私の為の、狂った世界
※ヒロインが壊れかけてます。
※前作でヒロインをギャグキャラだと思っていた人、ショックを受ける可能性があります。
この世界は狂っている。
前世で嵌っていた乙女ゲームのヒロインに転生した。
チヤホヤされてみたかったから、逆ハールートを選択した。
成功した。
だけど誰も選べない、そういって終わる筈だったエンドは、攻略キャラ6人による共有という訳がわからない方向へ行ってしまった。週単位で、日替わりでメンバーの恋人になるという、とんでもない展開へと。
おかしい。どう考えてもおかしい。
その展開がまず倫理的におかしい。その状況を受け入れる連中もおかしい。
だけどその結末を正さない世界が、一番おかしい。
前世で嵌っていた、乙女ゲーム転生のネット小説。逆ハー狙いのヒロインはフルボッコで、目論見をくじかれる。
ゲームの趣旨とは違うが、それが自然な流れでしょう?
それが、本来なら普通でしょう?
人の気持ちを弄んだ女には、相応しい末路でしょう?
この世界が、ゲームではなく現実だというならば。
月曜日。
「今日は俺の日やな」
エセ関西弁を駆使する、チャラ男が嬉しそうに私の手を握る。
家庭環境の不遇によるから色んな女性に手を出していた、遊び人キャラ。
心の闇に気づいて寄り添ってくれたヒロインに魅かれる。
「…ねぇ、前にも言ったけどさ」
「ん?どうしたん?」
「私はゲームのヒロインの台詞をなぞっただけで、本当にあんたのことを思いやっているわけでないの。多分あんたが見境なく腰振っていた相手の方が、よっぽどあんたのこと思いやってくれる娘いるとおもうよ」
鬱陶しがられるのが嫌で言えなかっただけで、本当に彼を思いやっていた女の子はきっといるはず。ただ外見だけに魅かれてやすやすと抱かれるほど、少女の体はけして安くない。きっと彼が気づいていないだけで、本当に彼のことを思って心の闇を晴らしてあげたい健気な子はいたはずだ。
「きっついな~…でもしゃあないやん」
彼は傷ついたように苦笑いしながら、私の指先に口づけた。
「でも本心でなくてもなんでも、俺が君の言葉に救われたのは確かで、もう君以外見られないんだからしゃあないやん」
「……」
火曜日。
「今日は僕の番だね」
そっと私の髪に口づけを落とすのは、王子様然とした副会長。
万能な会長にコンプレックスを抱いていて、自分の良さを見つけてくれたヒロインに魅かれる。
「…ねぇ、私は『副会長は優しいし、一緒にいると安心する』っていったけどさ」
「うん」
「優しさって基準あいまいじゃない?誰にでも使える誉め言葉だよね。一緒にいると安心するって、それさ、結局『あなたは会長より劣っているから劣等感あまり刺激されないんですー』っちゅーことでない?そんな言葉に魅かれるのおかしいよね」
「うん、でも僕はそれが嬉しかったんだ」
副会長は全く動じることなく私の髪を手ですいた。
「君がどんなに僕を傷つけようとしても、無駄だよ。もう僕は、君の言葉ならなんでも嬉しいんだ」
「……」
水曜日。
「…今日は、俺…」
そう言って、鉄仮面のような表情を僅かに緩めながら私を抱きしめる、大男。
口数が少なく、表情も変わりにくい故に遠巻きにされていた彼は、自分の言いたいことをすぐに理解して無邪気に話しかけてくれるヒロインに魅かれる。
「…本当いうとね、私は君の言いたいこと、さっぱりわかんない」
「…」
「今まではゲームで選択肢を選んだから、分かったの。だけどゲームがエンドを迎えたら、もうさっぱりわかんねーわ」
「…お前が好きだと、そう考えている…」
彼は私を強く抱きしめながら、感情の分からない黒曜石の瞳を私に向けた。
「…伝わらない、なら、伝える努力を、しよう…どんなお前でも、好きだ…」
「……」
木曜日。
「今日は俺だな」
そう言って私の顎を掬うのは、どこぞのチームの総長だとかいう強面の不良。
誰もが怖がる彼に、平気で声を掛けて近寄ってきたヒロインに魅かれる。
「私は、本当はあんたがめっちゃ怖い」
「ああ?」
「そのすごんだ顔とか、喧嘩が超つえーとことめっちゃ怖いっ!!てか不良なんて、正直関わったことねー人種だよ!!別の生き物だよ!!ふつーに怖ぇよ!!」
