖炉と台所が見える。

 その部屋には扉が3つ。他の部屋に繋がっている。恐らく、主寝室1つと、子供部屋が2つなのだろう。扉が開いていないものが1つ、後の2つは扉が細く開いていて、中からこちらの様子を伺う子供の顔がある。男の子が二人と、女の子が三人だ。可愛らしい。


「では、ソフィア、特に怪我はないのだな?」


 母にやっつけられてしまって元気のないウォーレンが尋ねる。

 母によって『変な仮面』と面と向かって言われた仮面は外している。


「はい。崖の道で火矢を掛けられ、馬にしがみついて逃げ出し、森で迷っていたところを先程の女性に助けられたのです。エカテリア帝国オスカ領主ゴールトン辺境伯ご婚約者のリサ様です」

「へえ、あの娘がねえ。あのへんてこな武器はエカテリア帝国の武器なんだねえ」


 母は、何というか、王族に気兼ねして発言を控えるとか、そういう気遣いとは無縁の人だった。


「素晴らしい強さだった。殿下、エカテリア帝国とは今後も友好な関係を願います」


 祖父が惜しみない賛辞を送る。

 祖父が負けるところなど初めて見た。他国の戦士に対して掛け値なしに素晴らしいと言える祖父は確かに貴族らしくはない。


「無論だ。ソフィアの恩人は国の恩人。無礼な真似はしない」

「なら結構」

「まさか全員が全員、あの強さではないだろうけど、あの娘は相当な手練れだね。うちの村の連中に手解きしてくれないもんかね」

「隣接しているとは言え、他国の者にそれはないだろう」

「あれ、使ってみたいなあ。ブゥン、ブゥンって、かっこ良かったなあ!」

「確かにあの武器は魅力的だな。また手合わせ願いたいものだ」


 祖父と母は共に武の人だった。

 同じく武の人かと思われたウォーレンは二人の会話をややひきつった顔で眺めている。


「殿下、殿下が自らこちらへ来られたのは」

「ああ。クリスもジャックも忙しそうにしていたからな。他の者では話が歪んで伝わってしまうかもしれないし、俺が直接来た」


 つまり、侍従と副将に仕事を押し付けて出てきた、ということか。


 これは戻ったら絶対にクリスに怒られる。

 王家を除けば国内に比肩する者なしと言われる最高位貴族がいなくなったのだ。混乱の最中、第二王子が不在にするなど。


 帰ったらジーナに味方になってもらおう。クリスと一人で戦える人物などジーナ以外いない。


「ミランダのことは王妃陛下が随分前から気にされていて、独自に調べておられた。だが公爵家の娘だけに、そう簡単に尋問も出来なかった。

今回のソフィアの危険を省みない行動のおかげでミランダの考えが分かった」


 ローズの今の夫であるエドモンドが果実酒を注いで回った。ローズが口をつけたのを見てから、ウォーレンも口を湿らせる程度に含む。


「ミランダが王太子の婚約者候補であったことは知っているな?」

「噂だけは。公爵様に他のお子様がおられなかったために成らなかったと」

「そうだ。俺の婚約者候補に上がったこともあったが、同じ理由で話は流れた。そのせいでミランダは自分は公爵家に縛られていると感じたらしい。公爵家が潰えれば、責務から解放される。そのために父親に毒を盛り、体を弱らせていたことが分かった」


 ソフィアが予想もしなかった事態だったようだ。


「公爵様は被害者?」

「ああ。王妃陛下が気付かれたのは、ヘイリーの体調不良からだったらしい。そこから娘のミランダを疑いだしたそうだ。5年ほど前から公爵家の侍女の中にご自身の腹心を入れて探らせていたらしい。男手も欲しいと言われたので、俺もジョシュアを送り込んだが、ジョシュアの方はかなり警戒されて確信に迫るような話は仕入れられなかった」


 1度会っただけのジョシュアは、線が細く、優男のような雰囲気だと思ったが、敵陣に飛び込んで動き回るような大胆なことが出来る人だったようだ。

 人は見掛けによらないものだ、とソフィアは思う。


「ミランダが欲していたのは、国王の側妃の座だ」

「側妃?」

「そう。側妃の責務は軽いが、贅と自由がある、と考えたらしい」


 ミランダは、誰よりも女性貴族として相応しい知性と品位を備えていると思っていた。印象の全てを覆されて目眩がする。


「ヘイリー公爵家や貴族の責務を果たすことなく贅沢と自由が欲しい。側妃ならそれが可能だ、と」


 ウォーレンは苦々しい表情で頭を振る。

 贅沢を許されるのは、相応の責務があるからだ。それが分からないミランダではあるまい。何がそこまで彼女を追い詰めたのだろう。公爵家の責務が、ソフィアの考えも及ばない、重過ぎるものだったのか。

 贅沢を手放せば、今のローズのように自由が手に入る。その選択肢がミランダになかったことが悔やまれる。


「ならば何故ソフィアが狙われたのだ。側妃狙いであれば、ソフィアに取り入って殿下の側妃という手もあっただろう」


 そこはややこしくなるのですが、とウォーレンは祖父に断ってからソフィアを見た。


「ソフィアの命を狙ったのは直接的にはプリシアだ。オーネリーを俺の婚約者に出来なかったのが悔しかったのだろうな。

最初は俺からソフィアを引き離す作戦、次に俺の生死不明でワイズリー家に呼び戻す作戦をやらかして、実の娘に見破られ、侯爵から離縁され子爵家に戻った。

追い討ちのように継子には借金をバラされ、子爵家で軟禁状態。

そこからは逆恨みだ。ソフィアさえいなければ、と今回の火矢に繋がった。

ちなみに俺の命を脅かしたのも火矢を掛けたのも同一人物だ」

「その人物を雇ったのはプリシア様なのですか?」

「ああ、プリシアの息がかかった男だ」


 どうやらソフィアはプリシアとミランダの二人から狙われていたようだ。

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