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ご令嬢たち9

 リサに乗馬を教わった。

 さすがに一日で乗れるとは思っていなかったが、まさか股がることすら出来ないとは思わなかった。

 横乗りで、馬の首にしがみつくので精一杯だった。


「これがお姫様なんですね」

「リサ様、どういう意味ですか」


 さすがにムッとして、ソフィアが咎めると、リサがエヘヘ、と笑った。


「リサ様は何というか、ちぐはぐです」

「チグハグ?」

「ええと、見た目はとてもお姫様なんですけど、言動は庶民的なんです」


 それから、少しだけスカーレットに似ている。


「どうしても昔の癖が残っていて。ちゃんとした動作とか言葉遣いとか、覚えて旦那様のお役に立ちたいのですが」

「それで、ダンスなのですね」

「はい」


 リサほど体が動けばダンスもすぐに踊れるようになるだろう。


 2つ鐘が鳴り、リサは辺境伯の息子と一緒に勉強するのだと部屋へ戻っていった。

 ソフィアも貸してもらった部屋で、静かに疲れた体を休めた。


 控えめなノックの音で、ソフィアははっと目を覚ました。どうやら眠っていたらしい。


「ソフィア姫?」


 リサの声だ。


「どうぞ」

「失礼します。お勉強が少し早く終わったんです。ダンスのステップを教えていただけますか?」

「はい。もちろん」


 ソフィアは立ち上がる。

 膝がぐらぐらする。乗馬もそうだが、リサから教わった体操というのがまたきつかった。これは相当体が鍛えられるのではないだろうか。兵士になれたりするだろうか。


「基本的なワルツでいいですか?」

「はい」

「まず、肩の力を抜いて、右手をこう」


 基本的な組み方をさせてから、リサの右手を預けるのはレヴィの左手だが大丈夫だろうか、と少し心配になった。

 正装になればお互い手袋をするから大丈夫なのだろうか。


「背筋を伸ばして、前を見て」

「はい」

「右足を一歩引いて、」


 ゆっくりとステップを踏んで、リサは慎重に女性パートを踊る。


 とても上手だ。

 このリサが乱されるのだとしたら、辺境伯は手強いかもしれない。


「あとはこの繰り返しです。基本的には、女性は男性についていきます。男性の腕の角度や力の入り方で、次の動きを予測して飛び出さないように」


 リサの手を取って、男性パートを踊りながら、ソフィアはリサに知っていることを伝える。視線の置き方、綺麗に見える体の倒し方。


 開け放していた部屋の扉をノックされて、足を止めた。


 辺境伯がいた。後ろにはキアランもいる。


「見違えたよ、リサ。ソフィア姫の教えが良かったのかな」

「リサ様は飲み込みが早いので」


 キアランの世辞をかわして、ソフィアは辺境伯に手を差し出す。


「少しリサ様と踊りませんか?」


 目を逸らされた。


「そうおっしゃらずに。ダンスは慣れが必要ですわ」

「旦那様」


 リサが辺境伯の手を引いて、部屋の中央に引きずり込む。


「伯、もう少し肘を上げて、そうです。リサ様は半歩こちらに体をずらして」


 組んだ感じはとても良い。


「リサ様はどんなに動いても必ずその位置を保ってください」

「はい」

「伯は顎を引くことと、胸の高さを常に意識してください。ではゆっくり、1、2、3」


 一瞬で崩れた。


 原因は辺境伯だ。ソフィアがリサの代わりに組んでも良いが、ウォーレン以外と踊るのはウォーレンが嫌がったので、どうするか。

 問題は辺境伯の動きが非常にぎこちなく、遠慮がちなせいだ。女性に対する苦手意識が前面に出ている。

 ただ、これまでの二人を見ていても、辺境伯がリサを嫌っている様子はないし、どちらかと言えばかなり好意を寄せていると思う。

 一方で、リサの辺境伯への信頼は高いし、それを隠そうともしていない。

 本来なら辺境伯の動きを矯正すべきだが、残念なことにソフィアには男性パートの指導の仕方が良く分からない。


 ここは変則だが、リサを変えることにする。リサの負担が重くなるが、体力も筋力もあるリサなら何とかするだろう。


「少し組み方を変えましょう。基本の組み方をお願いします」


 ソフィアは二人の動きを止めて、組み直させた。


「リサ様、ここからはお相手が伯の場合だけの動きになりますから、別の方と踊る時はしてはいけませんよ」

「はい」

「では、背中を大きく反らして、顎は引いたまま、自分の右手を見てください。伯、右手でリサの背中を支えてください。背筋は伸ばしたままです」


 二人の上半身が大きく離れた。リサの背中の筋肉と、辺境伯の左腕の筋肉に大きな負担がかかる。普通ならこんな組み方はしない。


「リサ様、ゆっくり右足を大きく引いて、伯は左足をリサに合わせて踏み込んでください」


 リサが大きく仰け反る形になるが、辺境伯が右手でリサの背中を支え、左手で体を引き上げているため、リサが倒れることはなかった。さすが辺境伯は体を鍛えている。背筋が揺るがない。ウォーレンのようだ。辺境伯の方が細身だが。


「それが最初の一歩の幅です。リサ様、その大きさを忘れないで。伯は遅れるとリサ様がひっくり返ってしまうので、気をつけてください」

「はい」

「では、基本の組み方をもう一度。組んだら最初の3拍でリサは背中を反らして、次からステップに入ってください。では、1、2、3、1、2、3」


 リサの一歩が大きいため、支える辺境伯の動きも大きくなる。だが、二人とも振り回されている感じはない。やはり脚力があるからか、華やかに見える。

 体操をしっかりすれば、ソフィアとウォーレンのダンスも見映えがするだろうか。


 ウォーレンに会いたい。


「そこまで」


 一区切りついたところで止める。

 キアランが拍手を送る。


「素晴らしいな。レヴィ、お前、ちゃんと踊れてるじゃないか。10年目にしてやっと相手を見つけたな」


 キアランを見た辺境伯は肩をすくめた後、ソフィアに向き直り、胸に手を当てて深く礼をした。


「いえ、私はきっかけを作っただけです。お二人ともそのままでもとてもお上手でしたわ」


 ソフィアが言うと、リサが嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「旦那様、毎日練習しましょう! 私、ダンス好きです」


 リサが好きなのはダンスではなく辺境伯だろうが、それも上達の早道だと思ったので、ソフィアは微笑むだけに留めた。


「失礼いたします。旦那様、ソフィア姫あてにお客様がいらっしゃいました。小さなご令嬢と、大柄な……女性です」


 何か言いたげな表情の男性使用人に、ソフィアは首を傾げた。

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