「…じゃあ、もっと怖がれよ」
口端を吊り上げて犬歯をむき出しにして笑う凶悪な表情に、ひっと悲鳴をあげて後ずさりしようにも、拘束した手がそれを許さない。
喰らう着くように、その犬歯が私の耳をかじる。
「もっともっと怖がって、俺に逆らえないようになればいい…俺の言葉にだけ、逆らえないようになればいい。そうなりゃあお前は俺だけのもんだ」
「……」
金曜日。
「ようやく、私の日になりましたね」
そう言って微笑みかけるのは、白衣を着た保険医。
彼は子犬のように懐いてきて、頻繁に保健室に通ってくるヒロインに魅かれる。
「…先生ルートって鉄板だけど、インコ―じゃね?犯罪じゃね?」
「だから私は貴女には手を出して無いでしょう。貴女が高校を卒業するまで待っています」
「教育委員会訴えられれば、一発で免職じゃあ…」
「それも悪くは無いですね」
そう言って保険医は、私をベッドに押し倒した。そっと頬に触れるだけのキスを落として、彼は囁く。
「そうなったら、私は何の遠慮もなく貴女を貪れる…その時は覚悟しとけよ?」
「……」
土曜日。
「休日が俺の番だとはラッキーだな」
そう言って口端を吊り上げるのは、会長。
こいつが、一番分からない。
万能故に何にも興味を持てなかった彼は「なぜか」ヒロインに魅かれる。明確な理由もなく、運命的に。
「…本当、どいつもこいつも、頭おかしい」
「何故そう思う?」
「どう考えても、私は愛されるような女じゃねーのに、愛を囁き続けるところが」
私は愛される類の女じゃない。
自分勝手でわがままで、趣味にふけって自分の世界にこもることで安息を得るような小さな女。
自分が異性に献身的愛を捧げられるような女じゃないことなんか、前世でよくわかっている。
「……だけど、気持ちいいだろう?」
そう言いながら、会長は私の頬をそっと撫でる。
なんとゆーか手つきがエロい。
「極上の男達に囲まれて、真摯に愛を囁かれるのは心地よいだろう?自尊心が満たされるだろう?自分が世界に必要な人間だと、特別な人間だと思えるだろう?」
「……」
「俺達が頭がおかしいっつーなら、お前もおかしくなりゃいい。おかしくなって、ただ与えられる快楽に溺れりゃいい」
そう言って、撫でた頬を会長は舌で舐めあげる。
知恵の木の実を食べるようにイブを唆した蛇は、きっとこんな感じだったのだろうか。
この男は隙あらば、 私の何もかもをさとっているかのように、こんな誘惑を投げ掛けてくる。
まるで悪魔みたいに美しい男。
「……そして溺れきったところで、捨てるのか。自分を玩んだ女に復讐とか、ケツの穴が小さい男がすることだぜ。そんな不毛なことに時間費やすなら、別の良い女見つけなよ。」
「ちげーよ。…たく、本当にひねくれた女だな。てめぇは。口も悪ぃ」
ひきつった笑いを浮かべ、茶化すように発した言葉に呆れたようにため息を吐きながらも、会長は愛撫を止めようとしない。
「だけど俺は、そんなてめぇが好きで好きでしょうがねぇ」
そう言って会長は、私に覆い被さってくる。
向けられる肉食獣のような、ぎらついた目が、怖い。
「溺れちまえ。壊れちまえ。俺だけ、俺らだけ狂っているのは不公平だ。何も考えるな。ただ与えられる快楽にだけ身を任せていろ。壊れたら、駕籠に入れて大事に大事に飼ってやる。他の奴らがお前に飽きたとしても、俺だけは一生お前を愛してやるから」
ああ、ああ、本当に、どいつもこいつも。
プログラミングされた愛を囁く男達に、私は恐怖する。
怖い
怖い
この世界は、怖い。
前世も世界は怖かった。
恵まれた人間だけが謳歌できて、私にはちっとも優しくない世界が怖かった。
世界は理不尽で不条理だ。だけど、それは当たり前だ。
世界には何十億もの人間がひきめしあっていて、自分はその中の一人に過ぎないのだから。私はちっとも特別な存在ではなかった。
だけど、この世界は私がヒロインの世界だ。私の為に存在している世界だ。私がひたすら愛されている世界だ。
おかしいじゃないか。何だその狂った世界は。私はちっぽけで、愛される要素なんてほとんどない人間なのに。
この世界は私の妄想なのか?
