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ドラゴンになった僕の今  作者: 龍骨埋没
1章 呼ばれるドラゴン
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6  街 と 街長

 トオルは不格好ながらも我が家をつくった。

 ぐっすりと寝て、昼過ぎに空へ飛び出す。

 気持ちのよい天気は心を晴れやかにしてくれるから、トオルは好きだ。

 小鳥の群れの隣を飛び、それを見送ると街を探す。できればモノが流通していそうな場所が好ましい。


「裸だけど・・・・・・大丈夫だよね」


 ドラゴンが人前に出ると問題が起きないか?

 そもそも人間はドラゴンと友好的な関係を築けているのだろうか?

 わからない部分は多いものの、行ってみなければ始まらない。

 石造りの街を見つける、沢山の人が歩き馬車などで荷物が運搬されている。

 物流がありそうで買い物もたっぷり出来そうだ。もっとも金銭は持ち合わせていない。だから通貨についても知らなければならないだろう。


「ドラゴンって人間を食べるのかな?」


 トオルは体こそプライマル・ドラゴンであるが、人間から転生し記憶をすべて引き継いでいる。そのため人間を食べる気になれない。というか意思疎通ができる相手を胃袋に収めるなど食人行為カニバリズムは身の毛がよだつ。


「うぅぅ・・・考えただけで鳥肌たっちゃうよ」


 体毛はないがトオルは『ぞっ』とし身震いする。

 本能が人間を恐れることはないし、食欲が湧くこともない。

 自分の白い水晶さながらの色をした鱗が生えわたる体を眺めた。腹回りや手のひらは鱗というよりは肌質に近い質感をしているため、なめらかな感触。爪の生える両手足に長い尾。空を羽ばたく翼に頭に生えた2本の角。突き出したドラゴンらしい口と鋭い牙。


「この顔だと・・・怖がられるかな?」


 手で顔や肩などに触れ、頭の横に触れてみた。

 人間とは似ても似つかない存在になっているのに人間の元へ行くのは、如何なものか。

 そもそも言葉が通じるのか、それすらもわからない。けれど、行ってみよう。


「大丈夫。大丈夫。でも・・・いじめられたりしないかな? そ、そんなことないよね? それに僕は強いしいじめられても逃げられる」


 とにかく街の端っこに向かう。

 こちらに気づいた人間が指をさしていた。

 それから、驚きに腰を抜かした初老と目を合わせる。


「あの、お尋ねしたいんですけど・・・・・・」


 友好的な笑みを浮かべてみたのだが、老人は地面に尻もちついた。


「ドラゴンが街にきたぞぉおお!!」


 っと大声をあげた。

 驚愕の表情を見たトオルは瞳孔を細め背筋を震わす。

 人々が蜘蛛の子を散らすような大騒ぎ。

 悲鳴をあげ逃げる者や荷物を投げ捨て隠れる者が続出した。

 トオルはあたふた手をふり首をふる。


「あの、べつに、なにもしないです・・・」


 両手をつきだし首を何度も横に振ったものの、人々はほとんどが去ってしまった。

 それから棒立ちになり、友好的な笑みを浮かべたつもりの顔を両手で触ってみたが、裂けた口でおこなわれる笑顔。それはきっと、怪物が食肉を見つけた嘲笑いに見えるのだ。

 先ほどまで賑やかだった街は静まり返り、大人の慌てふためきように驚いた子供の泣き声や建物の間に吹いた風のがひびいている。


「あの、僕は・・・ただ、ちょっと・・・」


 強靭な体を持つプライマル・ドラゴンであるが、精神的なモノで胃が縮まる想いだった。


「ちょっと・・・えっと・・・」


 トオルは言葉が続かない。

 街の人々の一部は、既に逃走してしまったし、恐怖した老人の叫びがそのまま辺りに伝染した。そのせいか恐慌した人々は腰を抜かして立ち止まっている者もいる。


「ドラゴンよ! どうか、私の話を聞いて欲しい!」


 白髪の混じる男性が、遠くから近づいてきた。


「私は街長をしているものだ! いったい、どんな要求があってここに出向いた!?」


 話が通じる相手がいてくれた。

 街長は威風堂々とあらわれ、周囲の人間と違い対話の準備をしてくれている。今わかったのは人間とドラゴンは言葉が通じること。そして人間はドラゴンを怖がることだった。


「食料を差し出せというのか! それとも道具か! 古風にも生贄を所望するか!」


 堂々とし過ぎな街長の声はトオルを縮こまらせる。体育会系の教師を思い出し、なんとも微妙な気持ちになった。それでも負けじと、喉から声を搾り出す。


「あの、僕は・・・」


 トオルは生唾を飲んで、可能な限り、堂々と言った。


「どこかで、バイトさせて欲しいんです!」

 

 働かざる者、食うべからず。

 そして窃盗は悪いおこないである。

 トオルは本が欲しい。椅子やベッドといった日常生活の必需品が欲しい。

 それは買わねば手にはいらないが、この世界の金銭感覚が全くない。

 くわえて手持ちは一銭も持ち合わせがない。だから、働こうと決めていた。


「・・・・・・そんだけ?」


 街長は呆けていた。

 しかしそれ以外に目的が無いトオルは、うなずくだけだ。

 何度も何度も首を縦に振り続け、最後にこう付け加える。


「できれば日雇いがいいんですけど、僕に出来そうな仕事はありますか?」


 街長は胸元で手を組み言いづらそうにしているドラゴンを目に入れ、毒気を抜かれたのか目を天にしてから、豪快に笑い出す。


「あ、はは! あはははははは! い、いくらでもあるとも! 力仕事でも、なんでも」


 トオルは微笑み歩き出す。

 街長は手招きすると、仕事先を工面しよう。そう言ってくれた。


(ああ、よかった・・・)


 多少のアクシデントはあったものの。

 トオルの内気な態度を見て、このドラゴンは自分たちを害するものではないと悟ってくれたらしい。

 人々は先ほどと同じように荷物を運んだり、家に帰ろうとしたりしていた。腰を抜かし叫んだ老人は子供の肩を借り移動をはじめている。


「すまなかった。数年前にドラゴンがこの街を荒らしまわってね。みんな、過敏になっているんだ」


「そうだったんですか。大変だったんですね」


 トオルは彼らの驚きようを理解し、同情する。


「また、ドラゴンが来るんですか?」


「いいや。ドラゴンスレイヤーが首をちょんぎってくださった。もう二度と悪さも出来ないよ」


「・・・・・・」


 ドラゴンスレイヤー。

 恐らくはドラゴン専門の殺し屋か何かなのだ。

 トオルは尾を股に入れかけ、苦く笑うのだった。


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