4 白衣 と 子供
風の強い夕暮れどき。
トオルは巣立ち、新天地を目指していた。
それを下界から覗く人物がひとり。
「あらまぁ、若いドラゴンがはりきっちゃってまぁ」
樹木の枝に腰掛けながら、甲高いキイキイ声をあげた男性がいた。大事そうに持った双眼鏡をのぞき、夕焼け空に飛んでいるドラゴンを見物している。ずいぶんと、楽しそうにはしゃいでいた。見ているこっちまで愉快になるほど、ウキウキしている。
「あれがプライマル・ドラゴン・・・はじめてみましたよん」
彼はボロボロの白衣を着ていて、科学者風の外見をしているのだ。
病的に色白な肌をしている。双眼鏡を離せば両眼はどことなく虚ろだ。生きながら死んでいる、そんな危うい印象を見る者に与えるであろう。
「なんだい、なんだい、森林じゃなくて崖にあったのか。そんなの聞いてありません。卵がかえってたなら、ワタシの行動ぜぇんぶ無意味じゃん」
子供っぽい口調でふてくされる。
噂ではプライマル・ドラゴンの卵が森林に隠されているとのことだったが、場所は崖に横穴を開けつくりだした洞穴にあったらしい。先ほど、巣立つ前の音で位置がわかった。崩れた壁は今だのに土煙と、水晶の破片を飛ばしている。間違いなくプライマル・ドラゴンの卵を隠していた巣だ。
「あぁ、プライマル・ドラゴンの数は少ないっていうのにさ。どぉしてくれちゃうのまったく!」
強靭なドラゴンの体は鱗から骨、血の一滴まで薬や防具の材料に使える。
特に雛が産まれたばかりの卵のカラは栄養価が高く長生きの薬として知られていた。莫大な金額で売却できるため、狙う者は後を立たない。
ドラゴンは人間と同様に知性、知能を持つ生物であるが、一部の生活は動物的で昔ながらの方法で赤子を育たせる。人間からすれば盛大な育児放棄にしか見えないし、卵を巣に隠し自立させる子育てを野蛮であると判断するドラゴンも増えてきた。いわゆる文化、伝統の廃れである。
だから、ドラゴンの卵を狙う者からすれば面倒になってくる。
今までは相当な時間と根気を使えば巣を暴き出せばものを、今では親が卵を守り、子供のドラゴンと生活するのだ。うかつに手を出せば、人間など難なく消されてしまった。
「あー、生まれたての雛の鱗を一枚。貰えたらよかったのにね。成長したんじゃ意味がぬぁい!」
口調こそ残念そうであったが、陽気に振舞っていた。
それは鱗が手に入れば良いな程度の感覚で探していたからだった。別に、ないならないで別の『素材』を見つければ良い。今後を前向きに考えていた。
「インディゴぉ」
双眼鏡を持つ男性に声をかける幼子がひとり。
木の根本に背をあずけたフリルだらけの衣装を着た少女がひとり。銀髪で赤い目をした、ゴシックロリータ調の少女であった。身長は100センチほどしかない。無表情であるが、どことなく退屈そうな雰囲気をかもしだしている。
「おなかへった」
「おおぉ!! プリティィィガール! ラブリーガァアルッ! わかったよ、なんでも作っちゃう!」
樹の枝から飛び降りた白衣の男性。インディゴと呼ばれた人物はゴシックロリータ調の少女を抱きしめると、高い高いと持ち上げる。
「しんどいからやめて」
少女は額にチョップして、インディゴは悶絶。
「いたぁああい!! セピアちゃんワタシ超いたぁい!!」
セピアと呼ばれた少女は面倒くさそうに息を吐き、一言。
「ざまぁ」