否、違う。
この世界の人間は、私の妄想じゃなく、ちゃんと生きて存在している。だからこそ、世界は私の思いのままにはならない。
じゃあ、私は特別な人間なのか?
そんなはずない。私は私のまま、姿をのぞいて前世のまま変わらないのに。そんな人間が、生まれ変わったというだけで、特別な人間であるはずがない。
ゲームの強制力が支配する世界。
この世界は狂っているのだ。
狂った世界は、正されなければならない。
前世で見た、乙女ゲーム転生の亜種のように、ゲームにはなかった要素である、誰かが。
私から、私を愛する男達を引き離すことによって。私を悪として断罪することによって。
怖い
怖い
怖い。
特別な存在だと、愛するべき存在だと持ち上げるだけ持ち上げて、やがて掌を返すように私を奈落に突き落とすであろうこの世界が、怖い。
逆ハーエンドなんて、選択肢を選んだ私が悪いのか。
いろんな男にちやほやされたい、愛されてみたいと思うのは、普通だろう。
それに一人を選んで、その人に夢中になって、ある日突然夢が覚めたかのように突き放されるのが怖かった。
選ばれなければ、依存しなければ、例えゲームの強制力が終わっても、さして傷付かなくて済むでしょう?
「別に私のってわけじゃなかったし」と自分に言い訳が出来るでしょう?
傷つきたくないが故の選択だ。私の何が悪い。
……いや、それで結果的に複数の人間の気持ちを玩んだのだから、やっぱり私が悪いのか。
でも、こんな風に、全員で共有するとか、そんな風にエンディングが歪むなんて、思わないじゃないか。
ゲームさえ終われば、きっと皆夢から覚めるのだと、覚めなければ誰かが醒ますのだと、そう思うじゃないか。
私は悪くない。
……いや、やっぱり、そもそもゲームの攻略キャラに関わろうとした自分が悪かったのだ。
私は、ゲームを拒絶するべきだった。
攻略キャラに関わらず、ひっそりと過ごすべきだった。
そうすればこんな風に、世界は歪まなかっただろうに。
言い訳で自分を正当化しても、悲劇のヒロインぶって嘆いても、涙を流して反省しても、狂った世界は元には戻らない。
私じゃ、もうどうにもならない。
この狂った世界を正せるのは、きっとこの世に一人だけだ。
日曜日。
今日は私だけの日。
お洒落をして、駆け足で目的な場所へ向かう。
「げっ、糞女!!」
私の顔を見て、心底嫌そうな顔をする、いつもの彼にほっとする。
彼のゲーム内でのあだ名はカイザー。学園で誰よりも権力を持つ、ゲームの隠れキャラだ。
彼のルートが、逆ハーエンドを覆すことが出来る唯一のエンドなので、私は彼を必死に探した。
彼は、私と同じ転生者だった。妹がこの世界の元になっているゲームのユーザーだったらしく、彼は面倒ごとに巻き込まれるのを嫌って地味な変装をして家柄を隠していた。
そんな彼を、私は自分の私利私欲の為に追い回す。
「ふははは、デートイベントゲット~!!」
「やめろっ!!黙れ、糞女!!」
イベントが発生すれば、ゲームの強制力が働く。
彼は、その流れにはけして逆らえない。
だけど、イベントが終わった後、私が彼に尋ねる問いに、彼が答える言葉は、いつも同じだ。
「ねぇ、私を好きになった?」
「誰がなるか!!」
その言葉に、私は満たされる。
それでいい。それがいい。
君はけして、私を好きになるな。好きになっては、いけない。
私を好きにならず、ゲームの強制力を拒もうとする君だけが、きっとこの世界を壊して、正せるのだから。
ゲームのストーリーを、不確定な因子として捻じ曲げられるのは、ゲームの存在を知る「転生者」だけ。
だけど、転生者のヒロインである私は、ゲームの逆ハールートにのっとった行動を取った。
同じ転生者である心友のまもりんも、きっと友達だと思ってくれているのはゲームのせいだけではないと信じているけど、それでも彼女は「サポートキャラ」に乗っ取った行動を取っている。
君だけだ。
君だけが、このゲームの世界に必死に抗おうとしている。
そんな君だけが、きっとこの狂った世界を正せる。
最初は本当に、彼のルートを攻略すれば、逆ハーメンバーの執着から解放されると思っていた。
だけど君はゲームの強制力に縛られながらも、それに抗い、私を愛することを拒絶した。
もし、君が、最終イベントを迎えてもなお、私への愛を拒絶すれば。
きっと、この狂った世界は、崩壊する。
全てが、正しい状態へと、戻る。
私は、惨めで誰からも愛されない、前世のままの自分に戻るのだ。
それは、きっと、正しい、本来の世界の在り方だ。
「カイザー、カイザー」
「…何だ」
「私を愛さない、君が好きだよ」
「…頭湧いてんのか」
「そうやって暴言を返してくれる君が、溜まらなく好きだ」
君が、好きだ。
だから、けして、けして、私を愛してくれるな。
歪み狂った世界で、与えられる愛に溺れそうになる私を、ただ君だけが正気に引き戻すのだ。
世界に身を任せて狂いそうになる私を、私を拒絶する君だけが、ただ。
ヒロイン:
卑屈なエゴイスト。自己中心的な自分を自覚していて大嫌い。
自分を愛するような奴は、本気で頭がおかしいと思っている。
傷つきたくない故に、常にネガティブ思考を貫く。
カイザー:
不憫系常識人。隠しキャラ
平和に暮らしたい。
実はヒロインに絆されつつあるが、それをヒロインが知ったら発狂する。
チャラ男:
攻略キャラ1
実はいまだ、過去の遊び相手とは続いている為、ヤンデレ度は低い。
それでもヒロインじゃなければ満たされないと感じている。
副会長:
攻略キャラ2
「プログラミングされた恋心」の主人公。
闇堕ち系ヤンデレ。
最近はヒロインの脅えが分かってきて
そんな姿も可愛いと、ドエス心が芽生えてきた。
大男=わんこ:
攻略キャラ3
感情の起伏が少ない故に、病まずに健気わんこになっている。
実は前世のヒロインの推しメンな為、罪悪感が一番あるキャラ。
不良:
攻略キャラ4
ゲームで唯一ヤンデレ分岐がある、暴力系ヤンデレ男。
共有に一番納得していない。
カイザーかヒロインを刺すなら、間違いなくこいつ。
ヒロインが自分以外の誰かの物になるなら、殺したいと思っている。恐怖
保険医:
攻略キャラ5
二重人格が公式設定。
大人だし、ヒロインには卒業するまで手を出さないと決めている為ヤンデレ度は低い。
しかし、一度箍が外れれば、どうなるか未知数。
生徒会長:
攻略キャラ6
ゲームでは、メイン攻略キャラ。
それ故に、理由なくヒロインに恋に落ちる。
天才で察しが良いため、ゲームのイベント時に既にヒロインの本性を把握して、それでもなお恋に落ちた。
現時点で一番のヤンデレ。ヒロインの精神を壊したい。
本性を知ったうえで恋に落ちたため、他のメンバーがヒロインに興味を失っても、自分だけは彼女を愛し続ける自信がある。
寧ろ、そうやって自分ひとりでヒロインを独占することを望んでいる。